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平成17年神審第102号
件名

瀬渡船第五せいほう丸養殖施設衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年2月6日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第五せいほう丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第五せいほう丸・・・船首部を圧壊,釣り客4人が頸椎捻挫及び腰部打撲など
養殖施設・・・支柱が傾く

原因
針路保持不十分

裁決主文

 本件養殖施設衝突は,針路の保持が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月7日11時50分
 福井県美浜湾丹生ノ浦
 (北緯35度42.4分 東経135度58.2分)

2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船第五せいほう丸
総トン数 4.32トン
全長 12.83メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 264キロワット

3 事実の経過
 第五せいほう丸(以下「せいほう丸」という。)は,昭和57年9月に進水したFRP製瀬渡船で,平成14年12月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み,磯に渡した釣り客を出迎える目的で,船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,同17年8月7日11時30分福井県丹生ノ浦湾奥にある自宅前の桟橋を発し,舟通埼灯台北方1,700メートル付近の瀬渡し場所へ向かった。
 11時40分A受審人は,同瀬渡し場所に到着して釣り客6人を収容したのち,発航地へ向けて帰途につき,同時48分舟通埼灯台から096度(真方位,以下同じ。)1,050メートルの地点に達したとき,丹生ノ浦にある丹生湾海洋牧場資源管理海域(以下「稚魚育成海域」という。)の出入口(以下「海洋牧場出入口」という。)に向け,針路を006度に定め,機関を微速力前進にかけ,8.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵によって進行した。
 ところで,丹生湾海洋牧場とは,昭和63年に実施された国の調査により,丹生ノ浦が海洋牧場の適地であると認められたことから,沿岸漁業整備開発事業の一環として,平成元年度から同2年度にかけて栽培漁業目的で作られた「まだい」の養殖施設であり,同湾中央部付近には,音響自動給餌システムを利用した湾奥の稚魚育成海域及び湾外の成魚放流海域とを区切るため,30メートル間隔で海底に打ち込まれている長さ10ないし20メートル,直径508ミリメートルの黄色塗装された鋼管25本を支柱として,網目4センチメートルの仕切り網が張り巡らされており,舟通埼灯台から070度1,200メートル地点に設置された支柱と,その西方30メートル地点に設置された支柱の間が,瀬渡船や小型漁船などの出入口となっていた。
 また,海洋牧場出入口両側の支柱には,先端部にそれぞれ太陽電池を電源とするB社製の標識灯が取り付けられており,その水面上からの高さは,潮位によって多少変化するものの,1.8ないし2.5メートルであった。
 そして,A受審人は,丹生大橋を通過し,11時49分半海洋牧場出入口から約150メートルの地点に達したとき,同出入口の幅が30メートルに狭まっていることから,左右の支柱に衝突することがないよう,針路の保持を十分に行うことが求められる状況となったが,折悪しく,足下に置いてあったキャンバス製の餌入れが風にあおられて転がりだしたことから,餌入れを元の位置に戻すことに気を取られ,舵輪から手を離して針路を十分に保持することなく続航した。
 こうして,A受審人は,一旦,前示餌入れを元の位置に戻したものの,11時50分少し前海洋牧場出入口が間近となったとき,再び,同餌入れが風にあおられて転がりだしたことから,急いで身を屈め,これを掴んで直ぐに姿勢を元に戻したところ,着用していたシャツの襟元が操舵輪のハンドルに引っ掛かったことから右舵を取った状態となり,そのまま右転しながら進行中,11時50分舟通埼灯台から070度1,200メートルの地点において,船首が020度を向いたとき,原速力で,同出入口東側の支柱に衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 衝突の結果,舳先の一部が圧壊して養殖施設の支柱が傾くとともに,船首甲板に座っていた釣り客4人が,頸椎捻挫及び腰部打撲などの傷を負った。

(海難の原因)
 本件養殖施設衝突は,福井県丹生ノ浦において,湾外から湾奥の桟橋へ向けて航行中,針路の保持が不十分で,同施設出入口の支柱へ向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,福井県丹生ノ浦において,湾外から湾奥の桟橋へ向けて航行中,養殖施設の出入口に差し掛かった場合,同出入口は可航幅が狭いところであるから,安全に通行できるよう,針路の保持を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,折悪しく,風にあおられて転がった足下の餌入れを元の位置に戻すことに気を取られ,針路の保持を十分に行わなかった職務上の過失により,出入口の支柱に向首進行して衝突を招き,船首に圧壊を生じさせ,養殖施設の支柱を傾けさせるとともに,釣り客4人に頸椎捻挫及び腰部打撲などの傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:18KB)





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