(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月29日07時18分
北海道小樽港
(北緯43度11.6分 東経141度01.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船リンドス |
総トン数 |
31,643トン |
全長 |
215.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
9,487キロワット |
(2)設備及び性能等
リンドスは,1990年1月に進水した,載貨重量4万トンから5万トンクラスのハンディーマックス型と呼称される船尾船橋型ばら積貨物船で,船橋前面から船首端までが約170メートル,船尾端までが約45メートルであった。
船橋は,中央部の操舵スタンド右舷側に機関遠隔操縦装置やテレグラフを備えたコンソールが,左舷側に灯火及び照明制御装置等の備わったコンソールがそれぞれ置かれ,メインレーダーが右舷端に,サブレーダーが左舷端にそれぞれ取り付けられていた。同スタンド後部には横長の棚が設置され,その左舷側にはインマルサット受信機を含む通信機器が,中央部にドップラーソナー及びGPS受信機が並んで置かれ,右舷側後部角に海図台が設置されていた。また,操舵スタンド前方の船橋前面窓ガラス近くにレピータコンパスが備えられていた。
港内速力は,全速力前進が機関回転数毎分80で12.0ノット,半速力前進が同65で10.0ノット,微速力前進が同55で9.0ノット,極微速力前進が同45で7.5ノットで,舵角35度で旋回したときの最大縦距及び最大横距は,それぞれ左舵で610メートル,800メートル,右舵で560メートル,770メートルであった。
3 小樽港
小樽港は,石狩湾南部の高島岬南側に位置する北東方に開いた特定港で,同港北部の厩町岸壁突堤から南東方に約1,300メートル延びる北防波堤,同防波堤南端付近から東南東方に約280メートル延び,東端に小樽港北副防波堤灯台(以下「北副防波堤灯台」という。)が設置された北副防波堤,同港南端の平磯岬から北西方に約800メートル延びる南防波堤,その北端から更に同方向に約900メートル延び,北端に小樽港島堤灯台(以下「島堤灯台」という。)が設置された島堤等の防波堤が築造され,北副防波堤灯台南側が港口で,北防波堤南端と島堤北端間が可航幅180メートルの防波堤入口となり,港界から北副防波堤南側を経て防波堤入口の210メートル内側まで航路が設定されていた。
これら防波堤と陸岸で囲まれる水域北側の第1区には,北から順に色内ふ頭,第3ふ頭,第2ふ頭,港町ふ頭が,南側の第2区には,北から順に中央ふ頭,勝納ふ頭がそれぞれ構築され,港界と防波堤とに囲まれる水域が第3区となっており,載貨重量6万トンから8万トンクラスのパナマックス型船舶及びハンディーマックス型船舶(以下「大型船」という。)を操船するには水域や水深が十分ではなかった。
また,平成10年までに防波堤入口から港町ふ頭,勝納ふ頭1号岸壁にかけての水域が13.1メートルに掘り下げられることとなり,同9年3月には小樽市港湾部が委託した民間の海事コンサルティング機関によるパナマックス型船舶を想定した大型船操船シミュレータ実験が水先人も参加して行われ,入出港操船のための安全対策が検討された。
その結果,小樽港長が入港条件として提示していた,入港時の喫水が11.9メートルを超えないこと,風速毎秒10メートル以下であること,水先人を2人乗船させること,入港時タグボート(以下「タグ」という。)を3隻配備すること等を充たすことによって,パナマックス型船舶を安全に入港させることが確認され,ハンディーマックス型船舶の入港については,タグの配備が2隻とされ,他は同じ条件が付されることになった。
平成13年6月入港船舶の減少によりそれまで2人体制であったF水先人会が1人体制となったことから,水先人の乗船条件が2人から1人に緩和され,現在に至っていた。
平成13年以降,本件発生までに小樽港に入港したパナマックス型船舶は17隻,ハンディーマックス型船舶は,リンドスを含め15隻であった。
