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平成17年広審第61号
件名

貨物船竜良丸モーターボートフリーダム3衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一,吉川 進,黒田 均)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:竜良丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
補佐人
a,b,c
受審人
B 職名:フリーダム3船長 操縦免許:小型船舶操縦士
C 職名:フリーダム3同乗者 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
d,e,f(いずれもB及びC両受審人選任)

損害
竜良丸・・・船首部外板に擦過傷など
フリーダム3・・・右舷船首部外板などに破口を生じて沈没 同乗者2人が顔面裂創,左肩甲骨骨折などの負傷

原因
フリーダム3・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
竜良丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,フリーダム3が,見張り不十分で,前路を左方に横切る竜良丸の進路を避けなかったことによって発生したが,竜良丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cの小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月3日21時00分
 山口県屋代島南方沖合
 (北緯33度50.2分 東経132度22.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船竜良丸 モーターボートフリーダム3
総トン数 699トン 19トン
全長 70.00メートル 14.63メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 432キロワット
(2)設備及び性能等
ア 竜良丸
 竜良丸は,平成5年1月に進水した限定沿海区域を航行区域とする船首楼及び船尾楼付きの一層甲板船尾船橋型の貨物船で,専ら石炭火力発電所などから排出される石炭灰の輸送に従事していた。
 操舵室は,航海船橋甲板に設置され,中央に操舵スタンドが,右舷側に隣接して機関操縦装置などを備えたコンソールが,左舷側に隣接してレーダー2台がそれぞれ設置され,船首楼甲板の後部に設けた荷役装置によって前方に死角が生じていたものの,船橋当直者が適宜,操舵室を左右に移動することにより死角を補う見張りを行うことができた。
 操縦性能は,航海速力が機関を回転数毎分550として空船時で約12ノット,満船時
で約10ノットで,海上試運転成績書写によると,最大縦距が左旋回時206メートル,右旋回時205メートル,最大横距が左旋回時240メートル,右旋回時220メートルとなり,360度回頭するのにいずれも約3分を要し,12.651ノットで進行中,機関を全速力後進に発令して速力が2ノットになるまでに1,260メートル進出し,その所要時間は8分48秒であった。
イ フリーダム3
 フリーダム3(以下「フ号」という。)は,昭和63年に第1回定期検査を受けた最大搭載人員15人のFRP製モーターボートで,操舵室が船体中央にあって前方に見張りを妨げる船体構造物はなく,同室右舷側に舵輪が,さらにその右舷側に機関の回転数及びクラッチを操作する操縦レバーが,舵輪前方にはGPSプロッターを中央にして右舷側に魚群探知器が,左舷側にレーダーがそれぞれ設置されていた。また,操舵室上の甲板(以下「フライングデッキ」という。)にも舵輪及び機関操縦レバーが設置されていて,日中の視界が良好でレーダーを使用しないときにはフライングデッキで操船が行われていた。
 フ号は,機関を回転数毎分2,200ないし2,300にかけると毎時28キロメートルの速力で航行することができたが,本件当時は船底が汚れていたので毎時約22.5キロメートル(12.1ノット)の速力で航行していた。

3 フ号同乗者の航海中の役割分担について
 フ号同乗者の航海中の役割分担は,操縦免許を取得しているB,C両受審人及び同乗者1人の3人が交替で操舵に,操舵にあたる者以外の同乗者が個々の判断で見張りを行うもので,同乗者がそれぞれの役割分担を明確に認識していなかったうえ,B受審人が操舵や見張りの順番を指示することも,操舵にあたる者が他の同乗者に指示することもなく,また,適宜互いに指示や報告を行うなど連携して運航にあたる習慣もなかったことから,見張りが常時適切に実施されていないおそれがあった。そして,針路については,主としてGPSプロッターの画面を見て決定し,見張りについては,専ら1.5海里以内のレンジとしたレーダーの画面を見て行っていた。

4 事実の経過
 竜良丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,石炭灰804トンを載せ,船首2.67メートル船尾3.97メートルの喫水をもって,平成15年5月3日14時55分愛媛県三島川之江港を発し,来島海峡,クダコ水道及び平郡水道を経由する予定で,福岡県苅田港に向かった。
