(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月8日08時15分
宮城県日門漁港三島分区南西方沖合
(北緯38度48.5分 東経141度34.1分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船富山丸 |
漁船常丸 |
総トン数 |
0.75トン |
0.5トン |
登録長 |
5.13メートル |
6.04メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
30 |
3 事実の経過
富山丸は,和船型FRP製漁船で,平成15年11月に交付された二級小型船舶操縦士(5トン限定)免許及び特殊小型船舶操縦士の各免許を所有するA受審人が1人で乗り組み,たこ釣り漁や刺網漁を行う目的で,船首0.10メートル船尾0.20メートルの喫水をもって,平成16年11月8日06時10分宮城県日門漁港三島分区(以下「三島分区」という。)を発し,漁場に向かった。
06時15分A受審人は,日門港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から100度(真方位,以下同じ。)430メートルばかりの漁場に至り,漂泊してたこ釣りを始めたが,釣果が思わしくなかったので,同灯台から038度590メートルの地点に仕掛けた刺網に移動し,その後刺網を順に移動して網にかかった魚を捕獲したのち,07時32分再びたこ釣りをするため,同灯台から075度1,040メートルの地点を発進して釣り場に向かった。
07時35分A受審人は,防波堤灯台から094度830メートル付近に至り,船首を227度に向け,機関を停止して漂泊しながら,立って左舷方を向き,たこ釣りを再開した。
08時14分半わずか前A受審人は,右舷船尾38度260メートルのところに,三島分区を発航した常丸が自船に向首し,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となっていたが,たこ釣りに気をとられ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま釣りを続けた。
こうして,富山丸は,船首を227度に向けたまま,A受審人が常丸の接近に気付かないで,たこ釣り中,08時15分わずか前同船の機関音に気付いて後ろを振り向き,至近に迫った同船に初めて気付いたものの,衝突を避けるための措置をとる暇もなく,08時15分防波堤灯台から094度830メートルの地点において,その右舷中央部外板に常丸の船首部が右舷後方から38度の角度をもって衝突した。
当時,天候は晴で,風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期で,視界は良好であった。
また,常丸は,和船型FRP製漁船で,平成16年7月に交付された一級小型船舶操縦士及び特殊小型船舶操縦士の各免許を所有するB受審人が1人で乗り組み,船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって,同日08時13分三島分区を発し,わかめ養殖施設の錨綱補修の目的で,修理を依頼した潜水夫を乗せた船とともに同施設に向かった。
ところで,常丸の船尾部には,船外機を中心としてその右舷側に燃料タンクを,同タンクから少し空所を設け,船外機の左舷側に物入れをそれぞれ設けてあり,B受審人は,平素から同タンクに腰掛けて操舵していた。また,速力が10ノット以上になると,燃料タンクに座って操舵する際,正船首から左舷方に約12度,同右舷方に約4度の死角を生じ,前路の見張りが妨げられる状況となるので,航行するにあたっては,船首を左右に振るなどして前路の死角を補うようにしていた。
B受審人は,船外機のチラーを握り,徐々に速力を上げながら港内を航行し,08時14分半わずか前防波堤の先端10メートルばかり沖合いの,防波堤灯台から077度890メートルの地点に達したとき,針路を189度に定め,機関回転数を微速力前進より少し落とし,13.0ノットの対地速力とし,手動操舵により進行した。
定針したとき,B受審人は,正船首260メートルのところに,漂泊中の富山丸を視認でき,その後,同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,左舷前方に存在した3隻のたこ釣り漁船に気をとられ,船首を左右に振るなどして前路の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,富山丸を避けることなく続航した。
こうして,常丸は,B受審人が富山丸を避けないまま進行中,08時15分わずか前死角から現れた同船を初めて認め,左舵一杯とし,ほぼ同時に機関停止としたが,及ばず,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,富山丸は,右舷中央部外板及び揚網機に損傷を,常丸は,船首部に擦過傷をそれぞれ生じたが,富山丸の損傷は修理され,常丸の擦過傷はそのままとされた。
(海難の原因)
本件衝突は,宮城県日門漁港三島分区南西方沖合において,常丸が,見張り不十分で,漂泊中の富山丸を避けなかったことによって発生したが,富山丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,宮城県日門漁港三島分区南西方沖合において,前路に死角を生じた状態で,わかめ養殖施設に向けて航行する場合,漂泊中の富山丸を見落とすことのないよう,船首を左右に振るなどして前路の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷前方のたこ釣り漁船に気をとられ,船首を左右に振るなどの死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊中の富山丸に気付かず,同船を避けることなく進行して同船との衝突を招き,自船の船首部に擦過傷を,富山丸の右舷中央部外板及び揚網機に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は,宮城県日門漁港三島分区南西方沖合において,漂泊してたこ釣りを行う場合,自船に向首接近する常丸を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,たこ釣りに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,接近する常丸に気付かず,衝突を避けるための措置をとることなくたこ釣りを続けていて常丸との衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。
参考図
(拡大画面:24KB) |
|
|