4 タグ
小樽港では,港内に常駐する出力1,912キロワットの全旋回式Z型推進装置を備えたタグB丸,同C丸のほか石狩湾港に常駐する出力1,471キロワットの同様の装置を装備したタグD丸の利用が可能であり,3隻の航行区域は平水区域であった。
また,B丸は昭和54年に,C丸は同55年にそれぞれ建造され,両船とも速力計を備えていなかった。
B丸とC丸が,ハンディーマックス型船舶に付く場合,小樽港沖合2,500メートルばかりが航行区域となっていたが,船員法適用の除外を受けるため小樽港内のみを航行する船舶として北海道運輸局の認定を受けていたことから,操船補助業務は港内に限定され,また,港界から防波堤入口までの距離が約400メートルと余裕がなかったこともあり,その間で船尾からタグラインをとることは困難な状況であった。一方,パナマックス型船舶が入港する際には,D丸が臨時変更証を取得して石狩湾港から来航していたので,同船が港外で船尾からタグラインをとっていた。
5 入港操船
防波堤入口から中央ふ頭沖合を南東方に延びる掘り下げ区域境界線までの奥行きは800メートルしかなく,270度(真方位,以下同じ。)の針路で同入口を通過した全長200メートルを超える大型船を,掘り下げ区域の中で勝納ふ頭沖合に向く150度まで大きく左回頭させるには,浅水影響による旋回圏の増大を考慮したとき,港口通過時の速力の制御や適切なタグの運用が求められていた。
そこで,A受審人は,ハンディーマックス型の場合,港口通過時の速力を5ノット(対地速力,以下同じ。)程度とし,防波堤入口を通過後,左舵一杯とし,2隻のタグを右舷船首と左舷船尾にそれぞれ頭付けで押させながら回頭し,勝納ふ頭に向首したところで機関を停止し,惰力で同ふ頭に向かうことにしていたが,機関を停止して勝納ふ頭に向首するころの船体は,島堤北端と中央ふ頭北端を結ぶ線のほぼ中央に位置していた。また,船体を押す2隻のタグは,2機2軸の特性を利用して入港船と同じ速力で横移動しながら押すのであるが,入港船の速力が3ノットを超えるとタグの正横方向への推力が大きく減じられることから,回頭時には,船体の進出距離,回頭状況等に十分に留意し,予定する操船と異なり,島堤北端と中央ふ頭北端を結ぶ線の中央から大きく逸脱するおそれがあるときは,直ちに機関を停止し,状況に応じて後進にかけるなどの措置をとる必要があった。
6 事実の経過
リンドスは,船長Eほかウクライナ人28人が乗り組み,飼料用原料のコーンなど44,740トンを積載し,平成16年4月22日(現地時間)アメリカ合衆国ニューオリンズ港を発し,小樽港に向かい,越えて5月28日20時00分船首尾11.6メートルの等喫水をもって,北副防波堤灯台の北東方約1.5海里の地点に投錨し,翌29日06時35分抜錨と同時にA受審人を乗船させ,同人の嚮導のもと,勝納ふ頭1号岸壁に向かった。
ところで,水先人乗船時,同人が入港船船長に署名を求める水先約款には,本船の全長,幅,喫水や港内速力を水先人に通知する船長の義務について記載され,通常,船長は,それらを記入したパイロットインフォメーションを水先人に提示し,署名を求めるのが一般的であったが,E船長はこれを提示しなかった。
一方,A受審人は,入港船情報で本船の全長がパナマックス型船舶とほぼ同じであることや船橋から船首尾までの距離を知っていたものの,リンドスの船橋に到着したとき,入港操船の方法や北副防波堤灯台通過時の速力の限度などについて船長に説明をせず,極微速力前進の速力等,港内速力についての記載がなかったことから,港内速力表を求めて自ら船橋内を探したところ,右舷側コンソール上にプラスチックケースに入った同表が目に入り,その上に載せられたベルブックが極微速力前進の項目を一部覆い,数字の5しか見えなかったが,極微速力前進の速力が5ノット程度の船舶が多かったことと,E船長から5ノット程度であると聞いたこともあって5ノットと思い込み,同速力について自ら港内速力表を確認することなく,その速力が7.5ノットであることに気付かず,リンドスの全長がハンディーマックス型船舶としては長いことに配慮しないまま操船に当たることとなった。
