(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月30日13時13分
岡山県笠岡市北木島南東方沖合
(北緯34度22.1分 東経133度33.6分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
モーターボート福丸6号 |
モーターボート高義丸 |
総トン数 |
2.9トン |
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登録長 |
9.03メートル |
6.06メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
209キロワット |
44キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 福丸6号
福丸6号(以下「福丸」という。)は,平成7年1月に進水し,航行区域を限定沿海区域に定め,魚釣りや交通船として使用されるFRP製モーターボートで,GPSプロッタを装備していた。
イ 高義丸
高義丸は,昭和54年2月に建造され,航行区域を平水区域に定め,魚釣りに使用されるFRP製モーターボートで,船体後部に操舵室を配置し,魚群探知機を装備し,同室下方の物入れに笛がついている救命胴衣を格納していた。
3 福丸の船首死角
福丸は,機関回転数毎分1,800ないし2,200で航走すると船首が浮上して死角が生じるので,操縦席から立ち上がったり,減速したりするなど船首死角を補う見張りを行う必要があった。
4 事実の経過
福丸は,A受審人が1人で乗り組み,魚釣りの目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年4月30日08時00分岡山県笠岡市北木島港を発し,北木島南方0.5海里ばかりの夫婦岩付近の釣り場に向かい,08時10分同釣り場について投錨して魚釣りを行い,13時10分抜錨して帰途についた。
13時11分A受審人は,真鍋島港本浦A防波堤灯台(以下「A防波堤灯台」という。)から273度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点で,針路を022度に定め,機関を回転数毎分2,100にかけて20.0ノットの対地速力とし,操縦席に腰を掛け,船首が浮上して死角が生じた状態で手動操舵により進行した。
13時11分半A受審人は,A防波堤灯台から281度1.15海里の地点に達したとき,正船首0.5海里のところに漂泊している高義丸を視認することができ,その後同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,当日は月曜日で釣り船が少なかったことから,前路に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,操縦席から立ち上がるなど船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
A受審人は,高義丸を避けないまま続航し,13時13分A防波堤灯台から305度1.2海里の地点において,福丸は,原針路,原速力のまま,その船首が高義丸の右舷側後部に後方から50度の角度で衝突し,同船を乗り切った。
当時,天候は晴で風はなく,潮候は上げ潮の末期で,視界は良好であった。
また,高義丸は,B受審人が1人で乗り組み,友人1人を乗せ,魚釣りの目的で,船首尾とも0.2メートルの喫水をもって,同月30日09時10分岡山県寄島漁港を発し,北木島東方の大島沖合の釣り場に向かった。
09時35分B受審人は,釣り場に至って魚釣りを始め,その後真鍋島南方沖合に移動したが釣果がなく,更に12時00分衝突地点付近に移動して機関を停止して機関始動キーを抜き,漂泊して魚釣りを再開した。
13時11分半B受審人は,衝突地点において,船首が072度に向いているとき,右舷船尾50度0.5海里のところに福丸を視認することができ,その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,魚釣りに気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
B受審人は,その後救命胴衣についている笛を吹くなど,避航を促す有効な音響信号を行わず,福丸が自船を避けないまま更に接近したとき,機関を始動して衝突を避けるための措置をとらなかった。
13時13分少し前B受審人は,機関音を聞いて右舷後方至近に迫った福丸を初認し,機関始動キーを差し込もうとしたが,あわてていたことから差し込めなかったので機関を始動することができず,友人とともに船首側に逃げたとき,高義丸は,同じ船首方向のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,福丸は,船底に擦過傷及びプロペラ翼に曲損を生じ,高義丸は,右舷船尾部を圧壊して転覆し,その後廃船処分とされ,B受審人が右胸部打撲傷などを負った。
(航法の適用)
本件は,航行中の福丸と,漂泊中の高義丸が,岡山県北木島南東方沖合で衝突したもので,海上衝突予防法を適用することとなるが,同法には航行中の船舶と漂泊中の船舶とについての規定がないので,海上衝突予防法第38条及び第39条の船員の常務が適用される。
(本件発生に至る事由)
1 福丸
(1)船首方に死角が生じていたこと
(2)当日は月曜日で釣り船が少なかったことから,前路に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(3)高義丸を避けなかったこと
2 高義丸
(1)機関始動キーを抜いていたこと
(2)魚釣りに気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(3)避航を促す有効な音響信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(原因の考察)
福丸は,船首方に死角が生じた状態で航行中,操縦席から立ち上がるなど船首死角を補う見張りを十分に行っていれば,衝突1分半前には正船首0.5海里のところに漂泊中の高義丸を視認することが可能であり,同船を余裕のある時期に避けることができたものと認められる。
したがって,A受審人が,当日は月曜日で釣り船が少なかったことから,前路に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,操縦席から立ち上がるなど船首死角を補う見張りを十分に行わず,高義丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
また,福丸の船首方に死角が生じていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められないものの,このような場合,操縦席から立ち上がったり,減速したりするなど同死角を補う措置をとらなければならない。
一方,高義丸は,周囲の見張りを十分に行っていれば,衝突1分半前には右舷船尾50度0.5海里のところに福丸を視認することが可能であり,その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近するときには,避航を促す有効な音響信号を行い,福丸が更に接近したときには,機関を直ちに始動して衝突を避けるための措置をとって本件発生を防止できたものと認められる。
したがって,B受審人が,魚釣りに気をとられて周囲の見張りを十分に行わず,避航を促す有効な音響信号を行うことも,衝突を避けるための措置もとらなかったことは,本件発生の原因となる。
また,B受審人が,機関始動キーを抜いていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から,漂泊中でも直ちに機関を始動できるよう同キーを挿入しておくよう是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,岡山県北木島南東方沖合において,北上中の福丸が,見張り不十分で,前路で漂泊中の高義丸を避けなかったことによって発生したが,高義丸が,見張り不十分で,避航を促す有効な音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,岡山県北木島南東方沖合を北上する場合,船首浮上による死角が生じていたから,前路の他船を見落とさないよう,操縦席から立ち上がるなど船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,当日は月曜日で釣り船が少なかったことから,前路に航行の妨げとなる他船はいないものと思い,操縦席から立ち上がるなど船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊中の高義丸に気付かず,同船を避けないまま進行して高義丸との衝突を招き,福丸の船底に擦過傷及びプロペラ翼に曲損を生じさせ,高義丸の右舷船尾部を圧壊して転覆させ,B受審人が右胸部打撲傷などを負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,岡山県北木島南東方沖合において,魚釣りのため漂泊する場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,魚釣りに気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,接近する福丸に気付かず,避航を促す有効な音響信号を行わず,機関を始動して衝突を避けるための措置をとらないで福丸との衝突を招き,前示の損傷などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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