(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年7月17日07時30分
山口県角島南西方
(北緯34度19.7分 東経130度48.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船みはる丸 |
漁船一丸 |
総トン数 |
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2.5トン |
登録長 |
11.65メートル |
9.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
235キロワット |
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漁船法馬力数 |
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50 |
3 事実の経過
みはる丸は,船体ほぼ中央部に機関室と操舵室を,前部甲板下に魚倉などをそれぞれ有するFRP製遊漁船で,平成15年3月に一級小型船舶操縦士の免状の交付を受けたA受審人が1人で乗り組み,釣り客2人を乗船させ,船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同17年7月17日06時30分下関市吉見漁港を発し,角島北西方の釣り場に向かった。
A受審人は,発航後,操舵室の右舷側に設置された操舵用の椅子に腰を掛け,釣り客2人が前部甲板上に寝転んだ状態で,1.5マイルレンジとしたレーダーを作動させて操船にあたり,06時46分角島灯台から179度(真方位,以下同じ。)14.5海里の地点に達したとき,針路を353度に定め,機関を全速力前進にかけ,18.0ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
ところで,A受審人は,みはる丸が全速力で航行すると船首が浮上し,椅子に腰を掛けた姿勢では,正船首から左右両舷側約12度の範囲に水平線が見えなくなる死角を生じていたので,定針時船首方に他船を認めなかったものの,その後,3ないし5分間隔で椅子のステップの上に立ち上がって操舵室天井に設けられた開口部から上半身を出し,また,椅子に腰を掛けているときはレーダー監視を行って,同死角を補う見張りをしていた。
07時25分半A受審人は,角島灯台から205度3.1海里の地点に達し,椅子に腰を掛けた姿勢で操船にあたっているとき,レーダーにより船首方2,500メートルのところに一丸を探知し,同時27分半同灯台から212度2.6海里の地点で,天井開口部から上半身を出して肉眼により同船を初認したとき,同船が正船首方1,400メートルばかりのところに存在していたものの,自船の船首がわずかに右方に振れたときに一瞥(いちべつ)しただけで同船は正船首方より左側で停船しているから衝突のおそれはあるまいと思い,その後一丸に対する動静監視を行わなかったので,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,転舵するなどして同船を避けることなく,再び椅子に腰を掛けた姿勢で,釣果のことなどを考えながら続航した。
07時30分少し前A受審人は,レーダー画面上の一丸の映像が消えたことから,天井開口部から身を乗り出して同船を確認しようとして立ち上がろうとしたとき,みはる丸は,07時30分角島灯台から225度2.1海里の地点で,原針路,原速力のままその船首船底部が,一丸の左舷中央部に後方から83度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の初期であった。
また,一丸は,船体ほぼ中央部に機関室と操舵室を,前部甲板下に魚倉をそれぞれ有し,モーターホーン1個を装備した一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,平成14年3月に二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免状の交付を受けたB受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,同17年7月17日04時40分山口県特牛港を発し,同港西方の漁場に向かい,05時ごろ漁場である衝突地点付近に到着したのち,機関を中立運転として漂泊し,船尾甲板上で釣り糸を出して操業を開始した。
07時25分半B受審人は,潮上りののち衝突地点で,船首を西方に向けて再び操業を開始したとき,左舷正横方向2,500メートルのところに来航するみはる丸を初めて認めたが,自船が漂泊しているので接近する他船が避航すると思い,その後みはる丸に対する動静監視を行うことなく,操業に熱中した。
07時27分半B受審人は,船首が270度を向いていたとき,みはる丸が左舷正横後方7度1,400メートルのところに接近し,その後衝突のおそれがある態勢で接近していたが,依然,同船に対する動静監視を行っていなかったので,このことに気付かず,同船に対し警告信号を行うことも,更に接近するに及んで機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けた。
こうして,B受審人は,操業を続けていたところ,07時30分少し前ふと左舷方を見たとき,間近に迫ったみはる丸を認めて衝突の危険を感じ,機関を全速力後進にかけたが効なく,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,みはる丸は船首から中央部の船底にかけて擦過傷,左舷中央部外板に亀裂を生じたほか,推進器翼及び同軸に曲損等を生じ,巡視艇によって下関市吉母漁港に引き付けられ,一丸は機関室囲壁及び左舷中央部外板上部を損壊等したが自力で入港し,のちいずれも修理された。
(海難の原因)
本件衝突は,角島南西方において,釣り場に向け北上中のみはる丸が,動静監視不十分で,前路で操業しながら漂泊中の一丸を避けなかったことによって発生したが,一丸が,動静監視不十分で,みはる丸に対し警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,角島南西方において,同島北西方の釣り場に向け航行中,船首方に一丸を認めた場合,同船との衝突の有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,自船の船首が右方に振れたときに一瞥しただけで同船は正船首方より左側で停船しているから衝突のおそれはあるまいと思い,一丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,みはる丸の船首から中央部の船底にかけて擦過傷,左舷中央部外板に亀裂,並びに推進器翼及び同軸に曲損等を生じさせ,一丸の機関室囲壁及び左舷中央部外板上部の損壊等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,角島南西方において,操業しながら漂泊中,左舷正横方向に来航するみはる丸を認めた場合,同船との衝突の有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,自船が漂泊しているので接近する他船が避航すると思い,みはる丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船に対し警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとることなく,漂泊を続けて衝突を招き,前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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