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第三章 観天望気
3-1 山の景色が天気の予報(参考文献11)
*山に笠雲がかかれば、風雨の前触れ
*富士山に笠雲、黒ければ風、白ければ雨
*富士山頂の上空に離れた笠雲は晴天日和
*富士山の雲が南に止まれば北風、北東に止まれば南西風強くなる
*富士山の雲が東に流れるときは強風の前兆
*富士山の雲の変化が激しく西または北に流れると時化となる
*富士山の雪が吹き上げていれば南の風雨
*山に黒雲かかれば暴風雨になる兆し
*大山の山頂に雲かかれば雨となる
*箱根に雲がかかると午後は曇りとなる
*天城山頂に黒雲かかれば雨
*山が近くに見えるときは雨近し
*遠くの山がくっきり見えると天気が良い
 
図3-1 富士山を対象とした観天望気
 
 富士山の景色により、それぞれの天気変化を判断して生まれたことわざは数多くあって、全国的に見ても、それぞれの土地にある高い山を眺めて天気変化を知る諺は、かなりの数になっている。これらの現象を理解するためには、「断熱膨張」について知っておく必要がある。
(1)断熱膨張(図3-2)
 地球を取り巻く大気は地球の重力に引かれて地球表面を押しており、この大気の圧力を気圧と呼んでいる。
 このことから気圧は上空へ行くに従って低くなるが、上昇した空気は囲りの圧力が弱くなることから次第に膨張する。このように熱を与えないで空気が膨張することを断熱膨張という。
 断熱膨張においては、空気自身の持つ熱エネルギーは、膨らますための運動エネルギーに取られるので温度は低下する。その温度の低下する割合は、空気中の水蒸気が飽和していない状態(乾燥空気)では100m上るごとにおよそ1℃低下する、これを乾燥断熱減率という。
 また、空気中の水蒸気が飽和しているときは、上空に昇るに従って水蒸気が水滴として放出されるので、潜熱の関係から100m上る毎に、およそ0.5℃位となり、これを湿潤断熱減率という。
 
図3-2 断熱膨張と雲の発生
 
(2)三体現象
 もし上昇の途中で温度が露点(空気中の水蒸気が飽和するときの温度)に達すると、この中に含まれている水蒸気は水滴となり、空気中に放出され、この水滴がたくさん集って雲となり、そして、さらに水滴が大きくなると雨となって落下するようになる。
 上空の非常に高い所では、-20℃以下という低い温度となっていることから、水蒸気は氷結して雲をつくり、上空には強い風(偏西風)が流れているので、ハケで描いたような美しいすじ状の雲(巻雲)となって見える。
 このように、上昇気流のある所には雲が発生し、やがて雨や雪となって降ることが多い。
 これとは反対に、上空から空気が下って来ると、水蒸気の量はだんだん減って空気は乾燥する。そして、さらに空気自身の温度は上がるので、下降気流のある所ではよい天気となる。
 このようなことから、天気の変化にもっとも関係するのは水蒸気である。
 地球表面での空気中に含まれている水分が、図解のように気体になったり、氷のように固体になったりすることを三体現象という。
 三体現象によるこのような気象変化がもとになって、雲が発生したり、雨が降ったり、また、雪や雹や霰が降ったりするわけです。
 このように水蒸気の形を変えたり、移動させたりするのが上昇気流であり、風である。この現象の起因について図で説明する。
 
図3-3 水の個体、液体、気体の関係
 
(1)空気は太陽からの日射をうけて、強く暖められ膨張して軽くなり上昇する。地面に接触している部分の空気は、山間地のように起伏の激しい所では、地表が熱的に不均衡になるため、空気の上昇の仕方が違う。夏季、関東の内陸や中部山岳方面に発生する雷などはこれによる。
 
(2)風が山脈に向かって吹きつけると、空気は山にそって吹き上がり、そこに上昇気流が発生する。
 
(3)温暖な空気と寒冷な空気が接触すると、重い寒冷な空気は温暖な空気の下にもぐり込み、軽い温暖な空気は寒冷な空気の上にはい上って、そこに上昇気流が起こる。温暖前線、寒冷前線付近で天気が悪いのはこのためである。
 
