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−日中医学協会助成事業−
血管平滑筋細胞におけるアンジオテンシンIIとアルドステロンのクロストークによる血管老化の促進作用についての検討
研究者氏名  閔 莉娟
日本研究機関 愛媛大学 分子心血管生物・薬理学
指導責任者  教授 堀内正嗣
共同研究者  岩井 將、茂木正樹
 
要旨
 レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAS)の血管老化与える影響について検討した。ラットの胸部大動脈より調整した血管平滑筋細胞を用い、老化関連βガラクトシダーゼ染色にて細胞老化を評価し、細胞内シグナルの発現についてウエスタンブロットで検討した。酸化ストレスについてはdihydroethidiumによるスーパーオキシドアニオンの産生で評価した。Ang II(10-7M)連日刺激5日後より、老化VSMCが増強した。老化細胞は選択的AT1受容体ブロッカー(ARB)のバルサルタンの投与により減少したが、ミネラルコルチコイド拮抗薬のスピロノラクトン処置でも軽度減少した。Ang II刺激によりVSMCからAldo分泌も認め、Aldo単独でも老化が促進された。このメカニズムにはKi-ras2Aの増加や酸化ストレスの増強が関与していた。さらに、それぞれ単独の濃度で影響しない低濃度のAng II(10-9M)とAldo(10-12M)の両者の併用で、老化特異的染色細胞数の有意な増加が認められ、Ki-ras2Aの発現や酸化ストレス、NADPHオキシダーゼ活性の相乗的な増加が認められた。以上から血管老化にRASの相互作用が関与していることが示唆された。
 
Key Words アンジオテンシンII、アルドステロン、血管平滑筋細胞、老化、酸化ストレス
 
緒言
 近年、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAS)は血管の老化に影響を与え、動脈硬化の発症に深く関与することが示唆されている。我々はこれまでにアルドステロン(Aldo)とアンジオテンシン(Ang)IIが血管平滑筋細胞(VSMC)の増殖において相乗的に関与しあっていることを報告した。このメカニズムにRasファミリーの一つであるKi-ras2Aの増加が関連しており、Ki-ras2Aは老化にも影響することから、AldoとAng IIがVSMCの血管の老化にも影響しているのではと考えた。そこで、VSMCの老化におけるAldoとAng IIの相互作用について検討した。
 
対照と方法
 Sprague-Dawleyラットの胸部大動脈より調製した血管平滑筋細胞を用い、細胞の老化は、老化関連βガラクトシダーゼ(SA-β-gal)染色を行い評価し、p53、p21、p16、p27などのサイクリン依存性キナーゼ(CDKI)の発現の増大や増殖シグナルに対する反応性の低下なども老化の指標として検討した。また細胞内シグナルの発現についてはウエスタンブロットで検討し、より群しい検討にはsiRNAによる遺伝子ノックダウン法も用いた。酸化ストレスについてはdihydroethidiumによるスーパーオキシドアニオンの産生で評価した。
 
結果
 VSMCは連日のAng II(10-7M)刺激により細胞数は初めの5日間は増加を認めたが、その後はプラトーとなり、SA-β-gal染色の陽性細胞数の割合はAng II刺激5日後より増強した(図1参照)。これらの老化の指標は選択的AT1受容体ブロッカー(ARB)のバルサルタンの投与によりほぼ完全に抑制されたが、ミネラルコルチコイド拮抗薬のスピロノラクトン処置でも部分的に抑制された。また、老化特異的染色細胞が増加するのに伴って、CDKIの発現の増加や増殖因子刺激による反応性の低下も同様に認められた。スピロノラクトン処置によりVSMCの老化細胞数が部分的に抑制されたことから、Aldoの関与も示唆されたため、Ang II刺激によりVSMCからのAldo分泌について検討したところ、Aldoが時間依存的に増加し、VSMCからアルドステロンが分泌されていることがわかった。そこでVSMCに分泌」濃度のAldoを単独で投与したところやはり老化が促進された。このことから、Ang II(10-7M)刺激により、Ang IIだけでなく、分泌されるAldoによってもVSMCの老化が相加的に促進されることが示唆された。この詳しいメカニズムについて検討すると、Ang II又はAldo刺激によりKi-ras2Aの発現は時間依存的に増加し、Ki-ras2A-siRNAを用いてKi-ras2A遺伝子をノックダウンするとAng II刺激による老化の指標は有意に抑制されたことからKi-ras2Aタンパクの増加の影響が考えられた。また、Ang II又はAldo刺激により酸化ストレスやNADPHオキシダーゼ活性の増加を認めたことから、抗酸化剤であるスーパーオキシドデスムターゼ(SOD)やN-アセチルシステイン(NAC)、Rotenone、Antimycin-Aを添加したところ、老化特異的染色細胞数とKi-ras2Aの発現の部分的な減弱が認められた。
 さらに、それぞれ単独の濃度では、頻回刺激しても細胞老化は来たさない低濃度のAng II(10-9M)とAldo(10-12M)の両者を同時に添加してVSMCを刺激したところ、老化特異的染色細胞数の有意な増加が認められた(図2参照)。また、CDKIの発現の増加や増殖因子刺激による反応性の低下も同様に認められた。そのメカニズムについて検計したところ、Ki-ras2Aの発現や酸化ストレス、NADPHオキシダーゼ活性においても相乗的な増加が認められた。
 
考察
 以上よりRASによるVSMCの老化促進のメカニズムには、AT1受容体を介したKi-ras2Aの発現の上昇や酸化ストレスの冗進が関与しており、分泌されるAldoも関与していることが示唆された。さらに老化に影響しないAng IIとAldoでも両者が共存することで、低濃度であっても相乗的に老化を促進する可能性が考えられた。故にAng IIとAldoの効果的な抑制は血管の老化の予防に量要であると考えられた。今後、増殖因子であるRASがなぜ老化を誘導するのかについてKi-ras2Aの下流であるERKやその他のMAPキナーゼ系に注目して検討を行っていく予定である。また、アンジオテンシン受容体(AT1、AT2受容体)からのシグナルと血管老化についての詳しい検討もノックアウトマウスから調整したVSMCを用いて検討する予定である。
 
参考文献
Aldosterone and Angiotensin II synergistically Induce Mitogenic Response in Vascular Smooth Muscle Cells. Min LJ, Mogi M, Li JM, Iwanami J, Iwai M, Horiuchi M.
Circ Res. 97: 434-442 (2005)
 
注:本研究は『The 21st Scientific Meeting of the International Society of Hypertension』ならびに『60th Annual Fall Conference and Scientific Sessions of the Council for High Blood Pressure Research in association with the Council on the Kidney in Cardiovascular Disease』
にて、ポスター発表された。
 また、現在『Cardiovascular Research』に論文投稿中である。
 
作成日:2007年3月10日
 
図1.  アンジオテンシンII刺激による老化細胞数の割合とサイクリン依存性キナーゼの発現の増加
 
図2.  低濃度アンジオテンシンIIとアルドステロン刺激による老化細胞数の割合の相乗的増加効果


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