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平成17年仙審第62号
件名

旅客船第三仁王丸交通船すずかぜ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月3日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄,半間俊士,大山繁樹)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第三仁王丸船長 海技免許:六級海技士(航海)
B 職名:すずかぜ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第三仁王丸・・・右舷船首部外板に擦過傷
すずかぜ・・・左舷船首部などを圧壊 乗客が右肋骨を骨折

原因
すずかぜ・・・見張り不十分,狭い水道等の航法(避航措置)不遵守(主因)
第三仁王丸・・・過大速力,見張り不十分,狭い水道等の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,すずかぜが,見張り不十分で,狭い水道を航行中の第三仁王丸の通航を妨げたことによって発生したが,第三仁王丸が,過大な速力であったばかりか,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月4日13時30分
 宮城県仙台塩釜港
 (北緯38度20.12分 東経141度06.17分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船第三仁王丸 交通船すずかぜ
総トン数 188トン 4.5トン
全長 37.50メートル  
登録長   10.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 63キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第三仁王丸
 第三仁王丸(以下「仁王丸」という。)は,平成11年6月に進水した,航行区域を平水区域とする鋼製旅客船で,C社製造の主機を備え,プロペラ翼5枚の固定ピッチプロペラを有し,バウスラスタを装備するほか,航海計器としてレーダー1台及び衛星航法装置などを備え,航海速力は13.33ノットであった。
 また,操縦性能は,主機の出力状態が4/4で,舵角35度をとって左旋回のとき,縦距約35メートル,横距約20メートル及び最大旋回径約50メートルで,回頭時間は発令から90度回頭するのに要する時間が22.1秒,180度回頭するのに要する時間が41.8秒であった。また,同条件で右旋回のとき,縦距,横距及び最大旋回径は左旋回時と同じで,回頭時間は発令から90度回頭するのに要する時間が18.5秒,180度回頭するのに要する時間が35.8秒であった。
イ すずかぜ
 すずかぜは,平成14年10月に進水した,航行区域を限定沿海区域とするFRP製交通船で,D社製造の主機を備え,プロペラ翼3枚の固定ピッチプロペラを有し,航海速力は約15ノットであった。また,手動油圧の操舵装置があるほか航海計器など一切装備していなかった。
 また,運航方法は,港に待機し,客の要請に応じて運航する形態を取っていた。

