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マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第8回“マンガは世界に何をプレゼントできるか?”?

 事業名 基盤整備
 団体名 東京財団政策研究所


幼い子供達が夢中になれる新マンガ作法の出現を 【阿部 進】
 
 阿部 今、日下さんともお話ししていたんですが、2人とも72歳ですから、まさに手塚世代なんですね。で、手塚先生の少年時代のマンガを見ていて、僕も同じ体験をしてるのに、手塚さんはああいう表現ができて、僕は少年時代にどうしてたんだろうと思ったんです。
 それから、あの飛行機はB-25という、昭和18年4月18日に日本に攻撃に来たときの飛行機なんですね。戦争が終わる直前のB-29とは全く違います。ですからあのマンガは、まさに昭和18年に手塚さんが見て受けた印象の作品だなと。同じ世代として、せいぜいそれぐらいの知恵しかないんですけども。
 何年か前ですが、宝塚に手塚治虫記念館ができました。こけら落としに私も行ったんですが、そのときに矢口高雄さんが、年表のところに来たら「ここだよ、俺と先生の違いは」と盛んに言って動かなかったんです。俺はひたすらに「釣りキチ」だけで、もし年表にしたら一つだけで終わっちゃうけれど、手塚治虫先生はあらゆるジャンルにわたっている。俺とは全く違う生き方だった。いったいなんで、こんなに違ってるんだろうかと。その場所で彼が動かなかったのが印象的でした。
 そのこけら落としがあったとき、宝塚は手塚作品の『ブラックジャック』と『火の鳥』をショーという形で上演しました。そのプログラムに手塚先生の妹さんが、「宝塚はまさに手塚治虫のすべてでした」というタイトルで書かれているんです。
 兄が4歳のときにおじいさんが亡くなった。みんなが悲しみに打ちひしがれているとき、兄は祭壇を見て一人はしゃいで、「幕が開きまする、幕が開きまする」と言っていたそうです。その祭壇を見て、宝塚の華やかな大階段に見えた。これから幕が開いて華やかなフィナーレが始まる、というようなことを兄は思ったのではないか。また、兄は兄弟と宝塚を観て帰ってくると、みんなで役を分担して、そのストーリーを演じることをずーっとやってきた。宝塚というところは、あらゆるジャンルを演じるところです。ショーで日本ものをやったかと思えば、物語ではラテン系のものをやる。そういう大きな影響というものを、小さい子供のときから受けて育ってきた。まさに宝塚とは兄のすべてでした。そういうようなことを書かれていたんですね。あらゆる面で、まさに全方向的な作品を描かれた、その原点がここにあったと思うんです。
 かつて朝日新聞に、東大生がマンガを読んでいる、マンガを読むようなのが東大に入ってきたと、非常に驚いたような記事が出たわけです。これは逆に、マンガで育った人が東大に入っただけの話で驚くことは何にもないんですけど、その当時は大きな話題になりました。
 ところが、今は、年齢の低い子供たち、小学校から中学校前期に至る子供たちが、胸をワクワクして夢中になって読むような作品は、ほとんどありません。子供たちは、マンガっていうのは暇つぶしに見るもんだって、さらっと言いますね。暇なときにマンガを見ます、テレビを見ます、ゲームをやります、と。彼らにとって暇でないときは何だってことになるんですけれども、暇も何も夢中になってのめり込んでいくようなものを考えていく必要があるんじゃないかと、ある編集者が言っていました。
 「少年ジャンプ」を生んだ長野規は、9月までは小学校4年生をターゲットに置き、10月からは小学校5年生をターゲットに置くというような形で編集方針を考えた。上の子供たちをマンガを見ることに誘い込む力を持ち、それと同時に、下の子供たちもマンガを見る、そのポイントがこの年代である。そこを「少年ジャンプ」は継承してほしいと言って、2代目、3代目の編集長もそれを続けた。そのあたりから少年マンガ誌は、大学生がマンガを読むんだったら、もっと大学生が喜ぶような内容にというので、だんだん対象の年齢が上がっていきました。その中で、少女マンガは一貫して同じ年齢を狙っているというところに、少年マンガと少女マンガの違いがあるんじゃないかと思います。
 日本が、アジアの子供たち、それから世界の子供たちに対して何かを発信していくとするならば、今の子供たちの心を集中させるような編集者が現れてほしい。そして、描き手を見つけてほしいのです。
 長野さんがこう言っていました。「少年ジャンプ」に描く人はいなかった。「少年マガジン」が週刊のときに、「少年ジャンプ」は月に2回であった。「マガジン」が100万部を超えているときに、「ジャンプ」は15万部であった。こっちは1か月で30万部で、向こうは1か月で400万部。誰も描いてくれなかった。そこで考えたのは、描き手を生み出そうということだった。そこで、永井豪など何人かの描き手が、読み手の中から生まれてきた。そこが「少年ジャンプ」のほかの雑誌と違う画期的なところだと私は思うんです。
 そして今、そういう時代の空気というものがあるんじゃないかと思います。昨年暮れにK-1が、紅白歌合戦を相手にして17%以上とった。かつて力道山で群集が町中のテレビに集まったようなことが起きたと私は考えます。また、朝青龍という、小さな相撲取りが横綱になった。その力。そういう大きな、かつて「巨人・大鵬・卵焼き」と言われたときのような、時代の空気が動いている。こういうときには何かが生まれる、という期待感が私にはあるんです。それによって、新しいマンガ、新しいアニメが生まれ、また低年齢の子供たちがマンガに夢中になる時代が来ることを、ぜひ期待をしたいと思います。
 
