(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月24日11時30分
佐賀県呼子港沖合
(北緯33度34.0分 東経129度54.6分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八伊豫丸 |
漁船第三日吉丸 |
総トン数 |
279トン |
2.85トン |
登 録 長 |
45.25メートル |
8.15メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,176キロワット |
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漁船法馬力数 |
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45 |
3 事実の経過
第三十八伊豫丸(以下「伊豫丸」という。)は,大中型まき網漁業船団に所属する漁獲物運搬船で,A受審人ほか7人が乗り組み,水揚げを終え,回航の目的で,船首1.8メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,平成16年11月24日09時45分長崎県調川(つきのかわ)港を発し,福岡県博多港に向かった。
ところで,伊豫丸は,船橋が上甲板上から約4.0メートル,操舵位置から船首までの距離が約36メートルあり,空倉時船尾トリムが大きくなると,航行中に船首ブルワークにより操舵位置から正船首の左,右方それぞれ約3度にわたる範囲に死角が生じる状況にあった。
発航後,A受審人は,乗組員を休息させて,自らは舵輪後方に立ち,単独で操舵操船に当たって青島水道から佐賀県加唐島南方水道に向け北上し,同県波戸岬北西方800メートルの地点を通過して11時22分加部島北方600メートルの地点に当たる,臼島灯台から305度(真方位,以下同じ。)1,680メートルの地点に達したとき,針路を臼島寄りの106度に定め,機関を全速力前進にかけ,11.5ノットの速力で手動操舵により進行した。
定針時,A受審人は,前方を一見して他船を見かけなかったことから,前路に航行の支障となる他船はないものと思い,その後船首を左右に振るなど,船首死角を補う見張りを十分に行わないで続航した。
11時28分A受審人は,臼島灯台から057度750メートルの地点に当たる,博多港北西方の福岡県西浦埼沖に向首する変針点に達したものの,左舷前方から加唐島南方水道に向けて西行する反航船があったことから,しばらく転針を遅らせることとし,そのとき,停留中の第三日吉丸(以下「日吉丸」という。)がほぼ正船首710メートルのところに存在し,衝突のおそれがある態勢で接近したが,船首死角を補う見張りを十分に行うことなく,このことに気付かず,そのまま進行した。
こうして,A受審人は,右転するなど日吉丸を避けずに続航中,ようやく反航船を替わして転針しようとしたとき,突然衝撃を感じ,11時30分臼島灯台から081.5度1,340メートルの地点において,伊豫丸は,原針路,原速力のまま,その船首が日吉丸の左舷船尾に後方から平行に衝突した。
当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,視界は良好であった。
また,日吉丸は,有効な音響による信号を行うことができる設備を有さないFRP製漁船で,B受審人(昭和51年5月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,一本釣りの目的で,船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日08時30分佐賀県小友漁港を発し,同県鷹島北東方沖合800メートルにおいてえさのイカを釣ったのち,10時00分前示衝突地点付近の漁場に到着し,機関を停止回転として船尾にスパンカーを掲げ,停留して釣りを始めた。
11時23分半B受審人は,前示衝突地点において,船首が106度を向いた態勢で停留し,右舷船尾に座って右舷前方を向いて釣りを行っていたとき,ほぼ正船尾1.3海里のところに来航する伊豫丸を初認したが,やがて,自船が停留中だから相手船の方で接近したら避けるものと思い,その後,同船の動静監視を十分に行うことなく,釣りを続けた。
こうして,11時28分B受審人は,伊豫丸が自船から約710メートルの地点まで接近し,衝突のおそれがある状況となったが,依然として,動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,機関を始動して右転するなど,衝突を避けるための措置をとることもなく停留中,同時30分わずか前伊豫丸の機関音等を聞いて後方を振り向き,衝突の危険を感じ,操舵室右側の通路に身を伏せたとき,日吉丸は,106度に向首して前示のとおり衝突した。
衝突の結果,伊豫丸は船首に擦過傷を生じ,日吉丸は船尾を大破し,プロペラ翼,同軸及び舵板に曲損を生じたが,のちいずれも修理された。
(海難の原因)
本件衝突は,佐賀県呼子港沖合において,東行中の伊豫丸が,見張り不十分で,前路で停留中の日吉丸を避けなかったことによって発生したが,日吉丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,佐賀県呼子港沖合において,博多港に向けて東行する場合,船首方に死角があったから,停留中の日吉丸を見落とさないよう,船首を左右に振るなど,船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,前方を一見して他船を見かけなかったことから,前路に他船はないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,停留中の日吉丸に気付かず,同船を避けないで進行して日吉丸との衝突を招き,自船の船首部に擦過傷を,日吉丸の船尾を大破させ,プロペラ翼,同軸及び舵板に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,佐賀県呼子港沖合において,魚釣りを行いながら停留中,来航する伊豫丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船が停留中だから相手船の方で接近したら避けるものと思い,伊豫丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,伊豫丸が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,衝突を避けるための措置をとらないでそのまま停留を続けて伊豫丸との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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