(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月6日07時33分
山口県角島北西方沖合
(北緯34度32.2分 東経130度30.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁業取締船からしま |
貨物船コレックス クンサン |
総トン数 |
499トン |
4,044トン |
全長 |
55.45メートル |
98.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,029キロワット |
2,000キロワット |
(2)設備及び性能等
ア からしま
からしまは,平成元年4月に進水した船首楼及び長船尾楼を有する鋼製漁船で,まぐろ延縄漁業に従事していたところ,同13年12月長船尾楼甲板に居住区等が増設され,その後九州沖合の排他的経済水域における漁業取締業務に従事していた。
船橋は,長船尾楼前端付近に配置され,船首端から船橋前面までの距離が25.6メートルで,船橋前方の上甲板下には1番から3番までの燃料タンク,漁具庫等が設けられていた。船橋内には,前面中央にジャイロ組込型操舵スタンド,その右舷側にGPSプロッター,魚群探知機,主機遠隔操縦装置,同左舷側に自動衝突予防援助装置(以下「アルパ」という。)付きのレーダー2台がそれぞれ備えられていた。
からしまは,海上公試運転成績表によれば,航海全速力前進が機関回転数毎分(以下「回転数」という。)390で13.802ノット,同速力前進中に舵角35度をとって左旋回したとき,90度,180度回頭するまでの所要時間及び旋回径はそれぞれ31秒,56秒及び122.5メートル,同右旋回したとき,29秒,53秒及び122.5メートルで,同速力前進中,全速力後進発令から船体停止までに要する時間は1分25秒であった。
イ コレックス クンサン
コレックス クンサン(以下「コ号」という。)は,1995年6月に進水し,主に日本と大韓民国間のスチールコイルの輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で,船首端から船橋楼前端までの距離が75.0メートルで同楼前方に貨物倉が,ハッチカバー上及び上甲板にコンテナ積載設備がそれぞれ設けられていた。
船橋は,船橋楼の最上層に配置され,前面中央にレピータコンパス,その上方の天井に舵角指示器,前面窓ガラスの約80センチメートル後方中央にジャイロ組込型操舵スタンド,同スタンドの右舷側に主機遠隔操縦装置,1号レーダー,同左舷側に航海灯などの操作パネル,2号レーダーが設けられ,船橋後部右舷側には海図台があり,その前壁にGPSプロッター,風向・風速計などが取り付けられていた。
また,眼高は,当時の喫水で約15.5メートルとなり,操舵位置から前方の視界を遮るものはなかった。
コ号は,航海性能表によれば,機関回転数と速力との関係は,全速力前進が回転数750で12.0ノット,半速力前進が回転数650で9.0ノット,微速力前進が回転数550で6.0ノット及び極微速力前進が回転数420で3.0ノットで,全速力前進中,全速力後進発令から船体停止までに要する時間及び航走距離は,2分48秒及び601メートルであった。
3 事実の経過
からしまは,A及びB両受審人ほか13人が乗り組み,漁業監督官1人を乗せ,漁業取締業務の目的で,船首2.40メートル船尾4.40メートルの喫水をもって,平成15年7月3日09時00分福岡県博多港を発し,対馬南方海域に向かった。
A受審人は,対馬南方海域に到着して漁業取締業務中,翌4日夕刻九州漁業調整事務所から,同月2日未明同県沖ノ島沖合で発生した漁船と外国籍貨物船との衝突で,沈没して行方不明となった漁船乗組員の捜索にあたるよう指示を受け,同業務を打ち切り,沖ノ島北北東方沖合に向かい,同月5日未明現場海域に至り,05時00分から捜索を開始した。
ところで,A受審人は,船橋当直(以下「当直」という。)を4時間交替の3直制とし,0時から4時の当直を二等航海士と甲板員2人,4時から8時の当直をB受審人と甲板長,8時から12時の当直を三等航海士と甲板員2人にそれぞれ行わせ,自らは漁業取締業務中08時から19時ごろまで漁業監督官とともに在橋して操船指揮を執っていた。
A受審人は,捜索開始後20時過ぎまで在橋して漁業監督官の指示の下,当直者を指揮して捜索を行ったものの,行方不明者の手がかりはなく,日没となったので同日の捜索を打ち切り,漂泊することとし,同官と捜索方法の打合せを行ったのち,当直体制を維持したまま,降橋して自室で休息した。
