(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年3月17日12時34分
京浜港東京区
(北緯35度32.2分 東経139度50.3分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
引船第二 八洲丸 |
はしけ111浜吉丸 |
総トン数 |
36.78トン |
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全長 |
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35.00メートル |
登録長 |
16.46メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
588キロワット |
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船種船名 |
漁船源保丸 |
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総トン数 |
9.70トン |
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全長 |
18.08メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
77キロワット |
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(2)設備及び性能等
ア 第二 八洲丸
第二 八洲丸(以下「八洲丸」という。)は,昭和47年10月に進水した,平水区域を航行区域とする鋼製引船で,船尾に曳航フックを有し,操舵室には,自動操舵装置,主機遠隔操縦装置,モーターホーン,レーダー等が備えられ,航行中の動力船の灯火に加えて,引船の灯火及び黄色回転灯を表示することができた。
イ 111浜吉丸
111浜吉丸(以下「浜吉丸」という。)は,積トン数570トンのはしけで,推進装置はなく,舵が備えられていた。
ウ 源保丸
源保丸は,昭和62年11月に進水した,限定沿海区域を航行区域とする小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部の操舵室には,主機遠隔操縦装置,モーターホーン,GPSプロッター,魚群探知機等が備えられていたが,レーダーは装備していなかった。
3 源保丸の操業形態
源保丸は,しばえび漁をする際,40分ないし1時間で同じ地点に戻ってくるよう,僅(わず)かな左舵をとり,緩やかに左転しながら,2.5ノットの曳網速力で進行することを通常の操業形態としていた。
4 事実の経過
八洲丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,乗組員1人が乗船して麦500トンを積んだ浜吉丸を曳航し,平成17年3月17日02時00分京浜港横浜区のはしけだまりを発し,千葉港に向かった。
08時00分八洲丸は,千葉港のC社私設岸壁に着き,揚荷を行って船首尾とも0.5メートルの等喫水となった浜吉丸を空倉のまま,八洲丸の曳航フックと浜吉丸の船首部ビットとを化学繊維製曳航索で連結し,八洲丸船尾から浜吉丸船尾まで約110メートルとする引船列(以下「八洲丸引船列」という。)を形成し,船首1.2メートル船尾2.3メートルの喫水をもって,10時55分同港を出航し,京浜港横浜区のはしけだまりに向けて帰途に就いた。
A受審人は,出航後,操舵室右舷側の椅子(いす)に腰を掛けて操船に当たって千葉航路を航行し,12時04分東京灯標から073度(真方位,以下同じ。)3.36海里の地点で,針路を222度に定めて自動操舵とし,そのころ霧模様で視程が500メートルに狭められて視界制限状態となっていたが,所定の灯火を掲げることも,霧中信号を行うこともせず,レーダーは起動しているだけで見張りを専ら目視に頼り,機関を全速力前進にかけ,7.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
12時22分A受審人は,東京灯標から114.5度1.80海里の地点に達したとき,レーダーで右舷船首5度2.0海里のところに源保丸の映像を探知でき,同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを判断できたが,レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることなく続航した。
A受審人は,12時28分半源保丸が右舷船首5度1,690メートルのところで北東方に左転したことを認めないまま,12時29分東京灯標から144.5度1.75海里の地点に達し,船首方に認めた漁船を避けて針路を237度に転じたところ,源保丸が左舷前方に位置して,同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが,依然,レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて停止することなく,同じ針路,速力で進行した。
12時32分少し過ぎA受審人は,東京灯標から158度1.79海里の地点に達したとき,左舷船首11度500メートルに源保丸を目視できるようになり,そのまま進行すると衝突のおそれがある態勢となったが,右舷前方に認めた第三船に気をとられ,左舷前方の見張りを十分に行っていなかったので,源保丸と衝突のおそれが生じたことに気付かず,直ちに右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