 A受審人は,20時45分クダコ水道西方の,沖家室島長瀬灯標(以下「長瀬灯標」という。)から058度(真方位,以下同じ。)3.0海里の地点で,船長から引き継いで単独の船橋当直に就き,航行中の動力船の灯火を表示し,針路を228度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,同灯標東方沖合の転針予定地点に向けて屋代島南東方沖合を進行した。
 A受審人は,視界が良かったのでレーダー2台のうち1台をスタンバイの状態に,もう1台を停止したまま,操舵室を適宜左右に移動しながら目視による見張りにあたり,20時55分長瀬灯標から071度1.4海里の地点に達したとき,左舷船首2度1.8海里のところにフ号の白,紅2灯を視認したものの,その後専ら視線を右舷方に向け,屋代島の南側に位置する転針目標の山口県沖家室島の島影や同島南方沖合から現れる平郡水道を東行中の他船に留意しながら続航した。
 20時56分半わずか過ぎA受審人は,フ号が左舷船首5度1.3海里になったとき,同船が左転して白,緑2灯を見せるようになり,その後自船の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,同船とは互いに左舷を対して無難に航過するものと思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行わず,間近に接近したとき,機関を使用して行きあしを停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
 A受審人は,右舷方に視線を向けて転針時機を窺いながら続航し,21時00分わずか前ふと左舷船首方に視線を移したところ,至近にフ号の白,緑2灯を認め,急いで機関を停止したが,効なく,21時00分長瀬灯標から099度1,300メートルの地点において,竜良丸は,原針路,原速力のまま,その船首が,フ号の右舷船首部に前方から11度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はなく,視界は良好で,潮候は上げ潮の末期であった。
 また,フ号は,B受審人が単独で乗り組み,C受審人ほか友人4人を同乗させ,ダイビングや魚釣りなどを行う目的で,船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,同日13時00分広島県草津漁港を発し,八島南方沖合を経由する予定で,屋代島南岸の片添ケ浜に向かった。
 B受審人は,18時45分八島南方沖合の目的の海域に至り,自らは同乗者1人とともにダイビングを,C受審人及び他の同乗者たちが魚釣りなどを楽しんだのち,19時30分八島灯台の南南東方沖合1,000メートルの地点を発進して再び片添ケ浜に向かった。
 発進するとき,B受審人は,C受審人が舵輪後方の背もたれ付き長いすの中央に腰を掛けて舵輪を握り,同乗者1人が同受審人の左舷側に腰を掛けてレーダーを見ていたので,フライングデッキに上がったところ,すでにもう1人の同乗者がそこにいたことから,各人が操船と見張りにそれぞれあたるものと思い込み,自らはダイビングの疲れがあり,操舵室内で待機することとして同室に戻り,ダイビング用具の後片付けや他の同乗者たちと雑談などを始めた。
 C受審人は,航行中の動力船の灯火を表示し,前示長いすに腰を掛けて操船にあたり,平郡島南方沖合を同島に沿って東行し,同島南東端を航過したのち屋代島の安下庄湾に向けて北上中,フライングデッキにいた同乗者が操舵室に下りてきて針路の間違いを指摘したので,20時33分長瀬灯標から232度4.9海里の地点で,針路を沖家室島南方沖合に向く060度に定め,機関を回転数毎分1,200にかけて12.1ノットの速力で,フライングデッキから下りてきた同乗者もそのまま長いすの後方に腰を掛けた状況下,右舷前方にセンガイ瀬灯標の灯火を見ながら手動操舵により進行した。
 C受審人は,20時54分立ち上がり操舵室右舷側の扉を開け,センガイ瀬灯標を右舷正横付近に見て航過したことを確認したのち,再び元の位置に腰を掛け,沖家室島東方沖合に向けて転針するため,GPSプロッターを見て針路を確認するなどしながら続航中,20時55分長瀬灯標から181度1,500メートルの地点に達したとき,左舷船首14度1.8海里のところに竜良丸の白,白,紅3灯を視認できる状況であったものの,GPSプロッターに視線を向け,同灯火を見落としたまま進行した。
 C受審人は,20時56分半わずか過ぎ長瀬灯標から158度1,250メートルの地点において,GPSプロッターを見ながら,針路を沖家室島東方沖合に向く037度に転じたところ,竜良丸が右舷船首6度1.3海里となり,その後同船の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,接近する他船があれば,レーダーを見ていた同乗者や後方に腰を掛けていた同乗者が知らせてくれるものと思い,見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,右転するなど,竜良丸の進路を避けることなく続航した。
 B受審人は,C受審人や他の同乗者たちが役割分担を明確に認識せず,適宜互いに指示や報告を行わなかったので,適切に見張りが行われていないおそれがあったが,C受審人や同乗者たちが前方を向いたりレーダーの画面を見ていたので見張りにあたっているものと思い,自ら見張りを十分に行わなかったので,竜良丸の存在に気付かず,同船の進路を避けることができないまま,操舵室で同乗者たちと雑談などを続けた。
