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6 まとめと今後の製作・設置における課題
6-1 検討のまとめ
 平成12年11月の交通バリアフリー法の施行に伴い、エレベーターの設置等、段差解消実現に向けた取り組みが各鉄道駅において進められているが、空間的な制約や駅構造上の問題等により設置が困難であることが課題となっている。また、エレベーター・エスカレーターの設置が困難な場合には階段昇降機が設置される例がある。従来の階段昇降機は駅員の操作を前提としており対応に時間を要したり、車いす利用者限定であるため、高齢者やベビーカー、妊婦等の使用を望む他の利用者が使えないものとなっている。
 さらに平成18年12月にはバリアフリー新法が施行され、段差解消の領域が従来の5,000人以上の駅以外にも、公園、道路、路上駐車場など拡大され、利用者も身体障害者から障害者へと拡大されている。
 このような背景の下、今回車いす以外の使用も想定した汎用性の高い自律移動可能な斜行型階段昇降装置を製作するべく、既存の基準や規格、国、学識経験者、事業者、メーカー等の意見を参考に基本仕様を整理した。基本仕様では定格積載量や定員、速度等の設備に関する事項、また、かご及び昇降路、安全・制御装置に関する事項等、製作における基本的事項について規定した。
 さらに、階段昇降装置が安全に使用されるために、基本仕様に基づきソフトおよびハードの両面から見て遵守すべきと考えられる事項を安全基準として整理した。
 
 今回の検討結果を受け、来年度は試作品を製作し、鉄道事業者の協力の下、実際に鉄道駅に設置、使用状況の検証を行うこととなる。実際に使用した上での感想、操作性や運用上の問題等を利用者や事業者にヒアリングして課題を整理し、必要に応じて見直しや改良を行う必要がある。現時点でまだ形になっていない装置であるため、設計や製作の過程において浮き彫りになった課題のレベルに応じて、基本仕様や安全基準の補足や記述の修正を行いつつ、将来的には標準システムとしてより多くの場面で利用される装置にしたい。
 
6-2 今後の製作・設置における課題
 新たな階段昇降装置を製作、設置する上での課題を整理した。
 
(1)製作段階における課題
 今回の検討では、まず新たな階段昇降装置設置の第一歩として、まずできることから形にしていくという視点で基本的な事項のみを仕様として整理している。利用の対象として、車いす使用者、高齢者、ベビーカー及び妊婦等を想定しているが、実際の利用ニーズや需要の程度がまだ把握できていないことから、乗用の対象についてはあらゆる人を想定しているが、その他操作等についてはユニバーサルデザインの視点とは言えない部分もある。
 
 以下、製作段階で配慮すべき事項及び今後の課題を整理した。
 
(1)操作方法
・慣れない装置は初めは戸惑うこと、操作方法が分からない場合もあるため、極力誰もが分かりやすい操作方法とする。
(新しいものは十分な周知が必要、場合によっては訓練、教育、指導等も考える必要あり)
⇒装置の形状や駆動方式が確定した後、操作に必要な事項は決まってくる。その後、操作盤の位置等標準化を図り、さらに音や音声案内等で対応可能とすることが考えられる(設計段階で対応)。
 
(2)ドアの形状・かごのデザイン
・ドアの形状(4つ折りや観音開き等のドア、または手すりの有無等)は車いす使用者の操作性を考慮して形を決定する。また、ドアは乗降及び通行人の障害にならないよう配慮する。
・操作ボタンや機器の異常等が発生した場合の停止ボタン等の設置位置は、必要時にすぐに押すことができる位置に設置する。
⇒安全性及び操作性は重要な事項として考えるが、ドアの開き方やデザイン、手すり使用の必要性については、設置可能スペースや階段形状、歩行者動線等、その他の制約条件に大きく左右されることから、設計段階で決定する。
 
(3)昇降路の形状
・昇降路内の形状(階段とするか、スロープとするか)は、停止時や緊急事態が発生した際に安全に救出できる措置を講じることができる構造とする。
・乗降時(特に上階への到着時)、安全な乗降ができるよう配慮する。
⇒既存の階段への設置となるため、設置する駅の構造や周辺条件により昇降路の形状は影響を受けるものと考えられる。利用者及び通行人の安全性を十分に考慮し、設計・製作段階で決定する。
⇒乗降時はかごと床(階段)との隙間による挟まれや降車後のホームや階段への転落等、昇降装置を降りた後の安全確保に十分配慮する。特に、スペース的な制約が多い駅では、通行人の動線等を考慮に入れた上で乗降口の向きを決定する必要がある。
 
(4)昇降路の形状
・昇降路内の形状(階段とするか、スロープとするか)は、停止時や緊急事態が発生した際に安全に救出できる措置を講じることができる構造とする。
・乗降時(特に上階への到着時)、安全な乗降ができるよう配慮する。
⇒既存の階段への設置となるため、設置する駅の構造や周辺条件により昇降路の形状は影響を受けるものと考えられる。利用者及び通行人の安全性を十分に考慮し、設計・製作段階で決定する。
 
(5)災害時の避難救出方法
・災害時における避難救出方法は鉄道会社等の管理者により異なる。エレベーター等とは運用方法等の仕様が変わると考えられる。一般的な仕様を検討すべき。
⇒今回の階段昇降装置は停止階が上階と下階等しかなく、通常のエレベーターのような最寄階停止の概念はない。また、完全に閉鎖された空間ではないため、災害時の救出方法もエレベーター等とは異なるものと考えられる。一般的な仕様を設けることができればよいが、実際の形状や駆動方法に応じて火災時の運転や避難通路の確保を含め、対応方法を検討する必要がある。
 
(5)事業者(鉄道駅等)の対応
・将来的には事業者が考慮すべき事項やマニュアル的なものが必要。
 
(6)保守点検等の課題
・新たな装置として安全性に対応した保守基準、マニュアルが必要と考える。法的な基準、マニュアルがない中、本装置としての配慮検討が最終的に必要となる。
⇒設置される事業者、利用者の目的に沿ってより多くの利用を促進するために考慮・マニュアルが整備されるべきである。
 
(2)階段昇降装置使用における責任の所在(自己責任の考え方)
 新たな階段昇降装置の運用に際し、使用者と管理者、製作者の責任範囲を明確にする必要がある。考えられる事態全てに対する安全を設備(管理者、製作者側)で担保するのは極めて難しいことから、使用者にある一定の「自己責任」を求める方法も考えられる。
 
 装置の製作にあたり安全性は最優先事項と考えるが、利用者に使いやすいものであり、事業者にとっては導入しやすいものでなければならない。今回の検討では、発生しうる事態に対しその問題をどのようにクリアすることが重要かを考え、「想定される事態」に対する安全性を抽出したが、実際の導入に関しては各方式によりさらに詳細に安全基準を策定すべきであると考える。また、試作品を製作し、実際の運用を考慮に入れた時点で必要性が生まれる事項もあると考えられる。
 今後、より多くの人に使用される、使いやすい装置を目指し、完成までの過程で安全基準及び基本仕様の記述をブラッシュアップさせ、完成形に近づけていきたいと考える。


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