(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月26日13時10分
博多港北部
(北緯33度38.6分 東経130度21.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
水上オートバイティー キノシタ |
水上オートバイアロアロ |
総トン数 |
0.1トン |
0.1トン |
全長 |
3.12メートル |
2.93メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
88キロワット |
114キロワット |
3 事実の経過
ティー キノシタ(以下「キノシタ」という。)は,平成15年9月に新規登録された最大とう載人員3人のウォータージェット推進式のFRP製水上オートバイで,操縦免許を取得していないA指定海難関係人が救命胴衣を着用して1人で乗船し,遊走の目的で,平成17年6月26日13時00分博多港第3区のCマリーナを発し,同マリーナの沖合で旋回や停止などの操縦練習を行ったのち,同時07分少し前同マリーナ沖合約300メートルの,福岡県西戸埼の北北西方約900メートルに所在する高浜三角点(標高13.52メートル)から266度(真方位,以下同じ。)1,640メートルの地点をアロアロに続いて発進し,海の中道大橋西方沖合に向かった。
これより先,B受審人は,A指定海難関係人ほか5人の知人とともにキノシタ及びアロアロを保管しているCマリーナに集まり,当初,同マリーナ沖合でウェイクボードを行う予定としていたが,南からの風浪を避けて東方へ約5海里の航程となる海の中道大橋西方沖合に移動することになり,5人の知人は自動車で移動先の海岸に向かうこととしたものの,A指定海難関係人が特殊小型船舶操縦士の免許を取得していないことを知っていたが,同人から海外で水上オートバイを一度操縦した経験があることを聞いていたことから,水上オートバイを2隻使用して遊走することを思い立ち,同人にキノシタの操縦を依頼した。
また,A指定海難関係人は,B受審人が操縦するアロアロに同乗して移動先へ向かうつもりでいたところ,同人からキノシタの操縦依頼を受け,操縦免許を取得していなければ水上オートバイを操縦してはならないことを知っていたが,アロアロの後について行けば大丈夫だろうと思い,同人からの依頼を断ることなく,停止方法など操縦について一応の説明を受けたのち,発航したものであった。
ところで,A指定海難関係人は,操縦免許を取得していなかったので,ウォータージェット推進式の水上オートバイでは,舵板がなく,ステアリングハンドルを操作することにより,同ジェットのノズルの向きが変わって舵効を得るようになっていることや,減速中に転舵するときは,同ハンドルを操作すると同時にスロットルレバーを一時的に増速状態として舵効を得たのち,スロットルを閉じてゆかないと,同ハンドル操作だけでは船体が直進状態を続けることも,また,高速力で航走中,クラッチを後進側に切り替えても,後進推力はほとんど得られないことも知らなかった。
発進時にA指定海難関係人は,針路を先に発進したアロアロの向きに合わせて118度に定め,スロットルを2分の1開とし,15.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,次第に離れていく同船を正船首やや左方に見ながら進行し,時折機関を停止しては自船の接近を待つB受審人に無難に操縦している旨を伝え,再び発進して先行するアロアロの右舷船尾方を同じ針路及び速力で追尾した。
13時09分52秒A指定海難関係人は,高浜三角点から207度885メートルの地点に達したとき,アロアロが左舷船首6度50メートルのところに停留したことを認め,この先から広い水域となるのでB受審人から説明があるものと考え,同船の傍に寄せて停止するつもりでステアリングハンドルを少し左に切って針路を112度に転じたところ,その後同船に向首して衝突の危険がある状況となったが,適切な操舵方法を知らなかったので,速やかにスロットルレバーを増速状態とすると同時に同ハンドルを右に切って舵効を確認したのちスロットルを閉じてゆくなどの減速措置をとらず,停留中のアロアロを避けることなく,スロットルレバーを徐々に減速側に操作しながら進行した。
13時09分58秒A指定海難関係人は,アロアロの右舷船尾方で停留するつもりで,ステアリングハンドルを右に切り,スロットルレバーを放してアイドリング運転としたところ,船体が直進するまま行きあしが止まらず,アロアロに向首したまま至近に迫り,衝突の危険を感じ,大声で叫んだものの効なく,13時10分00秒高浜三角点から204度880メートルの地点において,キノシタは,風浪を受けて船首が073度を向き,10ノットばかりの速力となったとき,その左舷船首部がアロアロの右舷中央部に後方から45度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力3の南南西風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