 C受審人は,同乗者たちが竜良丸の存在を知らせず,その存在に気付かないまま,依然GPSプロッターを見ながら進行し,21時00分わずか前立ち上がって右舷方に歩きかけたB受審人が右舷船首至近に迫った竜良丸の船体を初めて視認し,機関を後進にかけるよう叫んだので,急いで機関を全速力後進にかけたが,効なく,フ号は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,竜良丸は,船首部外板に擦過傷などを生じ,フ号は,右舷船首部外板などに破口を生じて沈没し,竜良丸はのち修理され,フ号は廃船処理された。また,C受審人が顔面裂創などを,同乗者1人が左肩甲骨骨折などを負った。
(航法の適用)
 本件は,山口県屋代島南方沖合において,動力船である竜良丸及びフ号の両船が互いに左舷を対して航過する態勢で進行中,フ号が衝突の3分少し前竜良丸との距離が1.3海里のところで左転し,その後同船が竜良丸の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したもので,フ号が避航義務を,竜良丸が針路及び速力の保持義務をそれぞれ履行するのに十分な時間的,距離的な余裕があったと認められるから,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法によって律することが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 竜良丸
(1)夜間,レーダーを使用していなかったこと
(2)動静監視を十分に行わなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 フ号
(1)C受審人が,屋代島周辺の海域に推薦航路が設定されていることを知らなかったこと
(2)各同乗者が役割分担を明確に認識しておらず,また,適宜指示や報告を行うなど連携して運航にあたる習慣もなかったこと
(3)C受審人が,接近する他船があればレーダーを見ていた同乗者や後方に腰を掛けていた同乗者が知らせてくれるものと思い,見張りを十分に行わなかったこと
(4)B受審人が,C受審人や同乗者たちが前方を向いたりレーダーの画面を見ているので見張りにあたっているものと思い,見張りを十分に行わなかったこと
(5)C受審人が,針路を竜良丸の前路に向けて転じたこと
(6)他の同乗者たちが,いずれも見張りを十分に行わず,C受審人に竜良丸の存在を知らせなかったこと
(7)C受審人が,竜良丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 本件は,竜良丸が,フ号に対する動静監視を十分に行っていれば,同船が自船の前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付くことができ,警告信号を行い,間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとって衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,フ号に対する動静監視不十分で,警告信号を行わず,間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,夜間,レーダーを使用していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,フ号が,見張りを十分に行っていれば,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する竜良丸に容易に気付くことができ,同船の進路を避けることができたものと認められる。
 したがって,C受審人が,接近する他船があればレーダーを見ていた同乗者や後方に腰を掛けていた同乗者が知らせてくれるものと思い,また,B受審人が,C受審人や同乗者たちが前方を向いたりレーダーの画面を見ているので見張りにあたっているものと思い,いずれも見張りを十分に行わず,竜良丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 C受審人が屋代島周辺の海域に推薦航路が設定されていることを知らなかったこと,各同乗者が役割分担を明確に認識しておらず,また,適宜互いに指示や報告を行うなど連携して運航にあたる習慣もなかったこと,C受審人が針路を竜良丸の前路に向けて転じたこと及び他の同乗者たちがC受審人に竜良丸の存在を知らせなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,いずれも海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(主張に対する判断)
 フ号側補佐人は,フ号が竜良丸の右舷灯を見ながら同船の前路を左方に横切る態勢で進行し,衝突の3分半前にフ号が左転し,その後竜良丸及びフ号の両船が互いに右舷を対して無難に航過する態勢で接近していたところ,衝突の1分半前に竜良丸が右転したことによって新たな衝突のおそれを生じさせた旨を主張するので,このことについて検討する。
