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平成17年仙審第51号
件名

漁船第三十一観音丸漁船第二十三稲荷丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年1月19日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄,半間俊士,大山繁樹)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第三十一観音丸漁ろう長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第二十三稲荷丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
C 職名:第二十三稲荷丸甲板長

損害
第三十一観音丸・・・左舷側ガロース及びオッターボード損傷
第二十三稲荷丸・・・右舷船首外板を圧壊

原因
第二十三稲荷丸・・・居眠り運航防止措置不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第三十一観音丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第二十三稲荷丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,漂泊中の第三十一観音丸を避けなかったことによって発生したが,第三十一観音丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月20日04時50分
 宮城県志津川湾東方沖合
 (北緯38度40.35分 東経141度44.24分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十一観音丸 漁船第二十三稲荷丸
総トン数 19トン 19トン
全長 24.30メートル 24.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 669キロワット 558キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第三十一観音丸
  第三十一観音丸(以下「観音丸」という。)は,平成15年2月に進水した,沖合底引き網漁業に従事するFRP製漁船で,D社製造の主機を備え,プロペラ翼4枚の固定ピッチプロペラを有し,その航海速力は約13ノットであった。また,バウスラスタの設備があるほか,航海計器としてレーダー1台及び衛星航法装置などを備え,操業用として魚群探知器を備えていた。
イ 第二十三稲荷丸
 第二十三稲荷丸(以下「稲荷丸」という。)は,沖合底引き網漁業に従事するFRP製漁船で,D社製造の主機を備え,プロペラ翼3枚の固定ピッチプロペラを有し,その航海速力は約11ノットであった。また,バウスラスタの設備があるほか,航海計器としてレーダー2台及び衛星航法装置などを備え,操業用として魚群探知器を備えていた。

3 事実の経過
 観音丸は,船長E及びA受審人ほか3人が乗り組み,操業の目的で,船首0.85メートル船尾2.05メートルの喫水をもって,平成16年11月20日02時30分法定灯火を点灯して宮城県女川港を発し,同県志津川湾東方沖合の漁場に向かった。
 ところで,観音丸は,港から漁場までの往路と漁場での曳網中,A受審人が休息を取る3時間ばかりの時間をE船長が船橋当直(以下「当直」という。)を行い,操業中のA受審人が休息する時間以外と漁場から港までの復路を同人が当直に立つようにしており,他の乗組員については,往路は休息し,復路は,港に着いた際に水揚げ作業を直ぐにできるよう,漁獲物の選別作業を行うようにしていた。
 E船長は出港操船に引き続いて単独の当直にあたり,港域を出たのち,機関を全速力前進にかけ,12.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)として東進し,03時20分陸前江島灯台から331度(真方位,以下同じ。)2.3海里の地点に達したとき,針路を029度に定め,自動操舵により進行した。
 04時40分E船長は,歌津埼灯台から098度8.6海里付近の漁場に至り,予定の操業時刻まで待機することとして機関を中立運転とし,法定灯火のほか船橋の前方,中マストの周囲及び船尾部に設置された500ワットの投光器を点灯して漂泊を始め,操舵室内のベッドで休息中のA受審人を起こして当直を引き継ぎ,自らは降橋して船員室に戻り,ベッドで休息した。
 当直を引き継いだA受審人は,睡眠から目が覚めたばかりであったので,コーヒーを入れて飲んだあと,操舵室内を歩きながら,周囲に多数の漁船が存在したので,どのように曳網するかを考えていたところ,04時47分船首が045度を向いていたとき,右舷船尾14度1,000メートルのところに,稲荷丸の白,紅,緑3灯を視認でき,その後,同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,レーダーを監視するなどして船尾方向の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かなかった。
 こうして,観音丸は,A受審人が自船に向首接近する稲荷丸に対して警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中,04時50分歌津埼灯台から098度8.6海里の地点において,観音丸の左舷船尾に,稲荷丸の右舷船首が右舷後方から14度の角度をもって衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の北西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 また,稲荷丸は,B受審人及びC指定海難関係人ほか3人が乗り組み,操業の目的で,船首0.70メートル船尾2.50メートルの喫水をもって,同日02時30分宮城県女川港を発し,航行中の動力船が掲げる法定灯火のほか,マスト頂部に紅色全周灯及び船尾部に作業灯を点灯したまま漁場に向かった。
 B受審人は,出港操船を終えたのち,機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力とし,03時00分少し前C指定海難関係人に対し,しばらく東進して,出島の南東方沖合に達したらGPSプロッターに記憶させている針路線に合わせて北上し,漁場に着いたら起こせとのみ指示し,連続操業が続く状況下,同人に単独の当直を委ねることにしたが,眠気を催したときなどには報告するよう指示することなく,霧模様となったら,他船などに気を付けて行くようにとのみ指示し,03時00分陸前江島灯台から293度5.3海里の地点で降橋し,休息した。
 03時17分C指定海難関係人は,操舵室の電気ヒーターと無線機のスイッチを入れて航行し,陸前江島灯台から325.5度3.0海里の地点に達したとき,GPSプロッターで予定の定針地点に来たことを知り,針路を031度に定め,いすに腰を掛けて自動操舵により進行した。
 04時35分少し過ぎC指定海難関係人は,歌津埼灯台から117度7.9海里の地点に達したとき,正船首1.7海里のところに,観音丸が点灯した作業灯のほか船尾灯を視認し,同船が北上する船であることを知った。
 04時40分C指定海難関係人は,歌津埼灯台から110.5度8.1海里の地点に至り,連日の操業で疲労が蓄積し,眠気を覚えるようになったが,予定の漁場まであと1.8海里ばかりなので,それまでの間に居眠りに陥ることはあるまいと思い,このことをB受審人に報告しないまま,依然としていすに腰を掛け,立ち上がって手動で操舵するなどの居眠り運航の防止措置をとらないで続航しているうち,いつしか居眠りに陥った。
 こうして,稲荷丸は,C指定海難関係人が居眠りしたまま進行中,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,観音丸は,左舷側のガロース及びオッターボードなどに損傷を生じ,稲荷丸は,右舷船首部外板を圧壊した。

