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平成17年広審第105号
件名

押船第八十八昭栄丸被押バージ3号漁船成栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月16日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,川本 豊,吉川 進)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:第八十八昭栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:成栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
3号・・・船首部に擦過傷
成栄丸・・・左舷中央部に破口など

原因
第八十八昭栄丸押船列・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
成栄丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第八十八昭栄丸被押バージ3号が,見張り不十分で,前路を左方に横切る成栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,成栄丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月5日05時55分
 瀬戸内海 広島湾
 (北緯34度08.2分 東経132度24.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第八十八昭栄丸 バージ3号
総トン数 197トン 2,825トン
全長 29.75メートル 100.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,471キロワット  
船種船名 漁船成栄丸  
総トン数 4.99トン  
全長 13.30メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
漁船法馬力数 15  
(2)設備及び性能等
ア 第八十八昭栄丸
 第八十八昭栄丸(以下「昭栄丸」という。)は,平成9年11月に進水した航行区域を限定沿海区域とする2機2軸の鋼製押船で,自動操舵装置,レーダー及びGPSプロッタを装備していた。
イ 3号
 3号(以下「バージ」)という。)は,平成9年12月に建造された非自航の鋼製バージで,船首部にランプドア,同部両舷に同ドア用の支柱,同支柱の両脇及び船尾部左舷側にスパッド並びにバウスラスタが設備されていた。
ウ 成栄丸
 成栄丸は,昭和49年10月に進水した底びき網漁業に従事する木製漁船で,船体中央部に操舵室,船尾部に揚網用やぐらが配置され,航海計器は装備しておらず,汽笛も装備されていなかった。

3 昭栄丸被押バージの状況
 昭栄丸被押バージは,バージの船尾凹部に昭栄丸船体の船首側約半分を嵌合してピン3本で押し付け,長さ116メートルの押船列(以下「昭栄丸押船列」という。)を形成していた。

4 事実の経過
 昭栄丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,船首1.5メートル船尾4.2メートルの喫水をもって,砕石4,500トンを積載して船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水となった無人のバージと昭栄丸押船列を形成し,平成17年4月5日05時30分広島県呉市倉橋島西部の重生(しぎょう)船だまりを発し,同県江田島市大黒神島南部の鵜泊鼻東側の採石場に向かった。
 05時49分半A受審人は,単独で船橋当直に就き,伝太郎鼻灯台から303度(真方位,以下同じ。)1.8海里の地点で,針路を目的地の採石場に向首する330度に定め,機関を全速力前進にかけて9.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,昭栄丸にマスト灯2個,舷灯及び船尾灯,バージの船首部支柱にマスト灯1個及び舷灯を点灯し,手動操舵によって進行した。
 05時51分A受審人は,伝太郎鼻灯台から305度2.0海里の地点に達したとき,右舷船首31度1.0海里のところに成栄丸を視認でき,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,自船は長さが100メートル以上もあり,小型船が避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,機関を使用するなど成栄丸の進路を避けることなく続航した。
 05時54分A受審人は,右舷船首方500メートルばかりのところに成栄丸を初認し,05時55分少し前同船が至近に迫って衝突の危険を感じ,汽笛を吹鳴したが及ばず,05時55分伝太郎鼻灯台から311度2.55海里の地点において,昭栄丸押船列は,原針路,原速力のまま,バージの右舷船首部が,成栄丸の左舷側前部に前方から62度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力4の南西風が吹き,視界は良好で,付近の日出は05時52分であった。
 また,成栄丸は,B受審人が1人で乗り組み,底びき網漁の目的で,船首0.37メートル船尾1.55メートルの喫水をもって,4月5日05時30分江田島市鹿川港を発し,大黒神島南方の漁場に向かった。
 05時41分B受審人は,鹿川港シーバース灯から189度1,400メートルの地点で,針路を212度に定め,機関を全速力前進にかけて9.0ノットの速力で,手動操舵によって進行した。
 05時51分B受審人は,鹿川港シーバース灯から204度2.2海里の地点に達したとき,左舷船首31度1.0海里のところに昭栄丸押船列を視認でき,その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,波が高かったことから船首方の波を見ることに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,昭栄丸押船列が避航の気配がないまま間近に接近したとき,右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 05時55分少し前B受審人は,昭栄丸押船列が吹鳴した汽笛を聞いて左舷船首至近のところに同押船列を初認し,急いで機関を後進としたが及ばず,成栄丸は,原針路のまま,3.0ノットの速力となったとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,昭栄丸押船列はバージ船首部に擦過傷を生じ,成栄丸は左舷側中央部に破口などを生じたが,のち修理された。

(航法の適用)
 本件は,北西進する昭栄丸押船列と,南西進する成栄丸が,互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で,両船とも衝突直前まで同一の針路及び速力で進行して衝突したものである。
 したがって,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 昭栄丸押船列
(1)長さ116メートルの押船列を形成していたこと
(2)自船は長さが100メートル以上もあり,小型船が避けてくれるものと思って見張りを十分に行わなかったこと
(3)成栄丸の進路を避けなかったこと

2 成栄丸
(1)汽笛を装備していなかったこと
(2)波が高かったので船首方の波を見ることに気をとられて見張りを十分に行わなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 昭栄丸押船列は,見張りを十分に行っていたなら,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する成栄丸に気付いて同船の進路を避けることができ,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,自船は長さが100メートル以上もあり,小型船が避けてくれるものと思って見張りを十分に行わず,成栄丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 昭栄丸押船列が長さ116メートルの押船列を形成していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 一方,成栄丸は,見張りを十分に行っていたなら,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する昭栄丸押船列に気付いて,警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとっていれば,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,波が高かったので船首方の波を見ることに気をとられて見張りを十分に行わず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作もとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 成栄丸が,汽笛を装備していなかったことは,海上衝突予防法は全長12メートル以上の船舶に対してその装備を義務づけており,同法に違反しているので,早急に装備されるべきである。

(海難の原因)
 本件衝突は,広島湾において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北西進する昭栄丸押船列が,見張り不十分で,前路を左方に横切る成栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,南西進する成栄丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,単独で船橋当直に就いて広島湾を北西進する場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船は長さが100メートル以上もあり,小型船が避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,右舷前方から前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する成栄丸に気付かず,その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き,バージ船首部に擦過傷及び成栄丸左舷側中央部に破口などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,単独で操舵に当たって広島湾を南西進する場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,波が高かったので船首方の波を見ることに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,左舷前方から前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する昭栄丸押船列に気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作もとらないで同押船列との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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