日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年門審第92号
件名

漁船幸漁丸漁船和功丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:幸漁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:和功丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
幸漁丸・・・操舵室を圧壊して航海計器などが使用不能,右舷中央後部ブルワークに亀裂など
和功丸・・・船首部外板等に擦過傷

原因
幸漁丸・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守
和功丸・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守

裁決主文

 本件衝突は,幸漁丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,和功丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月11日13時05分
 大分県関埼北西方沖合
 (北緯33度18.8分 東経131度50.9分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船幸漁丸 漁船和功丸
総トン数 3.9トン 3.2トン
全   長 11.97メートル 11.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 121キロワット 209キロワット

3 事実の経過
 幸漁丸は,操舵室を船体中央やや後部に備えた,一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,平成15年9月交付の一級,特殊及び特定の各資格を担保する小型船舶操縦免許証を受有するA受審人が単独で乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年4月11日06時30分大分県神崎漁港を発し,同県関埼北西方沖合の漁場に向かった。
 ところで,関埼の北方から北西方沖合の海域は,毎年1月から4月にかけて,さばが小魚等を追って群れを成して浮上し,海面が直径10メートルないし20メートルでほぼ円状に波立ち隆起する状況(以下「なぶら」という。)が発生することから,地元の一本釣り漁業者のほとんどが,この期間,なぶらに取り付いて一本釣り漁に従事しており,なぶらが5分ないし10分で消滅することから,前のなぶらで操業しているときから,次に発生するなぶらを目視で探し,見つけたときは,機関を全速力にかけてこれに向かい,その周辺に停留し,竿先の釣糸に疑似餌を付けてなぶら上に投げ込み,さば釣りを行っていた。そして,同一水域に複数のなぶらが発生したときは,付近の一本釣り漁船が,同水域のそれぞれのなぶらに向かって航走するので,これらの漁船間において衝突の危険が生じやすい状況となっていた。
 07時ごろA受審人は,関埼の北西方3.6海里ばかりの漁場に至り,さば一本釣りの操業を開始し,付近海域を探索しては停留状態としての操業を繰り返し行い,それまでにさば10尾を漁獲し,13時04分少し過ぎ関埼の北西方4海里余りの漁場で操業していたとき,東南東方450メートル付近になぶらが発生しているのを目視で確認し,同なぶらに向けて発進した。
 13時04分16秒A受審人は,関埼灯台から314度(真方位,以下同じ。)4.05海里の地点で,機関を全速力前進にかけ,針路を同なぶらに向く115度に定め,15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し,船首端から約1メートル後方の船体中心線上に設けた係船柱の左舷側の,船首部隆起甲板上の後端に遠隔操舵操縦装置を置き,自らは同柱右舷側すぐ後方の船首部甲板上に立ち,身体を船体動揺に耐えられるよう同柱に寄り添わせて右手を隆起甲板上に置き,左手で同装置を操作し,手動操舵によって続航した。
 13時04分30秒A受審人は,関埼灯台から314.5度4.0海里の地点に達したとき,右舷船首77度180メートルのところに,北東進する和功丸を視認でき,同分45秒同船が右舷船尾89度88メートルに接近し,同船の方位が右方に変わりつつあるも,同船が一本釣り漁船であり,同じなぶらか,あるいはその近くに発生したなぶらに向かってほぼ全速力で向かっていることが分かり,なぶらに近づいたときのそれぞれの行動を考慮すると衝突の危険がある態勢であった。しかし,同人は,自船が向けているなぶらに既に2隻の一本釣り漁船が接近していることを確認していたことから,これら以外に同なぶらに向かっている他船はいないだろうと思い,なぶらの移動方向を推測することに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,和功丸に気付かず,速やかに行きあしを止めるなどして衝突を避けるための措置をとらずに進行した。
 13時04分48秒A受審人は,自船の向かっているなぶらが北西方に移動していると考え,また,既に2隻の漁船が同なぶらに取り付いたことから,至近まで近づくことをあきらめ,その手前で釣竿を準備して同なぶらを待ち受けようと考え,機関のクラッチを中立としたとき,和功丸が右舷船尾83度71メートルのところに接近していたが,依然として見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま惰力前進中,ふと右舷方を見たとき至近に和功丸を初めて認め,急ぎクラッチを前進に操作したが,及ばず,13時05分00秒関埼灯台から315度3.9海里の地点において,幸漁丸は,原針路のまま,残存速力が約2ノットになったとき,その右舷中央後部に和功丸の左舷船首が後方から50度の角度で衝突し,和功丸が幸漁丸に乗り上げた。
 当時,天候は曇で風力2の北風が吹き,視界は良好であった。
 また,和功丸は,船体中央やや後部に操舵室を,船首部に長さ約1.6メートルのやり出し甲板を備えた,一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,平成14年1月交付の一級小型船舶操縦士の免状を受有するB受審人が単独で乗り組み,操業の目的で,船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,同日07時00分大分県小黒漁港を発し,08時ごろ関埼の北西方約4海里の漁場に至り,さば一本釣りの操業を開始し,付近海域を探索しては停留して釣りを行う操業を繰り返した。
 13時04分半少し前B受審人は,それまでにさば13尾を漁獲し,関埼の北西方4海里足らずの漁場で操業していたとき,東北東方300メートル付近になぶらが発生しているのを目視し,やり出し甲板の前端から約3メートル後方の,船首部隆起甲板後端の船体中心線上の両側にわたって船横方向にアーチ型に設けたステンレスパイプ製の手摺りの,右舷側すぐ後方の船首部甲板上に立ち,右手で隆起甲板後端の右舷側に設けた機関遠隔操縦レバーを操作し,左手で同手摺りの専用金具に掛けた遠隔操舵装置を操作して手動操舵とし,同なぶらに向けて発進した。
 13時04分30秒B受審人は,関埼灯台から313度3.95海里の地点で,機関を全速力前進にかけ,針路を同なぶらに向く065度に定め,15.0ノットの速力で進行していたとき,左舷船首53度180メートルのところに,南東進する幸漁丸を視認でき,同分45秒同船が左舷船首39度88メートルに接近し,同船の方位が右方に変わりつつあるも,同船が一本釣り漁船であり,同じなぶらか,あるいはその近くに発生したなぶらに向かってほぼ全速力で向かっていることが分かり,なぶらに近づいたときのそれぞれの行動を考慮すると衝突の危険がある態勢であった。しかし,同人は,自船が向けているなぶらに他船は未だ気付いていないと感じていたことから,誰よりも早く同なぶらに取り付こうと思い,前方のみを凝視して,周囲の見張りを十分に行わなかったので,幸漁丸に気付かず,速やかに行きあしを止めるなどして衝突を避けるための措置をとらずに続航した。
 13時04分48秒B受審人は,依然として前方のみを凝視していたので,左舷船首33度71メートルに接近した幸漁丸が,減速し始めたことに気付かないでいたところ,同分52秒船首部船底が波を受けた衝撃で甲板上に仰向けに転倒し,起き上がったとき,前方至近に幸漁丸を初めて視認し,急ぎ機関のクラッチを中立,続いて後進に操作したが,効なく,和功丸は,原針路,ほぼ原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,幸漁丸は操舵室を圧壊して航海計器などが使用不能となったほか,右舷中央後部ブルワークに亀裂などを生じたが,のち修理され,和功丸は船首部外板などに擦過傷を生じた。

