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平成17年神審第110号
件名

貨物船協和丸漁船住吉丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月10日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學,佐和 明,村松雅史)

理事官
佐野映一

受審人
A 職名:協和丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:住吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
協和丸・・・船首外板に擦過傷
住吉丸・・・船尾を圧壊 船長が頭部に外傷

原因
協和丸・・・見張り不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
住吉丸・・・動静監視不十分,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,協和丸が,見張り不十分で,漁ろうに従事している住吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが,住吉丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月20日12時00分
 瀬戸内海播磨灘
 (北緯34度37.5分 東経134度54.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船協和丸 漁船住吉丸
総トン数 343トン 4.4トン
全長 52.83メートル  
登録長   11.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   15
(2)設備及び性能等
ア 協和丸
 協和丸は,平成9年1月に進水した,レーダー及びGPSプロッターを有する航海速力10.5ノットの船尾船橋型鋼製貨物船で,主として山口県宇部港,徳山下松港及び兵庫県東播磨港で水酸化マグネシウムや苛性ソーダなどを積み,阪神,中京及び京浜方面の各港で揚げる航路に就航していた。
イ 住吉丸
 住吉丸は,平成元年6月に進水した,モーターホーンなどの音響信号装置を装備していないFRP製小型漁船で,主として播磨灘における小型底びき網漁業に従事していた。

3 事実の経過
 協和丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,空倉で,船首1.10メートル船尾2.90メートルの喫水をもって,平成17年3月19日14時50分名古屋港を発し,明石海峡を経由して兵庫県東播磨港へ向かった。
 翌20日11時45分A受審人は,明石海峡航路西方灯浮標の北方1海里付近で昇橋したのち,前直の船長から船橋当直を引き継ぎ,同時58分江井ケ島港西防波堤灯台から184.5度(真方位,以下同じ。)3.1海里の地点に至ったとき,東播磨港へ向けて針路を310度に定め,機関を全速力前進の回転数毎分320にかけ,10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵によって進行した。
 針路を定めたとき,A受審人は,右舷船首2度590メートルのところに,漁ろうに従事している船舶(以下「トロール従事船」という。)が表示する黒色鼓形の法定形象物を掲げた住吉丸を視認することができ,間もなく,同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,付近に航行の支障となるような他船を認めなかったことから,大丈夫と思い,見張りを十分に行わなかったので,住吉丸の存在に気付かなかった。
 こうして,A受審人は,その後も,見張りを十分に行わず,住吉丸の存在に気付かないまま,同船を避けることなく続航中,12時00分江井ケ島港西防波堤灯台から190度2.9海里の地点において,協和丸は,原針路,原速力で,その船首が住吉丸の船尾に後方から平行に衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好であった。
 また,住吉丸は,B受審人が1人で乗り組み,小型底びき網漁業に従事する目的で,船首0.20メートル船尾1.50メートルの喫水をもって,同月20日05時15分兵庫県富島漁港を発し,播磨灘のカンタマ南灯浮標付近の漁場へ向かった。
 ところで,当時,B受審人が従事していた小型底びき網漁業とは,小型漁船による1艘引きトロール漁業のことであり,機関を極微速力前進にかけた約0.5ノットの速力で,引き綱及び漁獲網部分を含めた100ないし110メートルに渡る長さの漁具を引き,底魚などを漁獲するものであった。
 05時50分B受審人は,前示漁場に到着したのち,投網に約10分,曳網に45分ないし1時間,揚網に約15分をかけて,1回1時間10分ないし1時間25分に渡る操業を繰り返し行い,11時58分江井ケ島港西防波堤灯台から189.5度2.9海里の地点に至ったとき,針路を270度に定め,機関を極微速力前進にかけ,0.5ノットの速力で,トロール従事船が表示する黒色鼓形の法定形象物を掲げ,手動操舵によって進行した。
 針路を定めたとき,B受審人は,左舷船尾42度590メートルのところに,自船のやや前方に向首した態勢の協和丸を視認したものの,前示法定形象物を掲げてトロール漁業に従事していたことから,協和丸が自船の進路を避けてくれるものと思い,動静監視を十分に行わなかったので,やがて,同船が後方から衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,そのことに気付かなかった。
 こうして,B受審人は,その後も,協和丸の動静監視を十分に行わず,依然として,同船が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かないまま,右転するなり,行きあしを停止するなりして,衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中,12時00分少し前後方を振り返ったとき,至近に迫った協和丸を認め,急きょ,右舵一杯を取ったが,及ばず,住吉丸は,船首が310度に向首したとき,原速力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,協和丸は船首外板に擦過傷を生じ,住吉丸は船尾を圧壊するとともに,B受審人が頭部に外傷を負った。