12時34分少し前A受審人は,100メートルに近付いた源保丸を初めて視認したが,依然,衝突のおそれが生じていることに気付かないまま,同船が自船の左舷至近を替わり,12時34分東京灯標から165度1.85海里の地点において,八洲丸引船列は,原針路,原速力のまま,浜吉丸の船首に源保丸の右船首部が前方から57度の角度で衝突した。
当時,天候は霧で風はほとんどなく,視程は500メートルで,潮候は下げ潮の中央期であった。
また,源保丸は,B受審人ほか1人が乗り組み,しばえび漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水をもって,同日04時30分千葉県小糸川漁港を発し,06時30分東京湾北部の漁場に至り,所定の形象物を掲げて操業を開始した。
B受審人は,12時10分前示衝突地点の900メートルほど西方に当たる,東京灯標から180度1.87海里の地点で,6回目の投網に取り掛かったころから霧模様となり,視程が500メートルに狭められて視界制限状態となったが,まだ周囲が見えるから大丈夫と思い,所定の灯火を掲げることも,霧中信号を行うこともせず,12時15分曳網を始め,長さ8メートルのビームで網口を広げた長さ22メートルの袋状の網を船尾から100メートル延出した1本の曳網索で引き,12時21分半同灯標から176.5度2.11海里の地点に達したとき,針路を065度に定め,機関を極微速力前進にかけ,2.5ノットの曳網速力で,操舵室の後方に立ち,手動操舵によって進行した。
12時22分B受審人は,レーダーを装備していなかったので,左舷船首17度2.0海里のところにいる八洲丸引船列の存在に気付かず,12時27分東京灯標から171度2.04海里の地点に達して,針路を071度に転じたのち,曳網開始地点付近に戻るつもりで,12時28分半同灯標から169度2.03海里の地点に達し,左転して針路をいったん036度に転じ,更に僅かな左舵をとり,緩やかに左転を続け,半径500メートルの円弧を画く態勢で北上していたところ,12時29分同引船列が右転し,右舷船首方から接近するようになったが,このことに気付かず続航した。
12時32分少し過ぎB受審人は,東京灯標から166度1.91海里の地点に至り,源保丸が019度に向首したとき,右舷船首27度500メートルに八洲丸引船列を初めて視認し,そのまま回頭しながら進行すると衝突のおそれがある態勢となったが,一瞥(いちべつ)しただけで無難に航過できると思い,動静監視を十分に行っていなかったので,同引船列と衝突のおそれが生じたことに気付かず,直ちに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
B受審人は,注意喚起の目的で黄色回転灯を点灯し,僅かな左舵のまま,操舵室を離れて船尾甲板で漁獲物を整理していたところ,12時34分わずか前船首至近を通過する八洲丸を認め,急ぎ機関を中立運転としたが,000度に向首し,行きあしがほぼ止まったころ,源保丸は,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,浜吉丸は左舷船首部に擦過傷を生じ,源保丸は右舷船首部舷縁に破口及び亀裂などを生じたが,のち修理された。
(航法の適用)
本件は,霧のため視程が500メートルの視界制限状態となった京浜港東京区において,南西進中の八洲丸引船列と緩やかに左転しながら北上中の源保丸とが衝突したものであり,適用航法について検討する。
京浜港は港則法が適用される港であるが,当初,両船は互いに他の船舶の視野の内になかったので,同法には適用すべき避航に関する規定がないことから,海上衝突予防法(以下「予防法」という。)第19条視界制限状態における船舶の航法が適用される。
その後,両船が相互に目視できるようになってからは,港則法の避航に関する規定及び予防法の互いに他の船舶の視野の内にある船舶の航法に従って適切な衝突回避の措置をとるべきである。しかし,源保丸が,衝突の5分30秒前,両船間の距離が1,690メートルのとき,操業の目的で左転し,更に僅かな左舵をとり,緩やかに左転を続け,衝突の1分45秒前,源保丸が八洲丸引船列を右舷船首27度500メートル,八洲丸引船列が源保丸を左舷船首11度同距離に見る態勢となったとき,衝突のおそれが生じたもので,両船には衝突を避けるための措置をとる時間的,距離的余裕はあったが,両船の互いに視認する相対方位は,衝突に至るまで時々刻々変化する態勢であり,港則法及び予防法にはこの関係を規定する具体的な条文はなく,船員の常務によるのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 八洲丸引船列
(1)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて停止しなかったこと
(2)霧中信号を行わなかったこと
(3)法定灯火を表示しなかったこと
(4)レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(5)源保丸を目視できるようになった際,右舷前方の第三船に気をとられ,左舷前方の見張りを十分に行わなかったこと
(6)衝突を避けるための措置をとらなかったこと
2 源保丸
(1)港域内で漁ろうに従事していたこと
(2)緩やかに左転しながら曳網していたこと
(3)霧中信号を行わなかったこと
(4)法定灯火を表示しなかったこと
(5)レーダーを装備していなかったこと
(6)八洲丸引船列を視認した際,一瞥しただけで無難に航過できると思い,動静監視を十分に行わなかったこと
