神経遮断剤性悪性症候群について
錐体外路症状→カタトニア→悪性症候群は一連の疾患
悪性症候群の予防には、錐体外路症状からカタトニア、悪性症候群に至る一連の病態を連続したものと捕えることが極めて重要である。
悪性症候群を独立した症候群と見なさず、神経遮断剤により生じる「錐体外路症状」が重症化したもの、あるいは、「発熱を伴う錐体外路症状群」とのとらえ方がある。Woodburyらは、これまでの錐体外路反応や神経遮断剤カタトニア、あるいは悪性症候群の文献をレビューし、神経遮断剤カタトニアは、錐体外路反応から軽症悪性症候群、さらに重症悪性症候群へと進展するまでの一連の過程のひとつの段階にある病態であり、これを訳補表2のような5つの段階に分類し、各々の段階で治療が異なることを提案している。
まとめると、錐体外路症状のみの第1段階、神経遮断剤カタトニアの第2段階、軽症悪性症候群の第3段階、完成された悪性症候群の第4段階、致死的な悪性症候群である第5段階である。
錐体外路症状の1つであるアカシジアが重症例になれば、強い焦燥や興奮、せん妄などの症状を伴い、精神症状が悪化したようにみえるようになりうることは、神経遮断剤性カタトニアの発症機序として容易に理解できる。また、悪寒戦慄後に発熱する機序を考慮すれば、強い筋強剛が持続することにより発熱することも容易に理解できる。
このように錐体外路症状からカタトニア、さらには発熱する悪性症候群は一連の病態であるとする考え方はきわめて合理的であると考えられる。
訳補表2 悪性症候群へ進展する各段階と起こりうる状態
段階 |
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自律神経系症状
筋強剛 |
症状
(P:/分, RR:/1分, BP:mmHg) |
高熱
38℃超 |
治療 |
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第1段階
錐体外路反応 |
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軽度〜中等度 |
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抗コリン剤 |
第2段階
神経遮断剤カタトニア |
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軽度〜中等度
+歯車様筋強剛 |
P:70〜90
RR:18〜28
BP:120/70〜140/80 |
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抗コリン剤
+ベンゾジアゼピン |
第3段階
軽症悪性症候群 |
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軽度〜中等度
+歯車様筋強剛 |
P:90〜110
RR:25〜30
BP:140/100〜210/110 |
38〜39℃ |
抗コリン剤
+ベンゾジアゼピン |
第4段階
悪性症候群 |
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軽度〜中等度
+鉛管様筋強剛 |
P:110〜130
RR:25〜30
BP:130/80〜150/90 |
39〜40℃ |
上記+プロモクリプチン
ダントロレン
アマンタジン |
第5段階
悪性症候群(重症) |
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軽度〜中等度
+鉛管様筋強剛 |
P:130〜150
RR:30〜36
BP:140/100〜210/110 |
39〜42℃ |
上記+プロモクリプチン
ステロイド剤? |
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第1段階では、錐体外路症状のみの段階である。軽い錐体外路症状には、軽い肩こり症状、一見奇異な体や顔面の動き、嚥下障害、構音障害などの筋緊張異常反応、筋強剛や振戦を主とするパーキンソニズム、落ち着きなくうろうろする静座不能症(アカシジア)がある。発汗などの軽度の自律神経症状を伴っていることもある。この段階なら、初期段階であるので、神経遮断剤の中止や支持療法を実施するだけ、あるいはビペリデン等抗コリン剤を使用することで症状は治まる。
