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平成17年広審第76号
件名

漁船広丸漁船源星丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月23日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一,川本 豊,道前洋志)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:源星丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
広丸・・・船尾部甲板に亀裂を伴う割損
源星丸・・・船首部外板に擦過傷

原因
源星丸・・・飲酒運航防止措置不十分

主文

 本件衝突は,源星丸が,飲酒運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年2月23日00時10分
 愛媛県宇和島港
 (北緯33度14.1分 東経132度32.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船広丸 漁船源星丸
総トン数 14.40トン 9.7トン
全長   14.60メートル
登録長 12.25メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 80 90
(2)設備及び性能等
ア 広丸
 広丸は,昭和55年7月に進水し,船体後部に操舵室を有して養殖漁業に従事するFRP製漁船で,愛媛県宇和島港北西部に位置する大浦地区の入り江で,北北西方に向けて設置された長さ11メートル幅4メートルの浮き桟橋に係留されていた。
イ 源星丸
 源星丸は,平成3年5月に進水し,宇和島港西方沖合に位置する愛媛県九島南岸の九島漁港を係留地として養殖漁業に従事するFRP製漁船で,操舵室が船体後部に設置されて前方に見張りの妨げとなる構造物はなく,同室前部中央に舵輪を,その右舷側にクラッチレバーなどの機関操縦装置をそれぞれ備え,自動操舵装置はなく,同室後部には右舷から左舷まで床面からの高さ75センチメートルの木製台を設置していた。
 速力は,機関を回転数毎分2,200として18ノット,同1,300として10ノットであった。

3 事実の経過
 広丸は,船首0.3メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,平成17年2月22日10時30分宇和島港戎山防波堤灯台(以下「戎山防波堤灯台」という。)から353度(真方位,以下同じ。)950メートルの地点で,宇和島港大浦地区の前示桟橋に335度に向首し,係留索3本をとって入船右舷着けされ,翌23日00時10分同地点において,無人で,灯火を点けないで係留中,その左舷船尾に,源星丸の左舷船首が後方から47度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の南南東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 また,源星丸は,A受審人が単独で乗り組み,係留地に帰航する目的で,船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,23日00時03分宇和島港南西部のB組合製氷部前の桟橋(以下「製氷部前桟橋」という。)を発し,九島漁港に向かった。
 これより先,A受審人は,22日夕刻源星丸を製氷部前桟橋に係留し,B組合で行われた同組合魚類養殖部会の講習会に出席したのち,19時20分から23時40分までの間,宇和島市内の飲食店3軒でビールや焼酎を飲んで酩酊状態となり,翌23日00時00分タクシーで同桟橋に到着したが,九島漁港までの運航に慣れているので大丈夫と思い,発航を中止するなど,飲酒運航の防止措置をとることなく,同漁港に向かったものであった。
 A受審人は,入船右舷着けの状態から機関を使用して船首を北西方に向けたのち,00時04分半戎山防波堤灯台から121度840メートルの地点で,針路を317度に定め,機関を回転数毎分1,300にかけて10.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
 A受審人は,操舵室後部の木製台に腰を掛け,右舷側の窓枠に右ひじを突いて側壁にもたれかかった姿勢で,左手で舵輪を握って操船にあたるうち,00時07分戎山防波堤灯台から040度230メートルの地点に達したとき,同灯台の灯火を左舷正横に見て通過し,間もなく飲酒から居眠りに陥り,転針予定地点で転針することができないまま,やがて小角度の右舵がとられて針路が次第に右偏する状況となって続航した。
 A受審人は,宇和島港北西部の大浦地区で係留中の広丸に向けて進行し,源星丸は,022度に向首したとき,原速力のまま,前示のとおり衝突し,衝突の衝撃によりさらに右回頭して広丸東方の浅瀬に乗り揚げた。
 A受審人は,02時ころ海上保安官に起こされて衝突と乗揚を知り,事後の措置にあたり,満潮時,僚船によって引き下ろされ,自力で九島漁港に戻った。
 衝突の結果,広丸は,船尾部甲板に亀裂を伴う割損などを,源星丸は,船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 広丸
 無人で灯火を点けないで係留していたこと

2 源星丸
(1)飲酒し酩酊状態であったこと
(2)九島漁港までの運航に慣れているので大丈夫と思い,発航を中止するなど,飲酒運航の防止措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,源星丸が,発航を中止するなど,飲酒運航の防止措置をとっていれば,居眠りに陥って係留中の広丸に向け進行して衝突することはなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,九島漁港までの運航に慣れているので大丈夫と思い,発航を中止するなど,飲酒運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が飲酒し酩酊状態であったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 広丸が,無人で灯火を点けないで係留していたことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,愛媛県宇和島港において,源星丸が,同県九島漁港に向けて帰航する際,飲酒運航の防止措置が不十分で,係留中の広丸に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,愛媛県宇和島港において,同県九島漁港に向けて帰航する場合,飲酒により酩酊状態であったのだから,発航を中止するなど,飲酒運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが,同受審人は,九島漁港までの運航に慣れているので大丈夫と思い,飲酒運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,単独で操船にあたって宇和島港内を西行中,居眠りに陥り,同港大浦地区で係留中の広丸に向け進行して同船との衝突を招き,広丸の船尾部甲板に亀裂を伴う割損などを,源星丸の船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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