翌6日05時00分A受審人は,角島灯台から313度(真方位,以下同じ。)19.3海里の地点で漁業監督官とともに昇橋し,当直中のB受審人及び甲板長を指揮して捜索を再開し,南北方向に捜索を行うこととし,視程約1.5海里の霧模様の中,レーダーを監視し,航行中の動力船の灯火のほか赤色回転灯を表示して北上を続けた。
06時20分A受審人は,角島灯台から325度29.4海里の地点で,針路を180度に定め,機関を全速力前進より少し下げた回転数330にかけ,11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵によって進行した。
定針後,A受審人は,視界が急激に悪化し,視程が約100メートルに狭められて視界制限状態となったので,8海里レンジとしたレーダー画面を見たところ,自船の周囲7海里ばかりに約8隻の他船の映像を認めたものの,接近する船がいなかったので,霧中信号を行うことも,安全な速力とすることもなく,また,アルパの警報音が頻繁に鳴るのでこれを止めたまま,B受審人をレーダーの監視に就かせ,自らも時々同監視を行って続航した。
06時50分ごろA受審人は,朝食の準備ができた旨の電話連絡を受け,そのころ自船の左舷前方及び右舷正横4ないし6海里に約6隻の他船の映像を認めており,付近海域が船舶交通の輻輳するところであるうえ,視界制限状態の中,同海域で多数の船舶が捜索に従事していたが,B受審人が三級海技士(航海)の海技免許を受有し,船長の経験もあったので操船を任せても大丈夫と思い,引き続き在橋して自ら操船指揮を執ることなく,07時00分角島灯台から315度23.7海里の地点で,同人に当直を引き継ぐ旨を告げ,漁業監督官とともに降橋した。
B受審人は,船長が降橋して間もなく甲板長に先に朝食をとるよう指示して降橋させ,1人でレーダーを監視していたところ,07時10分角島灯台から312度22.5海里の地点に達したとき,左舷船首13度7.8海里にコ号の映像を初めて探知し,同映像のベクトルが,危険目標のときに表示される,赤色に点滅して自船に向かっているのを認めたものの,このことをA受審人に報告しなかった。
07時15分B受審人は,甲板長が昇橋してきたので,朝食をとることとし,6.0海里に接近したコ号の映像のほか,右舷船首方に認めていた2隻の映像が赤色のベクトルを点滅して自船に向かっていることを甲板長に伝え,同人に単独の当直を行わせて降橋した。
07時20分B受審人は,食事を終えて昇橋し,前示映像を監視しながら進行し,07時26分半角島灯台から305度20.6海里の地点に達したとき,コ号の映像が左舷船首13度2.0海里となり,右舷船首方の2隻の映像もほとんど方位が変わらないまま自船に接近し,その後これら3隻の船舶と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知り,07時27分コ号の映像が同方位1.8海里に接近したとき,機関を回転数270の9.0ノットに減速したところ,たまたまコ号が右転したことから,同映像のベクトルが反方位に向いたので,同船とは行き会いの関係になったので大丈夫と判断し,霧中信号を行わないまま,これら3隻の映像監視にあたり,右舷船首方の2隻の映像に特に注意を払いながら続航した。
07時29分B受審人は,角島灯台から304度20.4海里の地点に達したころ,左舷船首17度1,960メートルに接近したコ号が元の針路に戻したことから,再び同船と著しく接近する状況となり,07時30分コ号の映像が左舷船首18度1,370メートルに接近したとき,右舷船首方に認めていた2隻の映像の方位が依然ほとんど変化のないまま接近するので,手動操舵に切り替え,機関を中立としたところ,その後コ号と衝突の危険がある状況となったが,レーダーによるコ号の動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,速やかに機関を後進にかけて行きあしを止める措置をとることなく,惰力で進行中,07時33分少し前コ号の汽笛音を聞いて間もなく甲板長が左舷船首至近に同船の船首部を認めたが,どうすることもできず,07時33分角島灯台から303度20.2海里の地点において,からしまは,船首が180度を向いてほとんど行きあしがなくなったとき,その左舷前部にコ号の船首が前方から30度の角度で衝突した。
当時,天候は霧で風はほとんどなく,付近海域に海上濃霧警報が発表され,視程は約100メートルであった。
A受審人は,食事を終えて自室に戻り,コ号の汽笛音を聞いて自室の扉を開けようとしたとき,衝撃を感じて衝突したことを知り,昇橋して事後の措置にあたった。