3 事実の経過
 仁王丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,松島湾を50分で1周する,遊覧をさせる目的で,旅客10人を乗せ,船首1.30メートル船尾2.00メートルの喫水をもって,平成17年3月4日13時00分宮城県宮城郡松島町の松島観光桟橋を発し,石浜水道を経由する定期の巡航に向かった。
 ところで,石浜水道は,野々島と桂島で形成された狭い水道で,その最狭部は,水深が2メートル以上のところで,幅が約80メートル,長さが約800メートルで,北上するときには北西方に向けて航行する状況となり,また,野々島の野々島漁港は南西方を向いて開いており,その南側には東西の長さが約140メートルの柏木島が存在し,同水道を北上する船舶や野々島漁港から出港する船舶にとっては同島のため見通しが妨げられ,他船の有無を把握しにくい状況となっていた。
 13時29分半A受審人は,桂島の東方に位置する,樹林高さ78メートルの津森山(以下「津森山頂」という。)から014度(真方位,以下同じ。)420メートルの地点に達したとき,石浜水道の可航水域のほぼ中央を航行することとなる,針路を308度に定め,機関を全速力前進にかけ,周囲の見通し状況からすると過大な対地速力(以下「速力」という。)となる12.0ノットの速力とし,視界もいくぶん制限される状況でもあったところから,甲板員とガイドを昇橋させて操舵室での見張りに当たらせ,手動操舵により進行した。
 定針したときA受審人は,右舷船首28度230メートルのところに,前路を衝突のおそれがある態勢で左方に横切る態勢のすずかぜを視認することができたが,定時運航する巡航船の時間帯ではなかったので大丈夫と思い,周囲の見張りを厳重に行っていなかったので,このことに気付かず,速やかに速力を減じるなどの措置をとることなく続航した。
 13時30分少し前A受審人は,津森山頂から003度470メートルの地点に達したとき,操舵室の右舷側で見張りに当たっていた甲板員から右舷前方に前路を左方に横切る態勢のすずかぜがいる旨の報告を受け,右舷船首28度110メートルのところに,すずかぜを初めて視認し,平素からの指示通り,ガイドが直ちに汽笛を吹鳴したので,すずかぜが避航するのを期待して進行した。
 こうして,仁王丸は,A受審人がなおも直進するすずかぜに衝突の危険を感じ,機関を全速力後進,続いて左舵一杯としたが,及ばず,13時30分津森山頂から355度530メートルの地点において,船首が300度を向いた仁王丸の右舷船首部に,すずかぜの船首部が89度の角度をもって衝突した。
 当時,天候は雪で風力2の北北西風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,視程は約1,000メートルであった。
 また,すずかぜは,B受審人が1人で乗り組み,乗客1人を乗せ,船首0.40メートル船尾1.00メートルの喫水をもって,同日13時28分入り船状態で船首を東方に向けて係留していた野々島漁港を発し,桂島の石浜に向かった。
 ところで,B受審人は,発航するにあたり,折からの降雪で操舵室前面の左舷側や左舷側面の窓に雪が付着して周囲の見張りを著しく妨げる状況となっていたが,前部右舷側の窓に旋回窓が取り付けられていたので,同窓を使用すれば何とか航行できるものと思い,十分に除雪しないまま出港した。
 13時29分B受審人は,津森山頂から005度710メートルに地点に達したとき,針路を211度に定め,機関を半速力前進かけて7.0ノットの速力とし,立っていすにもたれた姿勢で,手動操舵により進行した。
 13時29分半B受審人は,津森山頂から001度620メートルの地点に至り,左舷船首55度230メートルのところに,自船の前路を衝突のおそれがある態勢で,北上する仁王丸を視認することができたが,旋回窓から他船が見えなかったので大丈夫と思い,一旦行きあしを止めるなどして周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,仁王丸の進路を避けることなく続航した。
 13時30分少し前B受審人は,津森山頂から358度570メートルの地点に達したとき,左舷船首55度110メートルのところに,仁王丸を視認することができたものの,窓を閉めており,かつ,自船の機関音が大きかったので,汽笛音が聞こえず,依然,このことに気付かないまま進行した。
 こうして,すずかぜは,B受審人が接近する仁王丸に気付かないまま続航中,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,仁王丸は,右舷船首部外板に擦過傷を生じ,すずかぜは,左舷船首部などを圧壊したが,のちいずれも修理された。また,すずかぜの乗客1人が右肋骨を骨折した。