第2段階では、筋強剛が増し、歯車現象が出現し、少し自律神経障害があり、発熱はない。CPKは正常範囲内のことも軽度増加することもある。ある程度軽快してきたもともとの精神症状が、また悪化してくることがある。元気がなくなり、無口、動きが乏しく、時に拒食するような場合と、逆にアカシジアが悪化したように落ちつきなく興奮しせん妄を生じることもある。神経遮断剤性カタトニアの段階である。この段階を早期に診断し、抗精神病薬を中止できたら、抗コリン剤の増量で対処しうる。無効ならばベンゾジアゼピンを使用する。この段階は「異型悪性症候群」として報告されることもある。
第3段階の診断基準は、筋強剛や歯車現象が強くなり、軽度だが発熱が出現することが第2段階と異なる。自律神経症状やCPKは正常のことも異常になることもある。自律神経症状も強くなり、発汗、頻脈、尿失禁、流涎等が加わる。治療には抗コリン剤とベンゾジアゼピンを用いる。この基準を満たす例が「悪性症候群の前駆症状」とか「軽症悪性症候群」と呼ばれる場合もある。
第4段階は、完成された「悪性症候群」の段階で、一般的に「悪性症候群」の診断基準として提唱されているのはこの段階のものに対してである。しばしば「鉛管状」の筋強剛と呼ばれる強い筋強剛を伴い、自律神経異常が高度となり、一般に血圧が上昇する(が低下することもある)。39℃以上の高熱が出現する。CK異常や検査上多臓器不全の像を呈する。この段階では、プロモクリプチンやダントロレン、あるいはアマンタジンなどが必要である。
第5段階は、さらに症状が激しくなり、不可逆的となり死亡する場合がある。不可逆的となる例は、基本的には、治療の開始時期が遅すぎたものである。
どの段階の場合にも、神経遮断剤に対するアレルギーも合併している場合がありうる。薬剤アレルギー、薬物熱、薬剤性自己免疫疾息の関与の有無を、好酸球増多や抗核抗体など自己抗体を測定して検討を要する場合があるので注意が必要である。また、死亡例では、致死性緊急病や悪性高熱、心毒性(致死的不整脈)による突然死、血圧の低下、重症感染症もオーバーラップしてくる可能性がありうる。
訳補表3はHynesらによって提案された神経遮断剤カタトニアと悪性症候群を一連の病態と考えて作成した点数システムである。表の各項目(筋強剛、自律神経症状、精神症状、CPK値)でそれぞれに点数(スコア)をつけて合計し、最高点8点で点数化し、NIC-NMSスペクトルのどの部位に位置するかの目安を付けている。
訳補表3. 
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神経遮断剤カタトニア(NIC) ―悪性症侯群(NMS)スペクトルの重症度分類(文献10)を一部改変
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スコア
点数 |
筋強剛 |
自律神経不安定
(このうち2つ) |
意識状態 |
CPK |
0 |
軽度
歯車現象あり |
体温<38℃
脈拍数<100
血圧<140/80 |
通常〜軽度興奮
(agitation) |
<200 |
1 |
中等度
歯車現象あり |
体温 38℃-39℃
脈拍数90-110
血圧130/80-150/90 |
興奮(agitation)
昏迷(confusion) |
〜200
-1500 |
2 |
中等度〜重症
鉛管状強剛 |
体温>39℃
脈拍数90-110
血圧130/80〜150/90 |
せん妄(delirium)
昏睡(coma) |
〜200
-1500 |
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註 NIC:神経遮断剤(誘発)カタトニア NMS:悪性症候群 |
引用文献:「向精神薬治療ガイドライン」, 原著;オーストラリア治療ガイドライン委員会、編訳;医薬品治療研究会・NPO法人医薬ビジランスセンター・名古屋市立大学医学部精神医学教室, P260〜265, 発行所;特定非営利活動法人医療ビジランスセンター, 2001.