 フ号側補佐人の主張は,A受審人に対する質問調書中,「衝突の4分ないし5分前左舷前方にフ号の白,紅2灯を認めた。」旨の供述記載及びD証人の当廷における,「フ号がセンガイ瀬沖合で左転する前,竜良丸の白,白,紅3灯を左舷船首5度ないし10度の方向に視認していた。左転後は同灯火が右舷船首約30度に見えた。緑灯は見ていない。」旨の供述の,竜良丸及びフ号両船のいずれの相手船の視認状況にも矛盾する。
 A受審人に対する質問調書中の供述記載及びD証人の供述は,フ号がセンガイ瀬灯標沖合で左転するとき,同船は竜良丸の左舷側に位置し,そのまま進行すると両船が互いに左舷を対して無難に航過する態勢であったところ,フ号が左転したことによって同船が竜良丸の前路を右方に横切る態勢に変わったことを示すもので,このことは,B受審人が自ら原告となっている損害賠償請求事件の訴状写に記載の事件態様中,「衝突の2分前までは衝突のおそれがない状況で,フ号が竜良丸の方向に向け左転して衝突のおそれが生じた。」旨の記載とほぼ一致する。
 フ号側補佐人の主張は,自ら認定した衝突角度及び衝突地点を前提として両船の運航模様を推測しているもので,衝突角度については,A,C両受審人及びD証人のいずれも,衝突前約5秒間の状況から供述しており,本件当時,視界が良好であったとしても,夜間で,わずかな時間に,壁のように迫っていた相手船の外板だけや白,緑2灯だけを見て正確な衝突角度を判断できるものではなく,A,C両受審人及びD証人それぞれが当廷でその旨を供述しているとおり,誤差が大きいものと認められる。竜良丸の船首部の損傷模様もフ号側補佐人が認定する衝突角度を示すものではない。
 また,フ号側補佐人が認定する衝突地点は,A,C両受審人及びD証人のいずれもがGPSプロッターの航跡記録などを基に供述した地点と異なっており,これを否定する証拠は無く,認めることができない。
 したがって,フ号側補佐人の主張は認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,山口県屋代島南方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北東進するフ号が,見張り不十分で,前路を左方に横切る竜良丸の進路を避けなかったことによって発生したが,南西進する竜良丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 C受審人は,夜間,山口県屋代島南方沖合において,フ号の操船にあたって同島南岸の片添ケ浜に向けて北東進する場合,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,接近する他船があれば,レーダーを見ていた同乗者や後方に腰を掛けていた同乗者が知らせてくれるものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,竜良丸の存在に気付かず,右転するなど,その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き,竜良丸の船首部外板に擦過傷などを生じさせ,フ号の右舷船首部外板などに破口を生じさせて沈没する事態を招き,同乗者1人に左肩甲骨骨折などを負わせ,自らも顔面裂創などを負うに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 B受審人は,夜間,山口県屋代島南方沖合において,C受審人が操船にあたって同島南岸の片添ケ浜に向け北東進中,操舵室で待機する場合,各同乗者が役割分担を明確に認識せず適宜互いに指示や報告を行わなかったので,適切に見張りが行われていないおそれがあったのだから,接近する他船を見落とすことがないよう,自ら見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,C受審人や同乗者たちが前方を向いたりレーダーの画面を見ているので見張りにあたっているものと思い,自ら見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,竜良丸の存在に気付かず,その進路を避けることができないで同船との衝突を招き,前示の損傷及び負傷を生じさせる事態を招くに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,夜間,山口県屋代島南方沖合おいて,単独の船橋当直にあたり,長瀬灯標東方沖合の転針地点に向けて南西進中,左舷前方に北東進するフ号の白,紅2灯を認めた場合,衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,フ号とは互いに左舷を対して無難に航過するものと思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,フ号が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,警告信号を行わず,間近に接近したとき,機関を使用して行きあしを止めるなど,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,前示の損傷及び負傷を生じさせる事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
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参考図2
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