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 (海難の事実) 
1 事件発生の年月日時刻及び場所 
 平成16年11月9日15時08分 
 広島県安芸津港 
 (北緯34度19.0分 東経132度49.1分) 
 
2 船舶の要目等 
(1)要目 
| 船種船名 | 
旅客船第十五やえしま | 
交通船幸丸 | 
 
| 総トン数 | 
372トン | 
17トン | 
 
| 全長 | 
49.00メートル | 
16.00メートル | 
 
| 機関の種類 | 
ディーゼル機関 | 
ディーゼル機関 | 
 
| 出力 | 
1,176キロワット | 
514キロワット | 
 
 
 
(2)設備及び性能等 
ア 第十五やえしま 
 第十五やえしま(以下「やえしま」という。)は,平成2年6月に進水し,航行区域を平水区域に定め,船首部及び船尾部双方にランプドアを有する双頭型旅客船兼自動車渡船で,C社が運航し広島県安芸津港と同県大西港間の片道32分を要する定期航路に1日9往復就航していた。 
 操舵室は,車両,船楼,遊歩及び航海各甲板の四層となった最上層の航海甲板に,船員室や事務室などを挟んで船首側と船尾側に設置されて双方で操縦できるようになっており,双方の操舵位置は約9メートル離れ,両操舵室前側中央部に舵輪や主機操縦装置などが組み込まれた操縦スタンド及び同スタンド左舷側にレーダーが設置されていた。 
イ 幸丸 
 幸丸は,平成9年10月に現所有者が購入し,航行区域を平水区域に定め,船体中央部に操舵室を備えた定員15人のFRP製交通船で,専ら海上タクシーとして使用されており,運航しないときには,常時,安芸津港桟橋東側に係留されていた。 
 
3 安芸津港桟橋 
 安芸津港桟橋(以下「桟橋」という。)は,長さ約30メートル幅約15メートルの鉄筋コンクリート製浮桟橋で,陸岸から南方に延びる可動橋とほぼ直角に結ばれており,その南側をフェリーが,その東側及び西側を交通船などが使用し,その北側の両端にビットが設置されていた。 
 
4 やえしまの操舵室からの視認状況 
 やえしまの操舵室からの視認状況は,操舵位置からランプドア全体を見通すことができたが,桟橋のビットは両舷の遊歩甲板に遮られて見ることができないので,同ビットを見るためには操舵位置から離れて操舵室内を移動する必要があった。 
 
5 事実の経過 
 やえしまは,A受審人,B指定海難関係人及び機関長が乗り組み,平成16年11月9日14時29分大西港を発して15時01分安芸津港に着き,乗客及び車両を下船させたのち,乗客10人を乗せ,車両6台及び自転車1台を積載し,船首尾とも3.5メートルの喫水をもって,大西港に向かうこととした。 
 ところで,A受審人は,着桟して乗客や車両が乗下船している間は,桟橋中央部にランプドアを下ろした状態(以下,やえしまの桟橋側を船尾側とする。)で,機関を後進にかけて同ドア右舷側のピンホールに挿入したピンを桟橋側面に押し付けたうえ,同ドア左舷側のボラードと桟橋東側のビットに,その両端がアイ加工された係船索をとっていた。 
 15時06分B指定海難関係人は,乗客や車両の乗船が終了し,機関長がランプドア上に設置されている車両甲板出入口のゲート(以下「ゲート」という。)を閉めたのを認めたが,ボラードから係船索を放すことなく,ピンを上げるために右舷側で待機した。 
 15時07分A受審人は,船尾側操舵室において,ゲートが閉まっているのを確認したことから,発航準備ができているものと思い,同準備が適切に行われていることを確認しなかったので,係船索が放されていないことに気付かず,発航合図である短音1回の汽笛を吹鳴し,数秒間機関を前進にかけたのち機関を中立とし,船首側操舵室に移動して操縦を船首側に切り替えた。 
 機関長は,車両甲板船尾側で待機していたところ,発航合図の汽笛を聞いたのでランプドア操作ボタンを押して同ドアを巻き上げ,20度ばかり上がったときに係船索が放されていないことに気付いて巻き上げを中止し,この状況を船長に知らせるため非常用ブザーのボタンを押した。 
 B指定海難関係人は,ランプドアが上がり始めたとき,ボラードから係船索が放されていないことに気付いたが,同索が緊張していたので放すことができなかった。 
 A受審人は,非常用ブザーを聞いて急いで船尾側操舵室に戻ったとき,係船索が緊張して船体が左舷側に振られているのを認めたが,何をする間もなく,15時08分安芸津港防波堤灯台から真方位358度170メートルの地点において,やえしまの船尾ランプドア左舷側角が,桟橋東側に係留していた幸丸船尾部に衝突した。 
 当時,天候は晴で風力1の南東風が吹き,海上は平穏であった。 
 また,幸丸は,船首0.8メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,同月8日13時00分から桟橋東側に船首を北方に向けて左舷付けで係留していたところ,前示のとおり衝突した。 
 衝突の結果,やえしまには損傷はなかったが,幸丸は船尾部ブルワーク及び機関室左舷側囲壁に圧壊などを生じたが,のち修理された。 
 
