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制圧目標
 MDTの開発は「公衆衛生上の問題としてのハンセン病制圧」(本書中で制圧とはこの意味で使われます)を可能とした最大の要因です。しかし、それだけではこの制圧は達成されませんでした。MDTという効果的な薬剤を最大限に生かす、つまり全ての患者をMDTで治療するには、ハンセン病医療に関わる全ての人々の力を集結させる「明確な目標」が必要でした。
 1991年5月に開催された第44回世界保健総会(加盟国の保健大臣が集まり、WHOの活動および予算を決める会議)において、2000年末までに公衆衛生上の問題としてのハンセン病を制圧することが決議されました。この会議で、公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧とは、人口1万人当たり患者数が1人以下となることと定義されました。制圧目標設定にあたっては、それが実現可能であることを裏付ける幾つかの重要な事実がありました。
 
●MDTの治療を開始している患者からは、感染しないこと。MDTの構成成分であるリファンピシンは、1回の投与によりらい菌の99.9%を死滅させると考えられています。その結果、一旦治療を開始した患者から他の人に感染することはありません。
●臨床症状だけで診断が可能であること。特別な検査薬や器具を必要とせず、どのような環境でも診断が可能です。
●極めて効果的、安全、簡便な治療法、MDTが存在していたこと。
●HIV感染による免疫不全が、ハンセン病感染を広げることが確認されていないこと。
 
 制圧目標の設定により、蔓延国政府はハンセン病対策を国の政策の上位に位置づけ、それに必要な予算と人的資源を投入するようになりしま。また、従来から独自の方法でハンセン病問題に取り組んでいたNGOも、この共通の目標の下、全ての患者を発見してMDTで治療するための最も効果的な方法を蔓延国政府、WHOと共に考え、取り入れて活動を始めました。その結果、短期間に多数の患者を発見し治療することが可能となったのです。
 記録のある1985年以降2005年初めまでに、1,500万人の人がMDTによりハンセン病から回復しました。以前は、発病後、長い時間が経過し、治療開始前にすでに重度の障害を持つ人も多くいましたが、今ではほとんど発病直後に発見され、何の障害も無く治癒しています。つまり、制圧目標の下に加速された活動は、単に患者数を減らしただけでなく、早期発見治療により多くの人々の障害を防いだのです。
 1991年に設定された制圧目標は2000年末に世界レベルでは達成されました。これに先立つ1999年、WHOと蔓延国政府は、国のレベルで2005年末までに制圧を達成するという新しい制圧目標を設定しました。現在この目標は世界117カ国で達成され、未達成の5カ国も1〜2年の間には達成する見込みです。
 世界で最も患者数が多いインドは、2006年1年間で144,633人が新たにハンセン病と診断されましたが、2005年12月末には、国レベルで公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧を達成しています。
 現在の世界のハンセン病の状況は次のグラフのとおりです。
 
蔓延国数の推移
(国数/各年初め)
 
制圧未達成国の患者登録数
(人/2006年6月現在)
 
制圧未達成5カ国
数字は人口1万人あたりの患者数
(2006年6月末現在)


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