(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月13日03時15分
高知県清水港沖合
(北緯32度44.8分 東経132度56.92分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船聖栄丸 |
モーターボートディーキュービー |
総トン数 |
6.6トン |
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登 録 長 |
12.80メートル |
5.38メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
279キロワット |
36キロワット |
3 事実の経過
聖栄丸は,昭和52年12月に進水した,船体中央部やや後方に操縦室があるFRP製漁船で,平成15年6月に交付された一級小型船舶操縦士免許証を有するA受審人ほか1人が乗り組み,一本釣り漁業に従事する目的で,船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,同17年6月13日03時00分高知県清水港内にある清水漁港を発し,清水港南西方沖合20海里付近の漁場へ向かった。
03時07分半A受審人は,同港出口付近の土佐清水港灯台から134度(真方位,以下同じ。)260メートルの地点に達したとき,針路を185度に定め,機関を半速力前進の回転数毎分1,200にかけ,8.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,法定灯火を表示して,操縦室のいすに腰を掛けた姿勢で操縦に当たり,手動操舵によって進行した。
ところで,A受審人は,自船が8.0ノットの半速力前進で航走中,いすに腰を掛けた姿勢で操縦に当たると,浮上した船首によって水平線が隠れ,船首部両舷に渡って約8度の範囲に死角が生じることから,ときどき立ち上がるなり,船首を左右に振るなりして,船首死角を補う見張りを十分に行うことが求められる状況であった。
そして,03時13分A受審人は,土佐清水港灯台から177度1,530メートルの地点に至ったとき,正船首方500メートルのところに,ディーキュービー(以下「デ号」という。)が表示する錨泊灯及び船尾甲板を照らす作業灯を視認できる状況となったが,付近に航行の支障となるような他船を見掛けなかったことから,大丈夫と思い,前示船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,デ号の存在に気付かなかった。
こうして,A受審人は,やがて,デ号と衝突のおそれがある状況となったが,依然として,船首死角を補う見張りを十分に行わず,デ号を避けることなく続航中,03時15分少し前船首死角に隠れたデ号の灯火が,左舷船首方の海面に反射していることに気付き,急きょ,機関を全速力後進にかけたが,及ばず,03時15分土佐清水港灯台から179度2,030メートルの地点において,聖栄丸は,原針路のまま,速力が2.0ノットとなったとき,その右舷船首がデ号の右舷船尾に前方から25度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の末期に当たり,視界は良好であった。
また,デ号は,平成7年11月に進水した,エアーホーンなどの音響信号装置を装備していないFRP製モーターボートで,平成16年5月に交付された一級小型船舶操縦士免許証を有するB受審人が1人で乗り組み,釣りの目的で,船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって,同日02時30分清水漁港越地区を発し,清水港南方沖合1海里付近の釣り場へ向かった。
02時40分B受審人は,水深25ないし35メートルの同釣り場に到着して重さ4キログラムの錨を投下し,船首から錨索を約50メートル延出したのち,船体中央部やや後方に位置する操縦室上のマストに錨泊灯を表示したうえ,同マストに備え付けられている作業灯1灯を後部甲板に向けて点灯し,船外機をチルトアップ状態として錨泊を開始した。
そして,B受審人は,船尾甲板の左舷側に腰を掛けて釣竿を両舷から1本ずつ振り出し,船首を340度に向けて錨泊中,03時10分右舷船首25度1,230メートルのところに,聖栄丸が表示する白,緑,紅の3灯を視認したことから,その動静を監視していたところ,同時13分同船が方位に明確な変化がないまま500メートルの地点まで接近し,やがて,衝突のおそれがある状況となったが,自船が錨泊灯を表示していたことから,航行中の聖栄丸が避けてくれるものと思い,チルトアップしていた船外機を速やかに発動して少しばかり船体位置をずらすなりして,衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けた。
こうして,B受審人は,その後も,依然として,衝突を避けるための措置をとることなく錨泊中,03時14分聖栄丸が避航の気配のないまま,自船から250メートルの地点まで接近したことから,作業灯を同船に向けて照射したものの,効なく,03時15分前示のとおり衝突した。
衝突の結果,聖栄丸は右舷船首及びデ号は右舷船尾端に,それぞれ擦過傷を生じた。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,高知県清水港沖合において,漁場へ向けて航行中の聖栄丸が,見張り不十分で,前路で錨泊しているデ号を避けなかったことによって発生したが,デ号が,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,高知県清水港沖合において,漁場へ向けて航行中,操縦室のいすに腰を掛けて操縦に当たる場合,船首部に死角が生じていたのであるから,死角内の他船を見落とすことがないよう,いすから立ち上がるなり,船首を左右に振るなりして,船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,付近に航行の支障となるような他船を見掛けなかったことから,大丈夫と思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊していたデ号の存在に気付かず,同船に向首したまま進行して衝突を招き,自船の右舷船首及びデ号の右舷船尾に,それぞれ擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,夜間,高知県清水港沖合において,釣りを行うために錨泊中,自船に向首して接近する聖栄丸を認めた場合,そのままでは衝突するおそれがあったのであるから,衝突するような危険な事態に陥らないよう,機関を使用して少しばかり船体位置をずらすなりして,衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,自船が錨泊灯を表示していたことから,航行中の聖栄丸が避けてくれるものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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