(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月7日16時25分
福岡県仏埼北方沖合
(北緯33度37.4分 東経130度04.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船豊漁丸 |
モーターボート遊友丸 |
総トン数 |
12トン |
2.2トン |
全長 |
19.20メートル |
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登録長 |
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8.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
94キロワット |
3 事実の経過
豊漁丸は,2そうごち網漁の従船として操業に従事するFRP製漁船で,平成17年3月に一級小型船舶操縦免許証の交付を受けたA受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首1.0メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,平成17年6月7日04時00分主船と共に福岡県船越漁港を発し,05時ごろ烏帽子島東方沖合の漁場に至って操業を始め,鯛など90キログラムを獲ったところで操業を終え,16時ごろ漁場を発進して帰途に就いた。
A受審人は,発進後,針路を173度(真方位,以下同じ。)に定め,機関を全速力前進に掛けて12.0ノットの対地速力で,操舵室右舷側のいすに腰を掛け,左手で舵輪を操作して手動操舵で,自船より速力の速い主船に続いて南下した。
ところで,A受審人は,平素,約12ノットの速力で航走すると,自船の船首が浮上し,操舵室右舷側のいすに腰を掛けた姿勢では,船首方の両舷に渡って約16度の範囲で水平線が見えなくなる死角を生じることから,船首を左右に振ったり,レーダーを有効に活用するなどして同死角を補う見張りを行っていた。
16時22分半A受審人は,灯台瀬灯標から240度2.8海里の地点に達したとき,正船首方930メートルのところに,船首を北方に向けた遊友丸を視認でき,その後,同船がほとんど移動しないことから,漂泊中か錨泊中であることが分かり,同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが,漁場発進後,周囲に他船を認めず,平日なのでプレジャーボートも出ていないだろうと考えていたことから,前路に他船はいないものと思い,いすに腰を掛けた姿勢をとり続け,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,同船の存在も,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かなかった。
16時23分半A受審人は,遊友丸まで550メートルとなったが,依然として死角を補う見張りを十分に行わず,転舵するなどして同船を避けることなく,甲板員が行っていた魚の選別作業の進捗状況を確認するため,自動操舵に切り替えて船首甲板に赴き,操舵室を無人としたまま,同じ針路及び速力で続航中,16時25分灯台瀬灯標から231度3.0海里の地点において,豊漁丸は,その船首が遊友丸の船首に前方から7度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力1の北風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
また,遊友丸は,最大とう載人員10人の遊漁等に使用されるFRP製プレジャーボートで,平成16年2月に二級小型船舶操縦免許証(5トン限定)の交付を受けたB受審人が単独で乗り組み,同僚等3人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,同日05時00分福岡県岐志漁港を発し,仏埼北方沖合の釣り場に向かった。
B受審人は,05時30分ごろ目的地に至って投錨し,魚釣りを開始した。そして,何度か釣り場を変更したのち,15時00分水深約40メートルの前示衝突地点付近に移動し,重さ20キログラムの鉄製錨を船首から投入して錨索を70メートル延出し,機関を停止して黒色球形形象物を掲げないまま,右舷中央部で右舷方を向いて魚釣りを再開した。
16時22分半B受審人は,船首が000度を向いていたとき,左舷船首7度930メートルのところに,自船に向かって接近する豊漁丸を初めて認め,その後,魚釣りをしながら同船の動静監視を続けた。
16時23分半B受審人は,豊漁丸が,その方位に変化なく,衝突のおそれがある態勢のまま550メートルに接近したものの,依然として同船が避航の気配を見せなかったが,航行中の船舶が避けてくれるものと思い,避航を促すための音響信号を行わず,更に間近に接近したとき,機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとらずに錨泊中,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,豊漁丸は右舷船首外板に亀裂及び擦過傷を,遊友丸は船首部割損等をそれぞれ生じ,B受審人が右第8肋骨骨折を負った。
(海難の原因)
本件衝突は,福岡県北西部の仏埼北方沖合において,漁場から帰航中の豊漁丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中の遊友丸を避けなかったことによって発生したが,遊友丸が,避航を促すための音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,福岡県北西部の仏埼北方沖合において,漁場から帰航する場合,船首浮上によって前方に死角を生じていたのであるから,前路に存在する他船を見落とすことのないよう,船首を左右に振るなり,レーダーを有効に活用するなりして,船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,漁場発進後,周囲に他船を認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,同死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊中の遊友丸に気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,豊漁丸の右舷船首外板に亀裂及び擦過傷を,遊友丸の船首部割損等をそれぞれ生じさせ,B受審人に右第8肋骨骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。
B受審人は,仏埼北方沖合において,魚釣りをしながら錨泊中,衝突のおそれがある態勢で接近する豊漁丸を認め,同船が避航の気配を見せなかった場合,機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船は錨泊しているので,航行中の豊漁丸が避けてくれるものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,錨泊を続けて同船との衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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