(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年2月9日15時44分
長崎県樺島南東方沖合
(北緯32度32.5分 東経129度49.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船興和丸 |
漁船みなと |
総トン数 |
498トン |
4.0トン |
登 録 長 |
60.24メートル |
10.42メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
|
漁船法馬力数 |
|
15 |
3 事実の経過
興和丸は,平成16年9月に進水し,船首マストの後方約12メートルの甲板上に高さ約7メートルのベント管2本を船体中心線両側に約1メートルの間隔で設けた,主として化学薬品の輸送に従事する鋼製液体化学薬品ばら積船兼油タンカーで,船長C及びA受審人ほか3人が乗り組み,福岡県三池港での荷揚げを終え,空倉のまま海水バラスト344トンを積載し,船首1.70メートル船尾3.36メートルの喫水をもって,平成17年2月9日11時55分同港を発し,関門港に向かった。
C船長は,関門港までの船橋当直を23時30分から03時30分まで及び11時30分から15時30分までを甲板長,03時30分から07時30分まで及び15時30分から19時30分までをA受審人にそれぞれ単独で当たらせ,自らは07時30分から11時30分及び19時30分から23時30分に1人で入直する4時間交替の3直制とし,12時30分発航後の操船を終え,見張りの励行など当直中の基本的な指示事項を記載した航海計画書を海図台に置き,船橋当直を甲板長に委ねて降橋した。
A受審人は,15時20分に昇橋して同時25分樺島灯台から087.5度(真方位,以下同じ。)6.1海里の地点で甲板長から船橋当直を引き継ぎ,自動操舵のまま針路を257度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.2ノットの速力で,作動中のレーダーを3海里レンジとして進行した。
当直を引き継いだとき,A受審人は,右舷方2ないし4海里の陸岸寄りに存在する約20隻の漁船群を認め,そのとき,左舷船首1度4.3海里のところに,みなとが存在したが,前方を一見したのみで同船を見落としたまま,前路には他船はないと思って,その後,船橋中央に備えた舵輪の後方に立って当直に当たり,時折,右舷側後部にある海図台に向かって海図上の予定進路や変針予定地点,離岸距離などを確かめたり,航海日誌の記載内容の確認をしながら続航した。
15時35分A受審人は,樺島灯台から092.5度4.1海里の地点に達したとき,左舷船首1度2.0海里のところに,みなとが存在し,その後,同船が漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げていないものの,その船型や低速力で進行している様子から,えい網中の底引き網漁船であることが分かる状況であったが,依然として前路には航行の支障となる他船はないものと思い,舵輪の後方に立ったまま,前方の見張りを十分に行うことなく,船首マストと2本のベント管などのほぼ見通し線上に存在する同船の存在に気付かず,その後その方位に変化がなく,衝突のおそれがある態勢で互いに接近することにも気付かなかった。
こうして,興和丸は,A受審人が,右転するなど,みなとの進路を避けることなく進行中,15時44分樺島灯台から104度2.4海里の地点において,原針路,原速力のまま,その左舷船首部が,みなとの左舷船首部に前方から11度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期であった。
興和丸は,A受審人が衝突したことに気付かないまま航行中,同日16時35分C船長が海上保安部からの電話を受けて衝突したことを知り,事後の措置に当たった。
また,みなとは,昭和55年12月に進水し,船体中央部に操舵室があって,主として小型底引き網漁業に従事する,有効な音響による信号を行うことができる設備を有さないFRP製漁船で,B受審人(平成3年2月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.50メートル船尾1.60メートルの喫水をもって,同日11時30分長崎県茂木港の係留地を発し,12時30分樺島灯台から070度9.5海里の地点に当たる,同港南南東方沖合の漁場に到着して操業を始め,14時40分1回目の操業を終えたのち,同県樺島南東方沖合約1.5海里の漁場に移動した。
15時22分B受審人は,船尾両舷から延出した長さ約600メートル直径20ミリメートルの合成繊維製の引き綱を,長さ約15メートルの袋網の両端から延出した同約6メートルの袖網にそれぞれ連結し,漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げないまま,針路を066度に定め,機関を半速力前進にかけて樺島灯台から114度2.0海里の地点を発進し,1.5ノットの速力で,自動操舵としてえい網を開始した。
発進して間もなく,B受審人は,周囲を一見したところ,前路に他船が見当たらなかったので,1回目の操業で獲た漁獲物を選別することにし,船尾左舷側の甲板上に座って選別作業を始め,その後,自船は操業中なので,付近を通航する船舶があっても通航船の方で避けてくれるものと思い,前方の見張りを十分に行わないまま作業に当たって進行した。
15時35分B受審人は,樺島灯台から108度2.2海里の地点に達したとき,右舷船首10度2.0海里のところに,西行して来る興和丸が存在し,その後その方位に変化がなく,衝突のおそれがある態勢で互いに接近したが,依然として前方の見張りを十分に行うことなく,このことに気付かず,選別作業を続けながら続航した。
こうして,みなとは,その後,興和丸に避航の気配がないまま同船と間近に接近したが,B受審人が,右転するなど,衝突を避けるための協力動作をとることなくえい網中,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果,興和丸は,左舷船首部外板に擦過傷を,みなとは,船首部外板及び船首楼甲板にそれぞれ損傷を生じ,のちいずれも修理された。
B受審人は,衝撃に驚いて前方を見たとき,左舷側至近に興和丸を認めて同船と衝突したことを知り,その旨を所属する漁業協同組合に連絡したのち,揚網し,自力航行して茂木港に入港した。
(海難の原因)
本件衝突は,長崎県樺島南東方沖合において,福岡県三池港から関門港に向けて航行中の興和丸が,見張り不十分で,漁ろうに従事しているみなとの進路を避けなかったことによって発生したが,みなとが,見張り不十分で,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,長崎県樺島南東方沖合において,福岡県三池港から関門港に向けて航行する場合,前路で漁ろうに従事しているみなとを見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,前方を一見したのみでみなとを見落としたまま,前路には航行の支障となる他船はないものと思い,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漁ろうに従事している同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近することに気付かず,右転するなど,その進路を避けないまま進行して衝突を招き,興和丸の左舷船首部外板に擦過傷を,みなとの船首部外板及び船首楼甲板にそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,長崎県樺島南東方沖合において,底引き網を引いて漁ろうに従事する場合,右舷船首方から接近して来る興和丸を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,自船は操業中なので,付近を通航する船舶があっても通航船の方で避けてくれるものと思い,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,興和丸に避航の気配がないまま,衝突のおそれがある態勢で互いに接近することに気付かず,右転するなど,衝突を避けるための協力動作をとらないままえい網を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
|