 谷川 ありがとうございました。今のお話で、「少年ジャンプ」が4年生から5年生をターゲットにしたというところは面白いですね。4年生ということは10歳ですが、10歳がいかに大事な年齢かというのは、実は僕がずっと研究してきたテーマの一つなんです。僕も民俗学に関係があって柳田邦男をずいぶん研究したんですが、彼が戦前にいろいろな子供の作文コンクールに行った感想を書いている中で、「小学校4年生、10歳になるまでの子供の作品と、10歳を超えた子供の作品は全然違う」と書いているんです。10歳までの子供は表面上のことを描いているだけだけれど、10歳を超えると自分の意思、自分の考え方が入り込んできている、と。そういうことを彼は、文学的な直観力で読み取っているんですね。僕はそれを見て、そうだなと思ったんです。
 彼は、昔から一般の庶民は10歳のころを「物心がつく」と言っている、と書いている。確かに「物心がつく」のは10歳前後なんですね。そしたら、あるところの偉い先生が、実は私の90何歳かになる母親も同じことを言っている、と言うんですよ。その母親は、「子供というのは1つ、2つ、3つと数えて「つ」がつく間と、それ以降は違う」と言っている。つまり、9つまでの子供と10を超えた子供は違うと。そういうことを日本の庶民は結構つかんでいるんですね。
 ところが、今考えてみると、4年生以下の子供たち向けの作品が、あまりないんですね。
 
 阿部 丸っきりないと言っていいんじゃないですか。
 
 弘兼 少年誌と幼年誌というのがあります。「ボンボン」とか「コロコロコミック」とかというのと少年誌とが、非常にファジーに重なり合っていますので、10歳以下の子供の場合はそっちのほうでカバーしている形になっている。
 ただ、マンガがかなりゲーム的になっておりまして、ほとんどゲームのキャラクターが動いているようなマンガなので、幼年マンガに関して僕はある危機感を持っています。
 
 里中 確かに幼年ものといいますと、弘兼さんがおっしゃったように、ゲームと結びつくもの、ゲーム感覚のもの、最初からゲームやキャラクターグッズになることを見越して作品づくりをする。作者の心の中から生まれてきた作品ではなくて、もう最初から経済効果を狙ってつくり上げられていくのが、どうも成功している。
 
 弘兼 おもちゃメーカーが、企画の段階から入っていますね。
 
 里中 はい。作者は、その中で画面に起こすという形になるので、そこで自分なりの個性を出そうとせめぎあうところから将来の実力者が生まれるかもしれませんけれども。
 今、幼児にとっては、娯楽は一つじゃないです。昔はマンガの本を買ってもらったら、それだけ、1か月間ずっと大事に大事に熟成していったわけですけれども、今はいろんな遊び方があります。それらに連動するものとして、大人たちがつくり上げてきた幼児マンガ・キャラクターグッズ文化みたいなものがあると思いますね。
 
 谷川 ピエールさん、フランスの場合は、幼児の問題はどんな状況ですか。
 
 ジネル 子供に対しては問題があまりないです。基本的に今は新しい日本のシリーズはあまりないんです。すべては再放送か、フランスのアニメーションか、アメリカを通ってきた日本のシリーズです。何年か前に「ポケモン事件」があったときは、フランスでは一切放送しないという考え方があったけれど、でもアメリカを通って、『ポケットモンスター』から『ポケモン』になって、やっとフランスで放送されて人気が出ました。ただ、それも一つの偏見ですね。日本の暴力は悪い暴力、アメリカの暴力はまあ何とか見せられる暴力という考え方がありますから。フランスで日本のアニメーションを見たいなら、今はアメリカを通さないと見られないと思います。


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