また,アロアロは,平成15年8月に新規登録された最大とう載人員2人のウォータージェット推進式のFRP製水上オートバイで,平成15年6月交付の特殊小型船舶操縦士の操縦免許を有するB受審人が1人で乗り組み,救命胴衣を着用し,遊走の目的で,同日13時00分Cマリーナを発し,同マリーナ沖合でA指定海難関係人に操縦の指導を行ったのち,同時07分わずか前同沖合を発進し,海の中道大橋西方沖合に向かった。
発進後,B受審人は,針路を西戸埼沖合に向け,23ノットばかりの速力で東進し,時折機関を停止して後続するキノシタの接近を待ち,A指定海難関係人に声をかけて同人の操縦の様子を確認しながら進行した。
13時09分11秒B受審人は,高浜三角点から218度890メートルの地点で停留状態とし,接近するキノシタの操縦の様子を見てA指定海難関係人が無難に操縦していることを確認し,同時09分30秒同船が右舷船尾方10メートルのところに接近したとき,発進して針路を118度に定め,23.0ノットの速力で続航した。
13時09分46秒B受審人は,西戸埼沖合の,高浜三角点から206度880メートルの地点に至り,キノシタが右舷船尾4度70メートルのところに追尾していることを認め,A指定海難関係人に同埼東方の水域について説明するため機関を停止し,キノシタの接近を待つこととした。
13時09分52秒B受審人は,前示衝突地点で行きあしが止まり,船首が118度を向いてたとき,キノシタが右舷船尾6度50メートルのところに近づいたところで,自船に向首しており,A指定海難関係人が減速中の転舵などができず,そのまま直進すれば衝突の危険があったが,機関を停止して後方を一瞥したとき,キノシタが自船の右方に向いていたことから,右舷方で停止するものと思い,前方の水域の状況を見ていて,キノシタに対する動静監視を十分に行わなかったので,同船が左転して自船に向首したことにより,衝突の危険が生じたことに気付かず,機関を始動して移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく停留を続けた。
13時09分59秒B受審人は,A指定海難関係人の叫び声を聞いて振り返り,右舷船尾至近に迫ったキノシタに気付いたが,何をする間もなく,アロアロは,停留状態で船首が118度を向いたまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,キノシタは,左舷船首部に凹損及び船首船底部に擦過傷を,アロアロは,右舷船首部及び同中央部に亀裂をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理され,B受審人が,35日間の入院加療を要する右脛腓骨骨折を負った。
(海難の原因)
本件衝突は,博多港北部において,キノシタが,無資格者によって操縦され,停留中のアロアロに接近する目的で,同船に向首して衝突の危険が生じた際,操舵方法が不適切で,同船を避けなかったことによって発生したが,アロアロが,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,博多港北部において,自船に追尾するキノシタを待ちながら停留する場合,無資格者が操縦して接近する状況であったから,衝突の危険が生じるかどうかを判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,機関を停止して後方を一瞥したとき,キノシタが自船の右方を向いていたことから,右舷方で停止するものと思い,前方の水域の状況を見ていて同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,キノシタが左転して自船に向首したことにより,衝突の危険が生じたことに気付かず,機関を始動して移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく停留を続けて衝突を招き,キノシタの左舷船首部に凹損及び船首船底部に擦過傷を,アロアロの右舷船首部及び同中央部に亀裂をそれぞれ生じさせ,自らが35日間の入院加療を要する右脛腓骨骨折を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A指定海難関係人が,博多港北部において,無資格で水上オートバイを操縦し,停留中のアロアロに接近する目的で向首し,衝突の危険が生じた際,適切な操舵ができず,同船を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては,無資格で操縦したことを深く反省している点に徴し,勧告しない。
参考図
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