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NIDS(Neuroleptic-induced Deficit Syndrome)
定型抗精神病薬で生じる不注意、無関心、過度の鎮静といった認知障害をいい、陰性症状と識別しがたいので注目されている
Neuroleptic-induced Deficit Syndrome(NIDS)
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NIDS |
陰性症状 |
覚醒レベル |
眠気 |
注意障害 |
認知機能 |
考えの遅れ
注意の集中困難 |
無論理
会話の貧困 |
意欲 |
活力減退 |
意欲減退 |
感情 |
平板化
無関心 |
鈍麻 |
情動 |
感受性低下 |
減退 |
動機づけ |
快感喪失
欲動の減退
意志発動の減退 |
快感喪失
社会的欲動の喪失
興味の消失 |
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Otsuka Pharmaceutical Co., Ltd.
NEWS RELEASE
大塚製薬株式会社 広報部
〒101-8535 東京都千代田区神田司町2-9
2006年1月25日
大塚製薬
抗精神病薬「エビリファイ」
1月23日 承認取得
大塚製薬株式会社(本社:東京都千代田区、社長:樋口達夫、TEL: 03-3292-0021)は、非定型抗精神病薬「エビリファイ」(英語表記:ABILIFY、開発コード:OPC-14597、一般名:アリピプラゾール/aripiprazole)の承認を1月23日に取得しました。
「エビリファイ」は、大塚製薬が1988年に発見、開発し、2002年11月に統合失調症の治療薬として米国で製造販売承認を取得、2005年の米国内売上げは約1300億円に達しています。現在までに欧州を含め40カ国以上で順次発売され、2005年における全世界の売上げは1500億円を越えています。日本・アジア・エジプト以外の地域においてはブリストル・マイヤーズ スクイブ社(以下BMS社)と共同で販売*しています。
*日本、中国、台湾、韓国、フィリピン、タイ、インドネシア、パキスタン、エジプトにおいては大塚製薬(現地法人含む)が独占的販売権を有しており、既に台湾、韓国、フィリピン、タイ、インドネシア、エジプトで発売されています。米国とEU諸国においては大塚製薬が承認及び販売権を所有し、そのうち、米国とEU4カ国(イギリス、フランス、ドイツ、スペイン)において大塚製薬の現地法人とBMS社が共同で販売しています。その他の国においては、BMS社が販売を行っています。
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「エビリファイ」は、ドパミンD2受容体に対しパーシャルアゴニストとして働き、この点で他の抗精神病薬とは異なる新しい作用機序を持つ統合失調症の治療薬です。
脳内でドパミンが大量に放出されているときには抑制的に働き、ドパミンが少量しか放出されていないときには刺激する方向で作用します。作用機序から「エビリファイ」はドパミン神経系を安定化させるドパミン・システムスタビライザー(DSS: Dopamine System Stabilizer)と呼ばれています。このためドパミンの異常によって起こると考えられている統合失調症の陽性、陰性症状などを改善します。一方、眠気や体重増加などをきたしにくいと考えられることから、長期にわたり継続服用が可能な薬剤と期待されます。
統合失調症は、精神疾患の中でも最も慢性・消耗性の疾患で、生涯罹患率は人口の約1%だと言われています。統合失調症では、明晰な思考や感情のコントロール、決断、他の人との繋がり、といった患者の社会的能力が阻害されます。成人期初期に発病(発現)することが多く、幻覚や妄想などの陽性症状と感情の変化が乏しくなる、他の人とのコミュニケーションが取れなくなる、やる気がなくなるといった陰性症状が現れるのが特徴的です。
大塚製薬は、‘Otsuka-people creating new products for better health worldwide’の企業理念のもと、世界の人々の健康に寄与してまいります。
製品名: |
エビリファイ錠3mg、エビリファイ錠6mg、エビリファイ散1% |
薬効分類: |
抗精神病薬(アリピプラゾール製剤) |
一般名: |
アリピプラゾール(aripiprazole) |
効能・効果: |
統合失調症 |
用法・用量: |
通常、成人にはアリピプラゾールとして1日6〜12mgを開始用量、1日6〜24mgを維持用量とし、1回又は2回に分けて経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は30mgを超えないこと。 |
承認年月日: |
2006年1月23日 |
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