(7)衝突を避けるための措置をとらなかったこと
3 気象等
衝突地点付近が霧のため視程500メートルの視界制限状態となっていたこと
(原因の考察)
八洲丸引船列が,霧のため視界制限状態となった京浜港東京区を南西進する際,霧中信号及びレーダーによる見張りを十分に行い,源保丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて停止し,更に,源保丸を目視できるようになった際,左舷前方の見張りを十分に行い,衝突を避けるための措置をとっていたなら,本件は発生していなかったものと認められる。
したがって,A受審人が,霧中信号を行わなかったこと,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて停止しなかったこと,源保丸を目視できるようになった際,右舷前方の第三船に気をとられて,肉眼による左舷前方の見張りを十分に行わなかったこと,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
A受審人が法定灯火を表示しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
一方,源保丸が,霧のため視界制限状態となった京浜港東京区を緩やかに左転しながら北上する際,霧中信号を行い,また,八洲丸引船列を視認した際,動静監視を十分に行い,衝突を避けるための措置をとっていたなら,本件は発生していなかったものと認められる。
したがって,B受審人が,霧中信号を行わなかったこと,八洲丸引船列を視認した際,一瞥しただけで無難に航過できると思い,動静監視を十分に行わなかったこと,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
B受審人が法定灯火を表示しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
源保丸がレーダーを装備していなかったこと,衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
また,源保丸が,緩やかに左転しながら曳網していたことは,同船の通常の操業形態であり,同船の左転開始は,両船が相互に目視できるようになって衝突のおそれが生じる以前であるから,本件発生の原因とするまでもない。
なお,港則法第35条においてみだりに漁ろうを行うことが禁止されるのは,船舶が輻輳する水域,あるいはその時間帯であり,港則法が適用される港における漁ろうをすべて禁止したものではない。衝突地点は,東京西航路入口から南東へ3.3海里及び東京パイロットステーションから南南西へ1.1海里であり,一般船舶の航路への出入りが妨げられたり,船舶が輻輳する水域とは認めがたい。更に,源保丸と八洲丸引船列との間に衝突のおそれが生じたとき,同引船列は,左右に回頭できる十分な操船余地があったことから,源保丸が港域内で漁ろうに従事していたことは,本件発生の原因とはならない。
(海難の原因)
本件衝突は,霧のため視程が500メートルに制限された京浜港東京区において,八洲丸引船列が,南西進する際,霧中信号を行わず,レーダーによる見張り不十分で,北上中の源保丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて停止しなかったばかりか,源保丸を目視できるようになった際,左舷前方の見張りが不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,源保丸が,緩やかに左転しながら北上する際,霧中信号を行わなかったばかりか,八洲丸引船列を目視できるようになった際,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,霧のため視程が500メートルに制限された京浜港東京区を南西進中,左舷前方500メートルのところに接近する源保丸を目視できるようになった場合,同船を見落とさないよう,左舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,右舷前方の第三船に気をとられ,左舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,源保丸と衝突のおそれが生じたことに気付かず,衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き,浜吉丸の左舷船首部に擦過傷を,源保丸の右舷船首部舷縁に破口及び亀裂などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,霧のため視程が500メートルに制限された京浜港東京区において,曳網して緩やかに左転しながら北上中,右舷前方500メートルのところに接近する八洲丸引船列を視認した場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,一瞥しただけで無難に航過できると思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,八洲丸引船列と衝突のおそれが生じたことに気付かず,衝突を避けるための措置をとらないまま緩やかに左転を続けて同引船列との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図1
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参考図2
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