(航法の適用)
 本件は,宮城県志津川湾東方沖合において,漁場に向けて北上中の稲荷丸と予定の操業開始時間を待って漂泊中の観音丸とが衝突したものである。
 このような場合,適用すべき定形航法がないところから,海上衝突予防法第38条及び第39条を適用して船員の常務で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 観音丸
(1)A受審人が,船長から当直を引き継ぐ際,周囲の状況についての確認をしていなかったこと
(2)A受審人が,レーダーを活用するなどして周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(3)A受審人が,警告信号を行わなかったこと
(4)A受審人が,衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 稲荷丸
(1)B受審人が,C指定海難関係人に対して眠気を覚えたときには報告するように指示していなかったこと
(2)C指定海難関係人が,いすに腰を掛けていたこと
(3)無線機のスイッチを入れていたが,漁ろう長などの休息時間帯で船舶間の交信音がない時間帯であったこと
(4)電気ヒーターのスイッチを入れて操舵室内を暖房していたこと
(5)眠気を催すようになったことを報告しなかったこと
(6)C指定海難関係人が,眠気を覚えた際,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(7)C指定海難関係人が,居眠りしたこと

(原因の考察)
 本件は,宮城県志津川湾東方沖合において,予定の操業開始時刻を待って漂泊中の観音丸と漁場に向かって北上中の稲荷丸とが衝突したものであるが,以下その原因について考察する。
 A受審人が,船尾方向の見張りを十分に行っていなかったため,後方から衝突のおそれがある態勢で接近する稲荷丸に気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもしなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,C指定海難関係人に対し,眠気を覚えたときには報告するように指示しなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人が,眠気を覚えた際,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人が,暖房を効かせていたこと,いすに腰掛けて当直していたこと及び無線機のスイッチを入れていたものの,僚船の船長や漁ろう長の休息時間帯であったため,船舶間の交信音が聴取されなかったことは本件発生に関与した事実ではあるが,本件発生の原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,宮城県志津川湾東方沖合において,第二十三稲荷丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,漂泊中の第三十一観音丸を避けなかったことによって発生したが,第三十一観音丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかっ たことも一因をなすものである。
 第二十三稲荷丸の運航が適切でなかったのは,船長が船橋当直者に対し,眠気を催した際,その旨を報告するよう指示しなかったことと,船橋当直者が眠気を催した際,その旨を船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)

 B受審人は,宮城県志津川湾東方沖合において,漁場に向けて北上中,船橋当直をC指定海難関係人に委ねる場合,同人が連続操業が続いて疲労が蓄積していたのであるから,居眠り運航とならないよう,眠気を催したときにはその旨を報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,眠気を催したときにはその旨を報告するよう指示しなかった職務上の過失により,C指定海難関係人からその旨の報告が得られず,同人が居眠りに陥ったまま進行して第三十一観音丸との衝突を招き,同船の左舷側ガロース及びオッターボードなどに損傷を生じさせ,自船の右舷船首部外板を圧壊するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,夜間,宮城県志津川湾東方沖合において,予定の操業開始時刻を待つため,漂泊して待機する場合,他船の動向を的確に把握できるよう,レーダーを監視するなどして船尾方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船尾方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,第二十三稲荷丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊していて同船との衝突を招き,前示損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が,船橋当直中,眠気を催した際,その旨をB受審人に報告せず,居眠り運航の防止措置をとらないまま,居眠りしたことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては,勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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