こうしてA受審人は,E船長,一等航海士の在橋のもと,レピータコンパス横に立ち,操舵員を手動操舵に当たらせ,機関を極微速力前進にかけて平磯岬に向けて南下し,06時50分ころ北副防波堤灯台南側に向け小舵角による右回頭を開始し,その後速力の確認のため2回ドップラーソナーを見に行き,最初4.0ノット,次に5.1ノットの表示を確認していたところ,E船長から自分が見て教える旨の申し出があったため,その後は元の位置に戻って操船に当たった。
07時05分A受審人は,北副防波堤灯台から181度130メートルの地点に達し,同灯台に並航したとき,針路を第2ふ頭基部にある赤白コンクリート塔に向首する271度に定めたとき,速力が6.0ノットで,更に逓増する状況にあって,自らも速力がいつもより速いと思ったが,これより先,一等航海士から現在の速力が約5ノットである旨の連絡を受けていたことから,自らドップラーソナーなどで速力を確認しなかったので,このことに気付かず,速力の制御を行わないまま進行した。
07時06分少し過ぎA受審人は,北防波堤南端を右舷側130メートルに通過して左舵10度を令すとともに,右舷船首にC丸を,左舷船尾にB丸をそれぞれ頭付けで押す態勢をとらせ,船尾が同南端を通過した07時06分半左舵一杯とし,同時に両タグに対し全速力前進で真横に押すことを命じた。
07時07分半ごろA受審人は,B丸,C丸とも,2機のうち1機の推力を真横または斜め前進として横移動しつつ,それぞれ船体を押して回頭の補助に当たっていたものの,自らが安全な操船の指針としていた5ノットを超えていたことから,通常のハンディーマックス型の回頭に比べて左への回頭が鈍く,ほぼ原針路のまま,港町ふ頭に接近し,自らが予定する旋回を大きく逸脱する状況にあったが,船体の進出状況と船首の回頭状況を十分に確認せず,タグからの連絡もなかったので,このことに気付かず,機関を停止し,必要に応じて機関を後進にかけるなどの措置をとらず,07時10分北副防波堤灯台から249度840メートルの地点に達し,中央ふ頭がいつもより近いように見えたことから,右舷側ウイングに出たとき,同ふ頭が近いことにようやく気付き,機関を停止したが,同ふ頭前面が掘り下げ区域から外れていることを失念し,機関を全速力後進にかけないまま回頭中,07時11分同灯台から244度930メートルの地点に至り,船首が掘り下げ区域外に進出した。
07時12分少し過ぎA受審人は,北副防波堤灯台から238度1,000メートルの地点に達したとき,中央ふ頭先端の3号岸壁に係留中の他船への接近で危険を感じたC丸から船首を離れるとの報告を受け,初めて係留船の存在及び同船への接近に気付いたが,どうすることもできず,まもなく中央ふ頭3号岸壁と並航になり,07時15分船長かが機関を後進にかけたのち,底触もあって速力が急に落ち,右舷船首に戻ったC丸が再び押し始めたが,07時18分リンドスは,北副防波堤灯台から229度1,070メートルの地点において,水深10メートルばかりのところに155度を向首し,極低速力で乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力1の西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
リンドスは,その後,石狩湾港から来援したD丸,巡視船1隻を加えて何度か引き降ろしを試みたが,離礁せず,約4,500トンの貨物を瀬取りしたのち,6月6日再度の引き降ろし作業により離礁した。
乗揚の結果,船底に一部凹損を伴う擦過傷及び推進器翼に鋸歯状の欠損をそれぞれ生じた。
(本件発生に至る事由)
1 操船者に係わるもの
(1)船橋体制が機能しなかったこと
ア A受審人が操船方法について説明しなかったこと
イ 在橋者の支援が十分でなかったこと
ウ A受審人と船長とが意思の疎通を欠き,船長の操船に対する支援が十分でなかったこと
(2)過大な速力で入港したこと
ア 速力区分の確認が十分でなかったこと
イ 港口通過時の速力確認が十分でなかったこと
