(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年2月7日07時40分
宮城県大島南方沖合
(北緯38度46.6分 東経141度37.2分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船浜見丸 |
漁船豊漁丸 |
総トン数 |
3.0トン |
1.8トン |
全長 |
11.50メートル |
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登録長 |
9.45メートル |
7.87メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
128キロワット |
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漁船法馬力数 |
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50 |
(2)設備及び性能等
ア 浜見丸
浜見丸は,昭和59年12月に進水したFRP漁船で,C社が製造した主機を搭載し,その推進器は固定ピッチで,プロペラの翼数が3枚のものを設備し,その航海速力は約11ノットであった。
また,航海計器としては,レーダー1台及びGPSプロッターを備え,操業用として魚群探知器を備えていた。
イ 豊漁丸
豊漁丸は,昭和62年4月に進水したFRP漁船で,D社が製造した主機を搭載し,その推進器は固定ピッチで,プロペラの翼数が3枚のものを設備し,その航海速力は約9ノットであった。
また,航海計器としては,何も備えておらず,操業用として魚群探知器のみ備えていた。
3 事実の経過
浜見丸は,A受審人が1人で乗り組み,かれい刺網漁を行う目的で,船首0.20メートル船尾1.00メートルの喫水をもって,平成17年2月7日05時20分宮城県日門漁港を発し,同漁港東南東方沖合の漁場に向かい,06時00分漁場に至って操業を始め,かれい約5キログラムを獲て操業を終え,07時28分半岩井埼灯台から148度(真方位,以下同じ。)3.85海里の地点を発進して帰途に就いた。
07時36分少し前A受審人は,岩井埼灯台から159.5度3.78海里の地点に達したとき,針路を310度に定め,機関をほぼ全速力前進にかけ,10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として自動操舵により進行し,その後,前部甲板で前方を向き,中腰の姿勢で網にかかったごみを取り始めた。
07時38分A受審人は,岩井埼灯台から162.5度3.48海里の地点に達したとき,ほぼ正船首670メートルのところに漂泊中の豊漁丸を視認することができ,その後,同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,網のごみを取ることに気をとられ,前路の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同船を避けることなく続航した。
こうして,浜見丸は,A受審人が前路の豊漁丸に気付かないまま進行中,07時40分岩井埼灯台から166度3.20海里の地点において,原針路,原速力のまま,浜見丸の右舷船首部が豊漁丸の右舷船首部外板に前方から10度の角度をもって衝突した。
当時,天候は晴で風力2の西北西風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,日出時刻は06時34分であった。
また,豊漁丸は,B受審人が1人で乗り組み,たこかご漁の目的で,船首0.30メートル船尾1.00メートルの喫水をもって,同日06時40分宮城県大谷漁港を発し,同漁港南東方沖合の漁場に向かった。
06時45分B受審人は,漁場に至り,右舷船首部に設置した揚網機の側に立ち,135度方向に入れたたこかごの揚収作業にとりかかった。
07時38分B受審人は,岩井埼灯台から166度3.17海里の地点で,船首を120度方向に向け,約1ノットの速力となってたこかごの設置方向に移動しながら,揚収作業を続けていたとき,右舷船首10度670メートルのところに,自船に衝突のおそれがある態勢で向首接近する浜見丸を視認することができたが,たこかごの揚収作業に気をとられ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく同作業を続けた。
こうして,豊漁丸は,B受審人が接近する浜見丸に気付かないまま,たこかごの揚収作業中,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,浜見丸は,右舷船首部を圧壊し,豊漁丸は,右舷船首部,煙突及び揚網機などに損傷を生じたが,のちいずれも修理された。また,B受審人は,頭部及び左膝打撲並びに頸椎捻挫を負った。
(航法の適用)
本件は,漂泊中の漁船と航行中の漁船とが衝突したものであり,海上衝突予防法に定形航法がないところから,同法第38条及び第39条を適用して船員の常務で律するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 浜見丸
(1)A受審人が,網にかかったごみ取り作業をしていたこと
(2)A受審人が,見張りを十分に行っていなかったこと
(3)A受審人が,豊漁丸を避けなかったこと
2 豊漁丸
(1)B受審人が,周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(2)B受審人が,たこかごの揚収作業に気をとられていたこと
(3)B受審人が,警告信号を行わなかったこと
(4)B受審人が,衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,漁場から帰港中の浜見丸と漂泊中の豊漁丸とが衝突したものである。
浜見丸において,A受審人が,周囲の見張りを十分に行わず,漂泊中の豊漁丸を避けなかったことは本件発生の原因となる。
A受審人が,網のごみ取り作業をしていたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められず,本件発生の原因とならない。
豊漁丸において,B受審人が,周囲の見張りを十分に行っていなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことはいずれも本件発生の原因となる。
B受審人が,たこかごの揚収作業に気をとられていたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められず,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,宮城県大島南方沖合において,浜見丸が,見張り不十分で,漂泊中の豊漁丸を避けなかったことによって発生したが,豊漁丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,宮城県大島南方沖合において,操業を終えて帰港中,網にかかったごみ取り作業を行う場合,前路で漂泊中の豊漁丸を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,網にかかったごみを取ることに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊中の豊漁丸を見落とし,同船を避けることなく進行して衝突を招き,自船の右舷船首部を圧壊し,豊漁丸の右舷船首部,煙突及び揚網機などに損傷を生じさせ,また,B受審人が頭部及び左膝打撲並びに頸椎捻挫を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,宮城県大島南方沖合において,漂泊してたこかごの揚収作業を行う場合,自船に衝突のおそれがある態勢で向首接近する浜見丸を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,たこかごの揚収作業に気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で向首接近する浜見丸を見落とし,警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく揚収作業を続けていて同船との衝突を招き,前示損傷を生じさせ,自ら負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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