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DV被害をのりこえる?支援現場からの発信?

 事業名 ドメスティック・バイオレンス(DV)被害者サポーター養成講座
 団体名 ウィメンズネット「らいず」


講義6 支援の実際〜電話相談と面接相談
1. 相談を始める前に
(1)相談者が本人以外の場合にどうするか
 本人以外から相談を受けたときにはまず状況を聞き、本人が直接相談できる状況にあれば本人から相談を受けるのが一番いいと思います。周囲と本人の感じ方にずれがあることが多く、周囲は危険だから早く逃げろ、と言っていても、本人はもっと頑張りたいということもあるので、今本人がそのどこにいるのかが分からないと支援の展開ができません。
 本人が電話に出ない、訪ねても会わせてもらえないなど安全の確認が全くできていない場合は、民間の団体だけでの対応は難しい。場合によっては死亡も予想されるので、警察やDVセンターに通報・連絡をして危機管理を急いでもらう必要があります。被害者の名前・住所、相談内容と併せて提供する必要があります。基本的には本人の意思の確認をしながら進めるのが原則です。
(2)安全の確認
■電話相談の場合
 どんな場合にも安全かどうかの確認が必要ですが、電話相談の場合は、どんな状況から電話をしているのか見えない。隣に加害者が座って聞いています、ということや、今2階で寝ているので、こっそり1階から電話をしている場合などもあります。
 できるだけ安全な中から相談をしてもらうのがいいのですが、このチャンスしかないという場合や、きょうやっと繋がって、次にいつ掛けられるか分からないという場合は、最大のチャンスと思って相談をする必要があります。加害者が在宅の場合はいつ電話が切れるか分からないので、必要な情報は早めに。人通りの多いところや公衆電話もあまり安全ではない。それを聞いて付け込み、新たな犯罪被害に巻き込まれることもある。どうしてもそこで話すしかない場合は、被害の詳細はあまり話させない、周囲に聞かれても問題のないようなやり取りを心がけます。
■面接相談の場合
 付き添いの人と一緒の場合、肉親やどんなに親しい人であっても、とりあえずご本人から話を聞く。どんなに善意で協力的な人であっても、その人の前でその人の意に反することが言えない。直接駆け込んでくる場合は追跡の可能性もあり、確認し可能性がある場合にはすぐ別の場所に移す。電話相談も面接相談も、まずは今相談しているその環境が安全な状況にあるかを確認します。
2. アセスメント〜見立て
 どんな問題が生じていて、どの程度か、緊急性の度合いなどを情報を聞き取るなかから整理。それによって支援の進め方が違ってくる。それを見立てます。
(1)安全性の評価
 DV相談の2つ大きな柱、「安全性の評価」「緊急性度」をきちんと見立てる。相談者にあなたは危険ですかと聞いても、危険性の評価はできない。大変な状況なのに、たいしたことはないと思っている場合もある。暴力を受け続けていると、大変だと思うと生活していくことが辛い、だからどこかであまり大変じゃないと大変さを感じないようになり、鈍くなっていく。本人からの聞き取りと、具体的な事実の聞き取りから判断する必要があります。
(2)限界の設定
 相談を受けている支援者や支援機関がどこまで、何をやれるのか、この人に対して何がやれてやれないのか、やれない部分はどうしようかを考えることが必要です。やれない部分についてはやってもらえる機関や人を探し、適切な支援にしていきます。
(3)相談の主訴を聞く
 何を求めて相談をしてきたか、まず相談者の主訴を聞く。その人の求めているところからが支援のスタートなので、まずその人が何を期待して相談したかを聞くことです。どうしたいのかを聞いても、理路整然と話せる方もいるが、とても悩んでの相談だと、きちんとは話せない人もいる。長く暴力を受けていると、混乱し、言うことがちぐはぐになっていく。
 そういう中からこの人が何を求めているのかを聞き取っていくのが、相談員の技術であり、役割です。時系列の混乱はよくあり、さらに暴力を受け混乱しているので、うそをついているなとか信頼できないというのではなく、ゆっくり話していいですよ、混乱は当然ですなど言葉かけをし、落ち着いて話せるようにします。
■DV以外の主訴が語られるとき
