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DV被害をのりこえる
ドメスティック・バイオレンス
国際的な視点で学ぶ
サポーター養成専門講座
 
DV被害者をサポートする民間組織
NPO法人 ウィメンズネット「らいず」
 
2006年度 日本財団助成事業報告
ドメスティック・バイオレンス(DV)被害者サポーター養成講座
NPO法人ウィメンズネット「らいず」
代表 三富 和代
1. 事業の目的
 家庭内における女性や子どもへの暴力は人権を侵し、「犯罪」となる行為であるとの認識が高まり、公的・民間機関による被害者支援の体制は徐々にではあるが整ってきました。NPO法人ウィメンズネット「らいず」はDV電話相談ヘルプライン、地域でのアドヴォケイト(付き添い)活動、緊急避難支援などを通して当事者の声を受け止めながら、その一方で父親と母親の狭間にあり、心身を疲弊させる多くの子どもの存在に目を向けてきました。
 事業は茨城県のDV被害者支援の資質向上と、関係機関のネットワークの構築を目的に、県内の被害者支援・相談業務の現場にいる担当者、専門職の人たちにも参加を呼び掛けました。ドメスティック・バイオレンスの根絶をめざし、それぞれの持ち場で必要なサポートと情報を提供し、社会資源を活用しながら当事者のニーズに沿った支援が実現できることをめざしました。
 
2. 事業の期間 2006年4月1日〜2007年3月31日
テーマ 「DV被害をのりこえる 〜国際的な視点で学ぶ サポーター養成専門講座」
 
3. 事業の目標
 2004年12月に改正DV防止法が施行、2007年には第二次改正が予定されています。都道府県ごとに設置された配偶者暴力相談支援センターは、その存在が知られるようになった一方で福祉事務所、市町村の相談窓口、警察、裁判所など関係機関による対応の格差、二次被害を訴える声がしばしば聞かれます。
 公的機関と民間組織の連携も十分とは言いがたい状況にあります。講座は「らいず」メンバーとDV被害者支援の業務に携わる関係機関の担当者、被害当事者らが受講。事業は(1)DV問題への理解を深めて被害者支援スキルを獲得し、勇気と知恵をもって取り組むことができる人材の育成(2)参加者相互の意思疎通を図り、DV克服と自立支援に向けたネットワークの構築――が目標です。
 前期は「DV被害者への対応−有効な介入と支援」、後期は「DV克服に向けて−社会資源とネットワークの構築」がテーマ。カリキュラムは6人の講師により、DV被害者を取り巻く国内外の現状と課題、支援に必要な基礎知識と心構え、子どもの虐待との関係性、DV防止関係法と司法の動向、加害者プログラム――と幅広い内容を網羅。当事者を含め受講者同士の意思疎通がはかれるよう、ロールプレイや交流タイムを組み入れるなど講座実施にあたって工夫しました。
 
4. 事業の内容
「サポーター養成専門講座」の開催
(1)テーマ:「DV被害をのりこえる〜国際的な視点で学ぶ サポーター養成専門講座」
主催:NPO法人ウィメンズネット「らいず」
後援:茨城県、茨城県教育委員会、茨城県警察本部
事業助成:日本財団
(2)開催時期
a)前期:2006年6月18日(日)・25日(日)・7月2日(日)
b)後期:2006年9月17日(日)・24日(日)・10月7日(土)
(3)会場:水戸市国際交流センター 多目的ホール(水戸市備前町6-59 Tel. 029-221-1800)
 
 
(4)カリキュラムと講師
〈前期:DV被害者への対応−有効な介入と支援〉
◇1日目 6月18日(日) 午後1時〜4時
1)DV被害者を取り巻く現状と課題−公的機関と民間の役割
2)緊急避難とシェルターの機能
講師:近藤 恵子さん(全国女性シェルターネット共同代表、女のスペースおん代表)
◇2日目 6月25日(日) 午後1時〜4時
3)スウェーデンにみるDV被害者への取り組み
4)DVの特質と子どもへの影響−暴力の連鎖を断ち切る
講師:矢野 恵美さん(東北大学ジェンダー法・政策研究センター研究員)
◇3日目 7月2日(日) 午後1時〜4時半
5)支援の実際−サポーターの心構えと条件
6)支援の実際−電話相談と面接相談(ロールプレイ)
講師:池田ひかりさん(女性の安全と健康のための支援教育センター運営委員)
※意見交換
 
〈後期:DVの克服に向けて−社会資源の活用とネットワークの構築〉
◇4日目 9月17日(日) 午前10時半〜午後2時半
7)女性と子どもの人権を守る−関係機関とのネットワーク
※昼食・交流会
8)社会資源を生かした自立支援に向けて
講師:中村 明美さん(認定NPO法人ウィメンズハウスとちぎ理事長)
◇5日目 9月24日(日) 午後1時〜4時
9)DV防止法をめぐる関係法の動きと司法システム
10)自立への道筋−地域における支援モデルと課題
講師:小島 妙子さん(弁護士、ハーティ仙台顧問弁護士)
◇6日目 10月7日(土) 午後1時〜4時半
11)デートDVって何?−若者のデートに潜む「力と支配」
12)加害者を知ることでDVへの理解を深める−よりよい被害者支援をするために
講師:山口のり子さん(アウェア代表、DV行動変革プログラムファシリテーター)
※意見交換
 
