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平成17年神審第90号
件名

貨物船新愛徳漁船千栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年1月17日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎,橋本 學,横須賀勇一)

理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:新愛徳一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:千栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
新愛徳・・・左舷船首外板に擦過傷を伴う凹損
千栄丸・・・船首外板と球状船首を圧壊

原因
千栄丸・・・居眠り運航防止措置不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
新愛徳・・・警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,千栄丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路を左方に横切る新愛徳の進路を避けなかったことによって発生したが,新愛徳が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月18日00時10分
 石川県金沢港北西方沖合
 (北緯36度46.4分 東経136度18.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船新愛徳 漁船千栄丸
総トン数 499トン 12トン
全長 75.35メートル 20.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 470キロワット
(2)設備及び性能等
ア 新愛徳
 新愛徳は,平成8年3月に進水した,船尾船橋型鋼製貨物船で,船橋内前面にレーダー2台,レピーターコンパス,操舵装置,汽笛スイッチ,主機及びバウスラスター制御部などを組み込んだコンソールがあった。コンソール中央後面には舵輪が取り付けられており,その後ろに移動させることができる木製の椅子が置かれていた。
 操船者が椅子に腰掛けていたとしても,窓枠などで一部死角が生じるのみであり,前方の視界は良好であった。
 海上試運転成績書による旋回試験では,左転で縦距が202メートル,横距が108メートル,右転で縦距が177メートル,横距が90メートルであった。
イ 千栄丸
 千栄丸は,平成12年10月に進水した,船体中央に操舵室のあるFRP製漁船で,操舵室右舷側に備えられた舵輪の前方に魚群探知機,GPSプロッター,レーダープロッター,磁気コンパス,主機操縦装置などが設置され,舵輪の後方には固定式の肘付き椅子が取り付けられていた。
 操舵室での舵やレーダーの操作,主機の制御などの操船については,前示椅子に腰掛けて行うようになっており,操舵室の左舷側には乗組員が立って操船の補助を行えるスペースがあった。
 舵輪後方からの前方視界は,窓枠や船首構造物で一部死角が生じていたが,体を左右に移動すれば,解消できるものであった。
 旋回径は,全長の2倍程度であった。