(航法の適用)
 本件は,宮城県仙台塩釜港塩釜区第3区において,狭い水道である石浜水道を北上中の仁王丸と同水道を航過して石浜に向かって西行中のすずかぜとが衝突したものであるが,いかなる航法が適用されるかについて考察する。
 まず,本件発生時には,降雪があり,視界がいくぶん妨げられる状況にあったことから,海上衝突予防法における視界制限状態における船舶の航法が適用されるかについて検討する。A受審人の供述からも明らかなように,当時の視程が1,000メートル以上あったものと認められることから,両船の船型や運動性能を考慮すれば,互いに相手船を視認したのち,十分に衝突を避けるための措置をとることができたものと認められる。
 従って,互いに視野の内にある航法を適用するのが相当である。
 次に本件には,海上衝突予防法第9条のほか港則法の適用も考えられる。
 まず,港則法の適用の有無について検討する。港則法を適用するとすれば,考えられるのは同法第18条の雑種船の航法であるが,ここで問題となるのは雑種船の定義である。
 すずかぜを雑種船として扱うことは,総トン数40トン未満及び長さ20メートル未満を一応の目安とするならば問題とはならないと思われ,仁王丸については,命令の定める船舶交通が著しく混雑する特定港の小型船の範囲にあるが,専らその活動範囲を港内としている点においては雑種船であり,本港は船舶交通が著しく混雑する特定港でもない。雑種船や小型船の概念は,外洋を航行する航洋船に対する概念であるとすれば第18条を本件に適用するのは相当でない。
 したがって,本件には海上衝突予防法第9条を適用し,すずかぜを避航船とするのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 仁王丸
(1)A受審人が,速力を十分に落として航行しなかったこと
(2)A受審人が,周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(3)A受審人が,早期に衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 すずかぜ
(1)B受審人が,石浜水道に入る前に一旦停止しなかったこと
(2)B受審人が,付着した窓の雪を除雪していなかったこと
(3)B受審人が,天窓から顔を出すなどして周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(4)B受審人が,操舵室の窓を閉め切っていたこと
(5)機関音が大きく,仁王丸の警告信号が聞こえなかったこと

3 その他
 柏木島が見通しを妨げていたこと

(原因の考察)
 本件は,宮城県仙台塩釜港塩釜区第3区において,石浜水道を北上中の仁王丸と同水道を西行して横断しようとするすずかぜとが衝突したものであるが,以下その原因について考察する。
 A受審人が,見通しが著しく妨げられた石浜水道を北上するにあたり,速力を十分に減じたうえ,周囲の見張りを厳重に行っておれば,同船の運動性能から判断して本件は発生しなかったものと思料される。
 したがって,A受審人が,速力を十分に減じていなかったこと及び周囲の見張りを十分に行っていなかったことは本件発生の原因となる。
 B受審人が,窓に雪を付着させたまま発航せず,天窓から顔を出して周囲の見張りを行い,かつ,石浜水道に入る前に一旦停止して周囲の状況を確認しておれば本件は発生しなかったものと思料される。
 したがって,B受審人が窓に雪を付着させたまま発航し,天窓から顔を出して周囲の見張りを行わず,石浜水道に入る前に一旦停止して周囲の状況確認を行わなかったことは本件発生の原因となる。また,B受審人が,ドアを開けておれば,機関音が多少大きかったとしても仁王丸の警告信号を聴取できたものと思料され,ドアを開けていなかったことも本件発生の原因となる。
 柏木島が仁王丸に対しては右舷前方の,すずかぜに対しては左舷前方の見通しを妨げていたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,宮城県仙台塩釜港塩釜区第3区において,すずかぜが,見張り不十分で,狭い水道を航行中の第三仁王丸の通航を妨げたことによって発生したが,第三仁王丸が,過大な速力で航行したばかりか,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,宮城県仙台塩釜港塩釜区第3区において,窓に付着した雪のため,著しく周囲の見張りを妨げられた状況下,乗客を乗せて野々島漁港から桂島の石浜に向かう場合,柏木島の陰から現れる第三仁王丸を見落とすことのないよう,石浜水道の手前で一旦行きあしを停止するなどして周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,操舵室前部右舷側の旋回窓から他船が見えないので大丈夫と思い,周囲の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により,左舷方から接近する第三仁王丸に気付かず,衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き,自船の左舷船首部を圧壊させ,第三仁王丸に擦過傷を生じさせ,乗客に右肋骨を骨折させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,宮城県仙台塩釜港塩釜区第3区において,定期の巡航のため石浜水道を北上する場合,右舷方の柏木島で野々島漁港からの出港船の視認を妨げられる状況にあったから,すずかぜを見落とすことのないよう,速力を減じるなどして周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,巡航船の航行する時間帯ではなかったことから大丈夫と思い,周囲の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により,すずかぜを視認するのが遅れ,過大な速力のまま進行して同船との衝突を招き,前示損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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