(3)進出及び回頭状況の確認が十分でなかったこと
(4)機関操作が遅れたこと
2 操船支援に係わるもの
(1)タグの配備が適切でなかったこと
(2)タグとの連携が機能しなかったこと
(3)C丸が回頭中のリンドスから離脱したこと
3 環境等に係わるもの
小樽港の防波堤内の十分な水深を有する水域が狭かったこと
(原因の考察)
大型船が,小樽港勝納ふ頭へ安全に着岸するのに作用する要素として,速力や水域の狭さに加えて左回頭という特殊性があり,更には操船支援態勢のタグとの連携などがあり,本件は,入港速力が過大でなければ回避でき,仮に,多少過大であったとしても,速やかに速力を減殺する措置がとられていたなら,発生しなかったものと考えられるが,これらのことについては,補佐人の主張とも関係するところであり,併せて検討する。
1 小樽港における着岸操船について
大型船の着岸操船において,左転を開始する時点での速力を5ノット以下にすることは,安全確保の大きな要点であり,水先人も5ノット以下を目安としていたのである。
大型船の港口通過時の速力が何ノットであるかの確認は不可欠であり,本件においては,水先人は5ノットであると思っていたものの,現実には6ノットばかりであったが,同速力が許容範囲を超えるとき,直ちに減殺する方策が講じられなければならないが,本件時,そうした措置がとられなかったのは,水先人が自ら,速力表やパイロットインフォメーションで極微速力が何ノットであるかを事前に確認せず,速力計,GPSなどで実際の対地速力を確認しなかったことによるものである。
このことについて,補佐人は,水先人が極微速力について船長に確認しており,北副防波堤並航時の速力について,一等航海士からの報告も受けていたと主張するが,港口通過時の速力を5ノット以下にすることが,小樽港での安全な操船に欠くことのできないものであるという特殊性に視点を置いたとき,速力については,他人の報告をそのまま受け入れるのではなく,水先人として自らが確認すべきであると言わざるを得ない。
水先人としては,船橋における船長の共同的行動や自らの操船方法の説明などを通じて,船橋体制が格別な意思疎通を確保したものでない限り,必要な資料については,任意の提出を待つのではなく,自ら要求して確認すべきであった。
そして,水先人は,北副防波堤を通過するとき,いつもより少し速いと感じたのであるが,そうであるなら,リンドスはハンディーマックス型であったものの,船の長さがパナマックス型に匹敵する長さであったから,たとえ予定どおりの速力であった場合でも,船尾からのタグラインがとられておらず,速力の減殺方法としては機関操作しかなかったのであるから,万一のときに対処できる確実な操船,安全な操船を確保するためには,速力の確認は確実に行うべきであった。
次に,水先人は,北副防波堤を航過して,左舵一杯を令し,右舷船首と左舷船尾に付いたタグに本船を押すように指示したとき,時間の経過に即した自船の回頭状況と中央ふ頭までの進出の程度を正確に確認する必要があった。
水先人は,島堤の北端と中央ふ頭の北東端を結ぶ線のほぼ中間の450メートルまで進出すれば,船首は勝納ふ頭のフェリーふ頭に向く予定で操船に当たっていたのであるから,島堤の北端と中央ふ頭の北東端を結ぶ線の中間を越える態勢となったとき,その船首方向を確認し,回頭が十分でなかったなら,許容水域を逸脱するおそれがあったのであるから,機関の停止を令すべきであったが,水先人が機関を停止したのは,リンドスの船首がその中間を遥かに越えて700メートルも中央ふ頭に寄ったときであり,この時期は遅かったと言わざるを得ない。
水先人は,本件において,リンドスの全長,いつもより過大な速力,船尾にタグラインがないことを考慮したとき,特に,時間の経過に即した自船の回頭状況と中央ふ頭までの進出の程度を正確に確認すべき状況にあったものの,このことが履行されなかったのは,漫然と操船に当たっていたものと推認するしかない。
したがって,A受審人が,速力の確認が不十分で,過大な速力のまま回頭態勢に入り,進出と回頭状況の確認が不十分で,機関操作が遅れたことは,原因となる。