また,コ号は,C及びD両指定海難関係人ほか11人が乗り組み,スチールコイル189個4,481.561トンを積載し,船首5.12メートル船尾6.08メートルの喫水をもって,同月5日10時40分岡山県水島港を発し,関門海峡経由で大韓民国浦項港に向かった。
ところで,C指定海難関係人は,当直を4時間交替の3直制とし,0時から4時の当直を二等航海士と甲板手,4時から8時の当直をD指定海難関係人と甲板手,8時から12時の当直を三等航海士と甲板長にそれぞれ行わせ,出入港時や狭水道通航時などは自ら操船指揮を執り,平素,当直航海士に対し,夜間命令簿に指示事項を記載し,狭視界時には機関を使用することなどの注意事項を伝え,数日前には視界制限時の注意事項等を定めた船内業務指針書による安全運航教育訓練を実施していた。
発航後,C指定海難関係人は,瀬戸内海を西行し,翌6日未明関門海峡を通航したのち,当直中の二等航海士に対し,霧のため視界制限状態となったときには船長に報告するよう指示を徹底することなく,次直者にもこれを申し送るよう告げず,夜間命令簿にもこのことを記載しないまま,「浦項港に向け海図に記入したコースラインに乗せるよう蓋井島を右舷側に見たところで転針すること。」及び「気を付けて。」と同人に伝えて欲しいと告げ,03時40分六連島を左舷側に航過したころ降橋して自室で休息した。
03時45分D指定海難関係人は,二等航海士と当直を交替し,漁船が多かったので甲板手を手動操舵に就け,航行中の動力船の灯火を表示し,04時40分蓋井島灯台を北東方約1.5海里に見て北上した。
06時00分D指定海難関係人は,蓋井島灯台の北北西方約14海里の地点で,霧のため視界が急激に悪化し,視程が約200メートルに狭められて視界制限状態となったが,この付近海域の航海経験が十分にあるので,自ら対処できると考え,C指定海難関係人にこのことを報告せず,かつ,霧中信号を行うことも,安全な速力とすることもなく,中心を後方に移動してオフセンター表示にした6海里レンジのレーダーを監視しながら北上を続けた。
07時00分D指定海難関係人は,角島灯台から292度15.5海里の地点で,針路を335度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.5ノットの速力で進行し,07時05分角島灯台から294度16.1海里の地点で,右舷船首50度6.5海里に自船に接近する船舶(以下「第三船」という。)の映像を初めて探知し,その映像を監視して続航した。
07時15分D指定海難関係人は,角島灯台から298度17.5海里の地点に達したとき,右舷船首12度6.0海里にからしまが南下中であったが,自船に向かって接近する第三船の映像に気をとられ,レーダーによる見張りを十分に行わなかったので,からしまの映像に気付かず,レーダーを3海里レンジに切り替えて進行した。
07時26分半D指定海難関係人は,角島灯台から301度19.0海里の地点に達したとき,からしまの映像が右舷船首12度2.0海里となり,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,依然レーダーによる見張り不十分で,この状況に気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
07時27分D指定海難関係人は,第三船が右舷船首方約2海里に接近したので,同船を左舷側に替わそうとして右舵一杯をとったところ,右舷前方に漁船と思われる多数の映像を認めたので,その後左舵一杯に取り直し,からしまの接近に気付かずにほぼ原針路に戻して進行中,07時33分少し前船首方至近に同船を初めて視認したが,汽笛を数回鳴らしただけで何もできず,コ号は,船首が330度を向いたとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
C指定海難関係人は,自室で休息中,汽笛音で目覚め,着替えをして直ちに昇橋したとき,船首に衝突したからしまを認め,事後の措置にあたった。
衝突の結果,からしまは,左舷前部外板に破口を生じて浸水し,A受審人が沈没の危険を感じて海上保安庁等に通報したのち,総員が救命艇で退船して漂流中のところ,7月8日01時03分角島北北西方約43海里の地点で沈没し,コ号は,船首部及び球状船首左舷側に凹損及び擦過傷を生じたほか,左舷錨を喪失した。また,からしまの乗組員は全員僚船に救助されたが,二等機関士が頭部挫創及び腰部打撲を負った。
(航法の適用)
本件は,霧のため視程が約100メートルの視界制限状態となった角島北西方沖合において,南下中のからしまと北上中のコ号とが衝突したもので,海上衝突予防法第19条視界制限状態における船舶の航法を適用するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 からしま