 
□「DV被害をのりこえる」サポーター向け手引書の作成・発刊
 「DV被害をのりこえる」サポーター養成専門講座前・後期を担当した6人の講師による講座内容を、ポイントを絞って編集し収録しました。DV被害者支援のマニュアルとして活用し、支援の現場にいる人たち、当事者らの手引書、さらにDV被害者支援への理解・啓発が目的です。見て分かりやすい内容とし、(1)DVって何? (2)DV被害者を支援する (3)「DV被害をのりこえる」国際的な視点で学ぶサポーター養成専門講座から、さらに支援関係機関など付属資料を加えて作成しました。
 手引書名は、DV被害者サポーターの手引き「DV被害をのりこえる〜支援現場からの発信」。サイズは72ページ(A5判、2色刷り)、発行部数600部。
 配布先は会員、講座受講者、被害当事者、茨城県内の配偶者暴力相談支援センター、児童相談所、福祉事務所、県警本部、警察署、男女共同参画行政などの関係行政機関と民間機関、その他希望者等。
 
□事業報告書の作成・発刊
 「サポーター養成専門講座」の一連の事業内容と成果を報告書にまとめて編集し発刊。DV被害者支援の指針となるよう、特に連続講座の講義内容を中心に講義要旨をまとめて収録しました。
 報告書名は、「DV被害をのりこえる〜サポーター養成専門講座」事業報告書。サイズは48ページ(A4判、1色刷り)、発行部数400部。
 配布先は会員及び賛助会員、被害当事者、配偶者暴力相談支援センターなど県内の福祉、男女共同参画行政、警察署など及び関係行政・民間機関、その他希望者等。
 
5. 事業に取り組んでの成果と課題
 DV防止法の改正に伴う国の基本方針を受けて、茨城県もDV対策基本計画が策定され、被害者支援の現場もより一層責任ある、質の高いサポートが求められます。NPO法人ウィメンズネット「らいず」は活動6年目を迎え、連続による専門講座を本年度の最重点事業と位置づけ、日本財団の支援のもとに取り組みました。
 私たちは日々の活動を通して、被害当事者が現状を乗り越えるには電話や面接相談、緊急一時的な避難のみではDVからの脱出は難しいこと、身柄の安全が確保され、次のステップに確実につながる継続した支援のなかで、被害当事者である女性と子どもはエンパワーメントし、本来の持てる力を取り戻していくことを目の当たりにしてきました。そうした支援の流れを明らかにし、支援者として一層のスキルアップをはかり、手を結び有効な支援システムの構築につなげたいというのが、この連続講座のねらいです。
 幸い今回、全国女性シェルターネット代表の近藤恵子さんはじめ被害者支援の第一線で活躍する方々に、講師としてお出でいただくことができました。受講者は県内の公的・民間の関係機関、DV問題に関心のある人たちを含めて、前・後期を合わせ、予定を上回る方々が受講。DV被害者に対する有効な介入と支援、社会資源の活用とネットワークの構築をテーマに、緊急支援、法律、心理ケア、子どもとの関係性、加害者心理・・・と講義は多岐にわたり、レベル高い内容の充実した講座を実現することができました。
 
 
 とりわけ収穫は、日ごろ孤立した状況のなかで子どもと共に、辛い闘いを余儀なくされてきた被害当事者が複数人参加、直面してきた問題を自分の言葉で語り、理不尽なDV問題にこころを開いて向き合えたことです。
 DV被害者支援は電話、面接相談での出会いから始まります。そして安全の確保、住まいや仕事さがし、離婚調停・裁判、子どもとのかかわりと、いくつもの難問題に立ち向かいながら、当事者と支援者とが長い道のりを歩むことになります。
 私たちは講座を通して、家庭内で起こる女性や子ども、弱い立場にある人たちへの暴力が人権を侵す行為であることを一段と強く認識し、怒り、共感し合い、新たな視点を共有しました。こうした事業の積み上げが行政、民間を問わず家庭内暴力の被害者支援システム、社会資源を底上げし、当事者と支援者相互のエンパワーメント、ネットワークの構築の礎(いしずえ)となると確信しました。
 講座のなかでも、DV被害体験をもつ人たちが生きにくさや困難な問題を語り合い、情報を交換し、支え合いながら自立の道を探ろうとする自助グループの有効性が指摘されました。私たちウィメンズネット「らいず」は次年度に向け、茨城県内初となるDV被害者自助グループの立ち上げを模索しています。被害当事者である女性と子どもたちが互いに言葉を交わし交流を深めるなかで、自己評価を高め、こころの安定や力の回復につながる機会の創出に努めたいと考えています。


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