(航法の適用)
 本件は,瀬戸内海の播磨灘において,航行中の協和丸が,トロール漁業に従事中の住吉丸を追い越す態勢で衝突したものであり,以下,適用する航法について検討する。
 協和丸が航行中の動力船であったこと,住吉丸が漁ろう中の船舶が表示する黒色鼓形の法定形象物を掲げてトロール漁業に従事していたこと,及び,協和丸が住吉丸を追い越す態勢で衝突したことは,それぞれ取り調べられた証拠により明白である。したがって,海上衝突予防法第13条(以下,同法を表記する場合「海上衝突予防法」を省略する。)の追越し船の航法,または第18条第1項の各種船間航法のうち,航行中の動力船と漁ろうに従事している船舶間の関係を定めた同項第3号の適用が考えられるが,第13条に規定された「この法律の他の規定にかかわらず,以下略。」とする文言と,第18条の「航行中の動力船は,次に掲げる船舶の進路を避けねばならない,以下略。」とする文言を比較するならば,第13条を適用するのが望ましいと思慮される。
 しかしながら,本件は,見合い関係が発生してから2分間という短い時間で衝突した事実に加え,住吉丸の速力が停止している状態とほぼ同じ0.5ノットという極めて遅い速力であったことから,協和丸が,住吉丸との見合い関係が発生してから衝突するまでの短い時間内に,自船が住吉丸を追い越す態勢であると判断する時間的な余裕が十分にあったか否かが問題となる。
 さらに,海上衝突予防法には,「海上における船舶の衝突を予防し,もって船舶の安全を図ることを最大の目的とする。」とうたわれていることを考慮するならば,本件のような事例においては,避航船である協和丸が,見合い関係が発生してから数十秒ないし1分以上をかけて,自船が住吉丸を追い越す態勢であると判断してから避航動作をとるよりも,表示している法定形象物を一瞥しただけで,住吉丸が漁ろうに従事している船舶であると判断することは可能であることから,同船が漁ろうに従事している船舶であると認知したとき,直ちに避航動作をとる方がより安全であり,海上衝突予防法の目的に最もかなっているものと認められる。
 よって,同法第18条第1項各種船間航法のうち,航行中の動力船と漁ろうに従事している船舶間の関係を定めた同項第3号をもって律することとする。

(本件発生に至る事由)
1 協和丸
(1)A受審人が,付近に航行の支障となるような他船を認めなかったので,大丈夫と思い,見張りを十分に行わなかったこと
(2)A受審人が,漁ろうに従事していた住吉丸の存在に気付かなかったこと
(3)A受審人が,住吉丸の進路を避けることなく進行したこと

2 住吉丸
(1)B受審人が,協和丸が自船の進路を避けてくれると思い,動静監視を十分に行わなかったこと
(2)B受審人が,協和丸が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かなかったこと
(3)B受審人が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 協和丸は,播磨灘において,東播磨港へ向けて航行中,船橋当直者が,見張りを十分に行っていたならば,法定形象物を表示して漁ろうに従事していた住吉丸の存在に容易に気付き,その進路を避けることは十分に可能であったものと認められる。
 したがって,A受審人が,付近に航行の支障となるような他船を認めなかったことから,大丈夫と思い,見張りを十分に行わず,住吉丸の存在に気付かないまま,その進路を避けることなく進行したことは,本件発生の原因となる。
 一方,住吉丸は,播磨灘において,トロール漁業に従事中,操縦室で手動操舵に当たっていた船長が,協和丸を視認したのち,その動静監視を十分に行っていたならば,同船が衝突のおそれがある態勢で接近することに容易に気付き,間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとることは十分に可能であったものと認められる。
 したがって,B受審人が,協和丸が自船の進路を避けてくれるものと思い,動静監視を十分に行わず,衝突を避けるための協力動作をとることなく進行したことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,播磨灘において,協和丸が,東播磨港へ向けて航行中,見張り不十分で,法定形象物を表示して漁ろうに従事している住吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが,住吉丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,播磨灘において,東播磨港へ向けて航行する場合,同海域は小型底びき網漁船の好漁場であることから,漁ろうに従事している当該漁船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,付近に航行の支障となるような他船を認めなかったことから,大丈夫と思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,法定形象物を表示して漁ろうに従事していた住吉丸の存在に気付かず,その進路を避けることなく進行して衝突を招き,自船の船首外板に擦過傷を生じさせるとともに,住吉丸の船尾を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,播磨灘において,法定形象物を表示して漁ろうに従事中,自船のやや前方に向首した態勢の協和丸を左舷船尾方に認めた場合,同船が安全に航過するか否かを見極めることができるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,漁ろうに従事する船舶が表示する形象物を掲げてトロール漁業を行っていたことから,協和丸が,自船の進路を避けてくれるものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が衝突のおそれがある態勢で接近してくることに気付かず,衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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