(1)霧中信号を行わなかったこと
(2)安全な速力としなかったこと
(3)A受審人が,操船指揮を執らなかったこと
(4)アルパの警報音を止めていたこと
(5)B受審人が,自船に向かって接近するコ号の映像を認めたとき,船長に報告しなかったこと
(6)B受審人が,レーダーによる動静監視を十分に行わなかったこと
(7)B受審人が,速やかに行きあしを止めなかったこと
2 コ号
(1)C指定海難関係人が,当直航海士に対し,視界制限状態となったときに報告するよう指示を徹底しなかったこと
(2)D指定海難関係人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと
(3)霧中信号を行わなかったこと
(4)安全な速力としなかったこと
(5)D指定海難関係人が,第三船の映像に気をとられていたこと
(6)D指定海難関係人が,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(7)D指定海難関係人が,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったこと
3 その他
衝突地点付近が船舶交通の輻輳する海域であるうえ,多数の船舶が捜索にあたっていたこと
(原因の考察)
本件は,霧のため視界制限状態となった角島北西方沖合において,からしまが,レーダーで前路に認めたコ号の映像を見ながら惰力で進行中,霧中信号を行うとともにレーダーによる動静監視を十分に行い,速やかに行きあしを止めていたなら,防止できたものと認められる。
したがって,B受審人が,07時30分9.0ノットの速力で航行中,コ号との距離が1,370メートルとなり,機関を中立としたとき,同船と衝突の危険があったのであるから,速やかに機関を全速力後進にかけ,行きあしを止めるべきであったが,レーダーによる動静監視が不十分で,コ号との衝突の危険に気付かず,行きあしを止めることなく,惰力で進行したことは,本件発生の原因となる。
からしまが,霧中信号を行っていたなら,自船の存在やその状態をコ号が知り,両船が衝突を避けるための適切な措置をとることができたものと認められる。
したがって,からしまが,霧中信号を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
また,A受審人が,自ら操船指揮を執り,B受審人をレーダー監視に専従させていたなら,コ号が右転したのち,左転して原針路に戻ったこと,機関を停止したものの,衝突の危険がなくなっていないこと等が分かり,速やかに機関を全速力後進にかけることができ,本件の発生は防止できたものと認められる。
したがって,A受審人が,操船指揮を執らなかったことは,本件発生の原因となる。
からしまが,安全な速力としなかったこと及びB受審人が,自船に向かって接近するコ号の映像を認めたとき,船長に報告しなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
からしまが,アルパの警報音を止めていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
一方,コ号が,霧のため視界が制限された角島北西方沖合を北上中,レーダーによる見張りを十分に行っていたなら,前路にからしまの映像を認めることができ,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを止めることにより,本件は発生していなかったものと認められる。
したがって,D指定海難関係人が,第三船の映像に気をとられ,レーダーによる見張りを十分に行わず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
また,C指定海難関係人が,当直航海士に対し,視界制限状態となったときの報告について指示を徹底していれば,当直航海士から同報告を受けることができ,自ら操船指揮して視界制限時の措置を適切にとることによって,本件の発生は防止できたものと認められる。
したがって,C指定海難関係人が,当直航海士に対し,視界制限状となったときに報告するよう指示を徹底しなかったこと及びD指定海難関係人が,視界制限状態となったことをC指定海難関係人に報告しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