(4)低気圧や気圧の谷などのように、周囲より気圧の低いところには風は吹きこむが、この吹き集まった空気は上空へ逃げるので、このとき上昇気流が発生する。
 一般に低気圧域内で天気が悪くなるのはこのためである。
 
(5)性質の違った空気が、図のように上下に重なって不連続面を作っているとき、その面には海面にできるような波ができ、ここにも上昇気流が起こり、雲が発生する。
 
(6)高気圧のように、周囲に向かって風が吹き出すと、その補いとして上空から空気が下降するので下降気流がおこり天気は晴れる。
 このほかに、猛烈な上昇気流を起こすものに台風がある。我々の住んでいる中緯度地帯に発生する低気圧は、性質の違った空気がぶつかり合って、激しい上昇気流を起こすが、台風や弱い熱帯低気圧は、同じ性質の空気の中で猛烈な上昇気流を起こす。
 
(3)フェーン現象
 上昇気流と下降気流が、山を隔てて同時に起こるのがフェーン現象で、風が山脈を越えて吹きおりるときには、顕著な下降気流がみられ空気は乾燥する。
 フェーンとはヨーロッパアルプス山中の局地風の名称で、ラテン語の西風を意味するフーヴォニウスからとったものといわれてる。
 第3-4図はフェーン現象の仕組を図示したものである。この図によれば太平洋側からの空気は強制的に断熱膨張させられ、太平洋側に雲を作り、ときには雨を降らせる。
 そのため、山頂越えの空気に含まれる水分は少なくなるので、日本海側の山脈を吹きおりると空気は非常に乾燥し、異常な高温をもたらすことがある。太平洋側で湿潤断熱減率をあてはめると、100mごとに大体0.5℃気温が下るので2,000mの山脈を越えるときは10℃下ることになる。しかし、日本海側では乾燥断熱減率となり、100m下がると約1℃気温が高くなる。従って、2000mの山脈を越えた空気は20℃も高くなる。
 日本海で低気圧が急発達するようなときは日本海側で高温となるのがよく知られているが、冬季に関東地方において比較的気温が高くなるのもこの現象である。
 
図3-4 フェーン現象
 
(4)上昇気流に係わることわざ
 低気圧の通過や台風の接近、前線の動きや種類により、すべての気象現象が移り変わる。このときに予想される景色の変化が、多くの変わった表現のことわざとして残ったものである。これには、上昇気流が原因で雲の型もそれぞれ異なり、風の強さや風向もある程度の目安となって、今もことわざとして使われている。
*北風が南風に変わると雨、南風が北風に変わると晴れとなる
*雨のあと西方が晴れ、東方に雲が早く流れるときは西風が強い
*冬場、南西に積雲が高く上がると必ず強い西風になる
*上層の雲と下層の雲が相反して飛ぶときは、暴風雨になる
*海鳥が騒がしく舞い上がり鳴くときは、暴風近し
*鷹が高く舞い上がると風が吹き始める
*立ち雲がでると風強まる
*雲が東より西へ向かって急送すれば暴風雨の兆し
*南東の風強く雨を交えるときは沖合時化模様
*カラスが高く飛べば翌日は晴れ
*東風に小雨を伴い海鳴りするときは時化てくる
*ツバメ高く飛ぶと天気は下り坂となる
*赤トンボが群れて高く飛ぶと近日中に雨
 夕焼けこやけの赤トンボ追われてみたのはいつの日か。赤トンボは、日本の秋の象徴的な風物詩で、実りの秋との結び付きが考えられ、田園地帯や海岸地方では、秋になると赤トンボが多く見られる。随分高いところまで飛べると考えられているが、あんな可憐な虫が、自分の羽根では到底高いところまで上がることは無理である。何か原因があると考えれば理解できる。
 高気圧のなかでは下降気流があり不可能であろう。
 天気図のうえでも下降気流のある高気圧の後からは、気圧の谷にともなう低気圧や前線が接近してくることが多い。
 これは前に述べたように、上昇気流の発生しているところで、上昇気流に乗ればたやすく高いところに運ばれる。従って、群れをなして押し上げられるので、低気圧や前線の接近を示している。そして、近い時間に天気が崩れ雨となる。


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