こうしたことの背景には,水先人と船長及び一等航海士との協力態勢が機能しなかったことを指摘することができる。水先人を含む一時的なチーム態勢であるとき,各人の立場によって,操船に関する認識の差異は否定できず,水先人に操船を任せているのが現状である。今後の安全な入港操船を考えたとき,水先人,船長及び他の在橋乗組員が機能的な協力態勢がとれるよう,検討改善が図られるべきである。
2 タグの使用について
大型船の入港操船には,タグは欠かせない支援態勢であり,その適切な運用が操船の安全性に大きく関係する。
A受審人は,入港操船に当たり,これまでの経験から,リンドスがハンディーマックス型であったので,船型に応じた配備基準により,2隻のタグを右舷船首と左舷船尾に押す態勢で配備することとし,過大な速力を減殺できるよう,スタンラインをとるタグの配備は考慮していなかった。
この背景には,タグに対する船員法の適用の除外を受けるため航行区域を港内に限定していたこと,小樽港の港域との関係で嚮導される船舶の船尾からタグラインをとることが困難であること等があり,ハンディーマックス型の場合,当初から,3隻配備なり,2隻のうち1隻に船尾からのタグラインをとらせることは,期待できる状況になかった。しかし,入港船の大型化に対応した小樽港の機能と安全の向上を考えたとき,タグの配備基準をはじめとする入出港の総合的な安全対策について,F水先人会は,関係者と協議して見直しに努めるべきである。
また,A受審人の操船方法について,タグの配備や緊急時の対応等を通じて見たとき,同人は,自分の慣れた操船方法に固執していたきらいがあり,定常的操船と緊急時の対応を峻別するとともに,本船の速力とタグの性能との関係,タグラインのとり方,タグとの連携のあり方などについて,今後も日々研鑽し,操船の選択肢を拡充することが望まれる。
C丸が,リンドスの回頭中,その船首から離れたことは,岸壁係留船との接触を防ぐための緊急措置であり,また,その時点ですでにリンドスは掘り下げ区域外に進出していたのであるから,本件発生の原因をなしたものとは認められない。
3 環境等に係わる事由について
小樽港の防波堤内の十分な水深を有する水域が狭かったこと,そして補佐人が指摘するタグの経過年数による性能劣化については,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本船の速力を調整し,タグの性能を十分に発揮させる操船によって,入港の安全を確保できる余地があり,加えて,これまでの実積を考慮したとき,これらが,本件発生と相当な因果関係があったものとは認められない。
(海難の原因)
本件乗揚は,北海道小樽港に入港する際,速力の確認が不十分で,過大な速力のまま回頭態勢に入ったばかりか,回頭状況の確認が不十分で,機関操作が遅れ,掘り下げ区域外に進出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,防波堤入口から掘り下げ区域端までの奥行きが短かい北海道小樽港において,ハンディーマックス型ばら積貨物船を嚮導中,タグを使用して回頭操船に当たる場合,掘り下げ区域外に進出するおそれがあるときは,直ちに適切な機関操作がとれるよう,船体の回頭状況を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに,同人は,船体の回頭状況を十分に確認しなかった職務上の過失により,掘り下げ区域外に進出するおそれがあることに気付かず,機関操作が遅れて乗揚を招き,船底に一部凹損を伴う擦過傷及び推進器翼に鋸歯状の欠損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文 平成17年4月18日函審言渡
本件乗揚は,港内速力表の確認及び港口通過時の速力確認がいずれも不十分で,過大な速力のまま回頭態勢に入ったことによって発生したものである。
受審人Aの小樽水先区水先の業務を1箇月停止する。
参考図
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