D指定海難関係人が,霧中信号を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,B受審人が衝突の23分前にコ号のレーダー映像を探知し,その後レーダーで同船の接近状況を監視していたことから,本件発生の原因とならない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
D指定海難関係人が,安全な速力としなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
衝突地点付近が船舶交通の輻輳する海域であるうえ,多数の船舶が捜索にあたっていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件衝突は,霧のため視界が制限された角島北西方沖合において,北上するコ号が,レーダーによる見張り不十分で,からしまと著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが,からしまが,霧中信号を行わず,レーダーによる動静監視不十分で,コ号と衝突の危険がある状況となった際,速やかに行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。
コ号の運航が適切でなかったのは,船長が,当直航海士に対し,視界制限状態となったときに報告するよう指示を徹底しなかったことと,当直航海士が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこととによるものである。
からしまの運航が適切でなかったのは,船長が,操船指揮を執らなかったことと,当直航海士が,レーダーによる動静監視を十分に行わなかったこと及び視界制限時の措置が適切でなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は,霧のため視界が制限された状況下,船舶交通の輻輳する角島北西方沖合において,行方不明となった漁船乗組員の捜索に従事中,前路に数隻の他船のレーダー映像を認めた場合,在橋して自ら操船指揮を執るべき注意義務があった。しかるに,同人は,B受審人が三級海技士(航海)の海技免許を受有し,船長の経験もあったので任せても大丈夫と思い,在橋して自ら操船指揮を執らなかった職務上の過失により,コ号との衝突を招き,からしまの左舷前部外板に破口を生じさせて沈没させ,コ号の船首部及び球状船首左舷側に凹損及び擦過傷を生じさせたほか,左舷錨を喪失させ,からしまの二等機関士に頭部挫創及び腰部打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,霧のため視界が制限された状況下,船舶交通の輻輳する角島北西方沖合において,レーダーで前路に認めたコ号の映像を見ながら惰力で進行する場合,同船と衝突の危険がある状況となるかどうかを判断できるよう,レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,コ号と衝突の危険がある状況であることに気付かず,速やかに機関を後進にかけて行きあしを止めないまま進行してコ号との衝突を招き,両船に前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人が,関門海峡を通過したのち航海士に当直を任せる際,航海士に対し,視界制限状態となったときに報告するよう指示を徹底しなかったことは,本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては,海難審判法第4条第3項の規定により勧告する。
D指定海難関係人が,角島北西方沖合を浦項港に向けて北上中,霧のため視界制限状態となった際,船長にその旨を報告しなかったこと及びレーダーによる見張り不十分で,からしまと著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対しては,海難審判法第4条第3項の規定により勧告する。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文 平成17年3月25日仙審言渡
本件衝突は,からしまが,視界制限状態における運航が適切でなかったことと,コレックス クンサンが,視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Bの三級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
指定海難関係人Cに対し勧告する。
指定海難関係人Dに対し勧告する。
参考図
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