(海難の原因)
 本件衝突は,大分県関埼北西方沖合において,両船が一本釣り漁で操業中,南東進する幸漁丸と北東進する和功丸とが衝突の危険のある態勢で接近した際,幸漁丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,和功丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,大分県関埼北西方沖合の一本釣り漁船が多数操業する海域において,同操業に従事中,見つけたなぶらに向けて全速力で南東進する場合,他の同業船も同なぶらかあるいは近くに発生したなぶらに向かう状況であったから,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船が向けているなぶらに既に2隻の同業船が接近しているのを確認していたことから,これら以外に同なぶらに向かっている他船はいないだろうと思い,なぶらの移動方向を推測することに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,和功丸と衝突の危険が生じたことに気付かず,これを避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き,幸漁丸の操舵室を圧壊して航海計器などを使用不能とならしめるとともに右舷中央後部ブルワークに亀裂などを生じさせ,和功丸の船首部外板などに擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,大分県関埼北西方沖合の一本釣り漁船が多数操業する海域において,同操業に従事中,見つけたなぶらに向けて全速力で北東進する場合,他の同業船も同なぶらかあるいは近くに発生したなぶらに向かう状況であったから,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船が向けているなぶらに他船が未だ気付いていないと感じていたことから,誰よりも早く同なぶらに取り付こうと思い,前方のみを凝視して,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,幸漁丸と衝突の危険が生じたことに気付かず,これを避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:21KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION