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第6章 玄海諸島における静脈物流ネットワークのあり方
1. 玄海諸島における静脈物流に関する課題
 ここでは、これまでの調査結果をもとに、玄海諸島における廃棄物等の適切な排出を促し、輸送の効率化を図るために、解決すべき課題を整理する。
 玄海諸島における静脈物流に関する課題は、「廃棄物等の品目別にみた課題」「輸送体制に関する課題」「島民意識に関する課題」「連携・支援体制に関する課題」に分類される。
 
図6-1-1 玄海諸島における静脈物流に関する課題
 
(1)廃棄物等の品目別にみた課題
 玄海諸島は、人口規模が小さく、廃棄物処理・リサイクル関連事業者が島内に分布していない点や、本土との航路距離が短い点を考慮すると、今後も本土での処理が主となると見込まれる。このため、廃棄物の収集・運搬にかかるコストの削減を図るにあたり、離島から本土への静脈物流の効率化が特に重要な課題となる。
 玄海諸島から現在排出されている廃棄物等のうち、輸送効率化が求められている主要な品目は、定期的に本土へ排出され、旧市町村単位で輸送体制の異なる一般廃棄物、島内の保有状況は比較的少量ながら、不法投棄されやすい使用済み自動車・廃家電、今後排出量の増加が見込まれる廃船、昨今発生量の増加により回収等の対応が必要となっている漁港や海岸等の廃棄物(漂着ゴミ等)である。
 
(1)一般廃棄物
・収集・運搬コストの削減
・廃棄物の排出量の削減
 
 一般廃棄物の処理は行政が行う。このため、島民による直接のコスト負担は発生しない。しかし、行政の立場からみると、厳しい財政状況の中で、一般廃棄物の収集・運搬や処理にかかるコストをできるだけ削減していくことが求められている。
 収集・運搬コストについてみた場合、一般廃棄物の輸送のためだけに1隻チャーターするよりも、定期船で輸送する方が効率的である。現在、玄海諸島では、小川島で可燃ゴミの輸送が定期船で行われている。一方、他の島々(向島を除く)はチャーター船で輸送が行われており、定期船の活用に切り替えることで輸送効率化を図ることが可能になるとみられる。
 また、船社と収集・運搬業者が一致しない場合は、船社と収集・運搬業者の両者が同船に乗船していかなければならない。両者が同一であれば、その分の人件費を削減することも可能と考えられる。
 廃棄物の排出量の削減に向けては、分別収集を徹底させるとともに、特に臭気発生等の原因ともなる生ゴミの排出量を抑えることが必要である。
 
表6-1-1 島別にみた一般廃棄物の輸送に関する課題
業務形態 輸送方法 課題
高島 行政直営
(資源ゴミのみ処理業者)
チャーター船
・人件費・チャーター費等の行政の負担コストが大きく、費用削減が必要
神集島
小川島 民間委託*
(可燃:航路事業者/他:処理業者)
可燃:定期船/他:チャーター船
・分別収集が徹底されておらず、島側・呼子側の一時保管時の臭気発生防止が必要
・定期船の1回あたりの輸送量は現行量が限界のため、今後、輸送頻度減少に伴う対応が必要
加唐島 民間委託**
(処理業者)
チャーター船
(処理業者所有)
・処理事業者が島内収集を行うため、港湾利用時や収集時の島民協力が必要
・行政委託費用の削減
松島
馬渡島
向島 島民当番制* 定期船
・高齢化や島民意識の変化に対応しつつ、継続的な島民の協力体制が不可欠
備考*)島内収集は小川島、向島では島民が実施。(小川島は個人委託)他島は収集・運搬業者が実施。
備考**)本土側の輸送は鎮西支所管内のみ収集・運搬業者が島内収集から一貫して実施。他島は本土側の収集・運搬の一部として実施。
 
(2)使用済み自動車・廃家電
○使用済み自動車
・離島支援対策の周知徹底
・コンスタントな排出体制の構築
○廃家電
・家電小売店の引き取り徹底
・島内収集の支援体制
 
 使用済み自動車と廃家電の適切なリサイクルを推進するためには、排出者がリサイクルの必要性を理解し、対象品目の不法投棄や退蔵を行わずに、適切な段階で本土の事業者に引き渡し、リサイクルシステムに乗せることが最も重要である。また、輸送コストの低減化や、高齢化が進む中で廃家電を行政回収する場合など島民同士で島内収集の支援しあう体制づくりなど、排出者が排出しやすい環境づくりも求められる。
 
a)使用済み自動車
 使用済み自動車は、各島で数年に一度一斉撤去が行われており、現在のところ不法投棄は少ない。しかし、倉庫として利用されるなどの退蔵例が散見される。
 ヒアリング調査によると、輸送コストの削減に際し、離島対策等支援事業に基づく海上輸送への補助制度があることが浸透していない。まずは、当該しくみの認知度を向上させ、適切な自動車リサイクルシステムが運用されるように、島民への普及啓発を図る必要がある。また、使用済み自動車は貨物船での輸送が必要となるが、チャーター船による共同輸送を行うには各島とも発生台数が少ない。このため、退蔵せずにコンスタントに排出するには別用途で寄港する貨物船の空きスペースを活用することが最も効率的である。
 
b)廃家電
 廃家電の不法投棄・退蔵を防止するためには、利用頻度の高い家電小売店と連携して新品購入時の引き取りを徹底するとともに、島民同士での注意喚起・パトロールなどを強化し、島民の意識を高めていくことが必要である。また、行政回収で排出する際には、特に高齢者にはステーションまでの持ち込みやリサイクル手続き等の面が負担となっているため、島民間の相互扶助による支援を推進していくことが必要である。
 
(3)廃船
・FRP船リサイクルの受け入れ体制の構築
・FRP船リサイクルシステムの普及啓発
 
 玄海諸島では船舶所有率が高いが、多くは中古船での下取りが行われており、廃船処理の実績は少ない。しかし、船舶の買い換えまでの期間が長くなる傾向にあり、今後は廃船処理機会も出てくると見込まれる。ほとんどの船舶がFRP船となってきており、適切なFRP船リサイクルを行うための受け皿づくりが必要である。
 まずは、リサイクル関連事業者側で陸揚げ用クレーンや保管スペース等を確保し、受け入れ体制を構築することが必要である。また、島内でも漁協においてFRP船リサイクルシステムの紹介パンフレットが作成され、周知が図られているところであるが、漁協にはFRP船リサイクルの推進に向けて処理事業者と連携し、漁船所有者の排出意識を高めるための積極的な働きかけが求められている。
 また、一部の離島では、船舶用バッテリーが放置されているが、バッテリー販売店で新品購入時における使用済みバッテリーの引取を徹底していくことが必要である。
 
(4)漁港や海岸等の廃棄物
・漂着ゴミ等の回収にかかる作業の負担大
・排出量削減に向けた関係者への働きかけ
 
 玄海諸島に共通して、漂着ゴミが多く発生しており、景観面や船舶の運航安全面から問題視されているが、排出者の特定が難しく排出量の削減は容易ではない。また、担い手の高齢化に伴い、陸側・海側双方にまたがる収集作業にかかる負担は大きく、作業エリアや作業頻度が縮小されているケースも見られる。
 また、アンケート・ヒアリング調査結果によると、漂着ゴミの中には島民や釣り客による不法投棄もみられるため、海洋への不法投棄防止に向けて指導・監視体制を強化することが重要である。
 
(2)輸送体制に関する課題
・海上輸送の多機能化
・廃棄物等の排出にかかる島内取りまとめ体制の構築
 
 人口の少ない離島においては、1人の人が何役もこなすことで地域社会が構成されているように、海上輸送も単なる輸送だけでなく、同時に複数の機能を担うことができれば、一度に複数の業務を集約させ、積載率を高めて効率的な輸送を行うことが可能となる。例えば、海上輸送が廃棄物の収集・運搬機能を持つためには、求められる機能に応じた設備を船舶が備え、輸送事業者も必要な業許可を得ていること等が必要となる。
 しかし、輸送事業者の立場では、輸送の集約化はすなわち収益減につながる可能性があり、取り組むインセンティブは働きにくい。廃棄物等の輸送効率化を図るには、排出者である島民や行政が、輸送が必要な廃棄物等を取りまとめて、輸送手段を手配するしくみの構築が求められる。
 
(3)島民意識に関する課題
・不法投棄や退蔵の防止に向けた意識の改革
・島民協力による島内収集コストの削減
 
 玄海諸島に共通して、適切な廃棄物処理・リサイクルを促進させるためには、排出者である島民が適切な処理工程に廃棄物やリサイクル財を乗せることが最も重要である。アンケート・ヒアリング調査結果によると、高島や神集島、小川島、馬渡島では不法投棄がみられる。また、一部では野焼き等の不適切な処理も行われている。
 まずは、島民が廃棄物やリサイクル処理のしくみを理解し、自らの行動を自覚することが重要である。そして、島内一斉清掃や一斉回収の定期的な実施など、具体的な排出行為に結びつける機会を創出する。島民一人一人に呼びかけ、指導・監視する体制も求められる。
 また、行政コストの削減に向けた島民協力も重要である。島内のステーションを集約させ、島民協力のもとで島内収集のコストを削減する等の取組が期待される。
 
(4)連携・支援体制に関する課題
・島内・島間の排出者同士の連携
・行政による全体調整
 
 廃棄物等の輸送効率化を図るには、島内の排出者同士が連携し、従来はバラバラに排出していた廃棄物等の排出機会を調整し、共同で輸送することが必要となる。また、島内だけでなく、島間でも排出機会を一致させて複数の島をまわって廃棄物等を回収して輸送する体制を整えることで、船舶の積載率を向上させ、輸送効率化を図ることが可能と考えられる。
 このように排出者側での連携を強化した上で、輸送の担い手となる船社や処理関連事業者とも円滑な手続きが可能となるような信頼関係を構築しておくことが必要である。
 また、行政は各者に通じる立場から、このような連携体制を支援し、全体調整を図っていくことが求められる。


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