 暴力の被害をはっきり話す人も、そうではない人もいます。ほかの相談の主訴が語られても、背景にDVがあるのではと想像して聞くことが大事です。例えば、何もやる気が起きないとか、子どもの問題として語られるということがあるかも知れません。女性相談の窓口ではDV以外の相談内容としてかかってきて、よく聞き取っていくと背景にDVがある。こちらが想像力を働かせて聞いていくことです。問題がDVであると名前をつけることも大事。ただDVだと思いたくない人は問題に直面せざるを得なく辛いので、その気持ちを配慮しながら伝えます。
■暴力を直す方法を教えてほしい
 加害者プログラムや加害者治療については、現在の日本ではまだ法律化されていないので、そのようなプログラムはほとんどされていない。また、プログラムそのものが未成熟で、治るという結果が出ている段階ではない。日本の法律ではプログラムを受ける強制力がなく、治療に繋がることが難しい。治るという確率はあまり高くない、現状では治らないものと考えてあなたがどうするのかを決めていかれるといい、と話しています。
■暴力があるがどうしていいか分からない
 まず状況、どんな暴力が起こっているのかを聞いていきます。それから相談者がどうしたいと思っているのか。10年後どんな生活をしていたいですか、笑って暮らしていたい、子どもと3人かなあ、じゃあどんなだったら笑えると思う、と話をしながら、少しずつ具体的に膨らませていく。それから、今一番困っていることは何か。それによってその方が今一番望んでいることが分かってくる。その解答を引き出し、具体的に形にしていくのが相談の役割です。
■家を出たい、離婚したい
 具体的にどう考え、計画をしているかを聞く。実家に戻って夫と離婚したいという場合、それが本当に安全か。今まで実家に帰った時に加害者が追跡してきたことはなかったか、そこで暴れたことはなかったか、その可能性について聞く。子どもが連れ去られる危険性など、計画が安全に遂行できるものなのかどうかを一緒に検討する。話し合いで離婚をしたいという人は、今まで離婚の話し合いで起こったことを具体的に聞きながら、可能かどうか考えます。
(4)暴力状況の把握
 見誤ると危険に繋がるので、慎重にするが尋問的に聞くのではなく、少しずつ聞き取っていく。時間的に余裕がなくすぐに危険かどうか判断しなければならない時は別で、この時間で今こういうことを判断したいからと断るべきだと思います。被害のことを話すのが苦痛であったり、恐怖感が甦ってくることもあるので、配慮が必要です。聞かないと本当に危険かどうか判断が難しいが、話せないことも尊重する。安全なのかどうか判断しにくいから、できれば話してほしいと言ってみる。それでも話せなければ、話したくなってからでいいと思います。
■どのように危険かどうかを判断するか
 暴力の内容の把握:どれくらいの割合で起こっているのか、暴力が起こっている期間、その内容、けがで入院や手術をしたことがあるか、凶器を持ち出していないか。加害者に犯罪歴がある場合はより危険。
 けがの有無を確認:大けがをして電話をしてきているのかどうか。けががあれば証拠の確保を助言、できれば病院で診断書をとっておく。写真はけがの部分と自分の顔を入れて。ひとりの時は鏡に映して撮ることを勧めます。
 精神的な状況の把握:ひどくなると、自分で判断する、避難することなどができなくなるので、今どの段階にあるのかを知る。電話での会話が成り立っているか、面接であれば、身なりに違和感がある状態だとかなりダメージがあると判断ができます。家事や育児がどれくらいできているか、ご飯が作れなく子どもに買ってきてもらっている状態だと、精神的健康度が落ちていると分かります。病院で服薬しているかどうかから精神状態を把握しておくことが必要です。精神的ダメージの対応は難しいが、あまり踏み込んでいくとかなりうつ症状が重い場合には、怖くなってぷっつり相談が途絶えてしまうこともあり、精神状態の把握は、支援をしていくときに判断材料としては大事です。悪化すれば寝たきり状態や自殺、相談にかけてこられなくなる状況もありえます。
■子どもへの被害の状況
 DV家庭にいる子どもはほぼ暴力の目撃ということも含めて被虐待の状況にあり、被害女性から直接暴力の被害を受けている場合も少なくはなく、その確認は必要です。今は虐待を発見したら通報の義務があるので、これに関してだけは、本人の感じ方の尊重に反してやらなければならない。相談者が児童相談所へ知らせないでほしいと言っても、子どもが危険な状況にある場合には、児童相談所や福祉事務所へ通報せざるを得ません。


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更新日: 2020年12月4日

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