6 事後の措置 
 C社は,本件発生に鑑み,係員が係船索を放したら手を振って船長に合図し,船長は同合図を確認したのちベルを1回鳴らす。係員は再度発航準備を確認してベルを1回鳴らし,船長はそれを聞いてランプドアを巻き上げるよう汽笛で指示する。係員は汽笛を聞いて同ドアを巻き上げたのちにベルを1回鳴らし,船長はそのベルを聞いて発航するよう改善措置をとった。 
 
(本件発生に至る事由) 
1 やえしま 
(1)操舵位置から係船索全体を見ることができなかったこと 
(2)B指定海難関係人が,ランプドアのボラードから係船索を放さなかったこと 
(3)A受審人が,発航準備が適切に行われていることを確認しなかったこと 
(4)A受審人が,発航後に船尾側操舵室から船首側操舵室に移動したこと 
 
2 幸丸 
 桟橋東側に係留したこと 
 
(原因の考察) 
 やえしまは,発航準備を適切に行い,発航前に係船索を放していれば,本件発生は防止できたものと認められる。 
 したがって,A受審人が発航準備が適切に行われていることを確認しなかったこと,及びB指定海難関係人が係船索を放さなかったことは,本件発生の原因となる。 
 操舵位置から係船索全体を見ることができなかったこと,及びA受審人が発航後に船尾側操舵室から船首側操舵室に移動したことは,本件発生にいたる過程において関与した事実であるが,いずれも本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。 
 幸丸が桟橋東側に係留したことは,本件発生の原因とならない。 
 
(海難の原因) 
 本件衝突は,広島県安芸津港において,やえしまが,発航準備が不適切で,係船索を放さないまま発航し,係船索が緊張して同船が係留中の幸丸側に振られたことによって発生したものである。 
 やえしまの発航準備が適切でなかったのは,船長が発航準備が適切に行われていることを確認しなかったことと,甲板員が係船索を放さなかったこととによるものである。 
 
(受審人等の所為) 
 A受審人は,広島県安芸津港から同県大西港に向けて発航する場合,発航準備が適切に行われていることを確認すべき注意義務があった。しかるに,同人は,ゲートが閉まっているので発航準備ができているものと思い,発航準備が適切に行われていることを確認しなかった職務上の過失により,係船索が放されていないことに気付かないまま発航して幸丸との衝突を招き,幸丸の船尾部ブルワーク及び機関室左舷側囲壁を圧壊させるに至った。 
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 
 B指定海難関係人が,広島県安芸津港から同県大西港に向けて発航する際,ランプドアのボラードから係船索を放さなかったことは,本件発生の原因となる。 
 B指定海難関係人に対しては,本件後,改善措置に従って安全運航に努めていることにより,勧告しない。 
 
 よって主文のとおり裁決する。 
 
 
参考図 
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