3 事実の経過
 新愛徳は,A受審人ほか4人が乗り組み,石炭灰1,033トンを積載し,船首3.20メートル船尾4.25メートルの喫水をもって,平成16年5月17日12時50分石川県七尾港を発し,福岡県苅田港に向かった。
 ところで,新愛徳での船橋航海当直は,船長とA受審人の2人による6時間2交替制で実施されており,概ね00時,06時,12時及び18時に当直交替が行われていた。
 A受審人は,同日23時30分ごろ昇橋して船長と当直を交替し,法定灯火が点灯していることを確認したあと,同時46分金沢港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から314度(真方位,以下同じ。)16.4海里の地点で,針路を207度に定め,機関を前進全速にかけ,9.8ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,舵輪の後方に置かれた椅子に腰掛けたまま自動操舵により進行した。
 翌18日00時05分A受審人は,西防波堤灯台から303度16.0海里の地点に達したとき,左舷船首48度1.4海里のところに千栄丸が表示する白,緑の2灯を認めたが,自船が保持船であったことから,同じ針路,速力のまま続航した。
 こうして,00時09分A受審人は,千栄丸が衝突のおそれのある態勢で同方位500メートルに接近したとき,就寝中の乗組員に遠慮して警告信号を行わず,いずれ千栄丸が自船の船尾を替わるものと思い,減速して大幅に右舵をとるなど,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行中,00時10分少し前,同船が間近に接近したことから右舵一杯をとったものの,効なく同時10分西防波堤灯台から300度15.8海里の地点において,新愛徳の船首が240度を向いたとき,その左舷船首外板に千栄丸の船首部が後方から59度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で,風力3の南西風が吹き,視界は良好であった。
 また,千栄丸は,B受審人ほか2人が乗り組み,あまえびの底引き網漁業の目的で,船首0.65メートル船尾2.20メートルの喫水をもって,法定灯火を点灯したうえで,同月17日22時40分石川県金沢港を発し,同港北西方沖合の漁場に向かった。
 ところで,あまえびの底引き網漁業は,毎年9月から翌年の6月までが漁期で,毎週土曜日,祝日の前日,毎月の第2,第4火曜日と海上の時化た日が休漁となるほかは,毎回23時ごろ出漁して3時間ほど航走して漁場に向かい,3時間ほどかかる操業を4回行って翌19時ごろ帰港する形態を繰り返すものであった。
 このときの出港は,前日に続く2日目で,B受審人は,家での睡眠を2時間余りとったのみで,漁場において曳網中に何回か休憩していたものの,疲労の蓄積を解消できないままであった。
 23時46分B受審人は,西防波堤灯台から300.5度11.1海里の地点に至ったとき,針路を299度に定め,機関を前進全速にかけ11.8ノットの速力で,前示椅子に腰掛けたまま自動操舵により進行した。
 こうして,B受審人は,連続した2日目の出漁で,睡眠不足による疲労を感じながら,同じ針路,速力で続航していたところ,23時58分西防波堤灯台から300度13.6海里の地点で急に眠気が襲ってきたが,なんとか我慢できるものと思い,休憩中の乗組員を呼んで2人で当直を行うなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,椅子に腰掛けたまま進行していたところ,いつしか居眠りに陥った。
 翌18日00時05分B受審人は,西防波堤灯台から300度14.8海里の地点で,右舷船首40度1.4海里に新愛徳の白,紅2灯を視認でき,その後,同船と方位が変わらず,衝突のおそれのある態勢で接近することが分かる状況となったが,居眠りしたまま,このことに気付かず,できる限り早期にかつ大幅に右転するなどして同船の進路を避けないで続航中,千栄丸は,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,新愛徳は,左舷船首外板に擦過傷を伴う凹損を生じ,千栄丸は,船首外板と球状船首を圧壊したが,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 新愛徳
(1)新愛徳での乗船経歴が短期間であったこと
(2)椅子に腰掛けて操船に当たったこと
(3)いずれ千栄丸が自船の後方を替わしてくれるものと思ったこと
(4)警告信号を行わなかったこと
(5)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 千栄丸
(1)肘付き椅子に座って操船に当たったこと
(2)急に眠気が襲ってきたとき,何とか我慢できるものと思ったこと
(3)居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(4)新愛徳の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,夜間,南下中の新愛徳と西行中の千栄丸とが,互いに進路を横切る態勢で接近して発生したものである。
 南下中の新愛徳が,衝突のおそれのある態勢で接近する千栄丸に対して警告信号を行っていたなら,B受審人が目を覚まして避航動作をとったものと認められ,また,間近に接近したとき,減速して大きく右転するなど衝突を避けるための協力動作をとっていたなら,衝突を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,就寝中の乗組員に遠慮して警告信号を行わず,いずれ千栄丸が自船の船尾を替わるものと思い,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人の新愛徳での乗船経歴が短期間であったことは,同船の船橋の設備がそれまで乗船していた他の内航貨物船のものとほぼ同じ仕様で操作に困難性がなかったことから,本件発生の原因とならない。
 A受審人が椅子に腰掛けて操船に当たったことは,それ自体が前方視界や十分な動静監視を妨げたとは認められないので,本件発生の原因とならない。
 一方,西行中の千栄丸が,居眠り運航の防止措置をとっておれば,前路を左方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近する新愛徳を認識して避航し,本件の発生を回避できたと認められる。
 したがって,B受審人が急に眠気が襲ってきたとき,何とか我慢できるものと思い,休憩中の乗組員を呼んで2人で当直を行うなど居眠り運航の防止措置をとらず,居眠り運航となって新愛徳の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,肘付き椅子に座って操船に当たったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,石川県金沢港北西方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際,西行中の千栄丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路を左方に横切る新愛徳の進路を避けなかったことによって発生したが,南下中の新愛徳が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,石川県金沢港北西方沖合において,操業が連続して疲労の蓄積が解消できないまま単独の操船で漁場へ向けて西行中,急に眠気が襲ってきた場合,居眠りに陥らないよう,休憩中の乗組員を呼んで2人で当直を行うなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,何とか眠気を我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,前路を左方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近する新愛徳の進路を避けずに進行して衝突を招き,千栄丸の船首外板と球状船首を圧壊し,新愛徳の左舷船首外板に擦過傷を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,夜間,石川県金沢港北西方沖合を南下中,千栄丸が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で間近に接近した場合,機関を減じて大きく右転するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,いずれ自船の船尾を替わるものと思い,衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,千栄丸との衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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