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1.2 イタリア共和国憲法
1.2.1 中央政府の統治機構
 イタリア共和国憲法は、第2次世界大戦終結の2年後にあたる1948年1月に公布された。その後、国会議員定数や任期の変更(1963年、2001年)、州首長直接選挙制への変更(1999年)、州の立法権の確立および地方自治体の課税自主権・支出裁量権の強化(2001年)など、33回の改正を経て現在に至っている。近年行われた、州首長直接選挙制への変更や、州の立法権の確立等、地方自治体について規定されている章全体におよぶ憲法改正は、近年急速に地方分権化が進められていることを示している。
 
表4 イタリア共和国の統治機構2
 
 イタリアは大統領を元首とする共和国であり、議院内閣制を採用している。
 大統領はイタリアの国家元首であり、両院議員と州議会が選出する各州3名の代表(ヴァッレ・ダオスタ州は1名)により選挙され(憲法第85条)、任期は7年となっている(憲法第85条)。法律への署名、政府による議会への法律案提出の承認、憲法に定められた国民投票の公示、栄典の授与、恩赦の実施、両議院の議決の後に行う条約の批准などを行い、軍隊の指揮権を有する(憲法第87条)。大統領はその議院の議長の意見を聞いた後に議院を解散することができ(憲法第88条)、首相の任命および首相の提案に基づく各大臣の任命を行う(憲法第92条)。
 国会は二院制であり、対等の地位を有する下院と上院で構成されている。下院は630人の下院議員により構成され、上院は315人の上院議員と終身上院議員(現在7名)で構成されている。両院とも議員の任期は5年となっている。国会議員は州議会選出の代表者と共に大統領を選挙する。
 共和国政府は、首相と各大臣によって構成される。大統領が首相を任命し、首相の提案に基づいて各大臣を任命する。首相は一般政策を指揮し、政治的・行政的指針の統一を保持する。中央行政機構である省組織は、最近の行政改革にともなう再編により、現在では18省から構成されている。国はこの他、郵政、エネルギー、保険機構、国営放送等の公社公団や公営企業等により公共サービスを提供している3
 共和国政府は両議院の信任を得る必要があり、両議院とも大統領により解散される。立法に関しては、本会議の議決を経ずに委員会の議決のみで法律が成立するという委員会立法を一定の場合に採用している(憲法第72条)。
 直接民主主義的制度として、5万人以上の有権者による法律発案(憲法第71条)の国民投票と、50万人以上の有権者による法律廃案の国民投票の提案が認められている(憲法第75条)。ただし、租税および予算に関する法律等は国民投票の対象から除外されている。
 
2 参議院憲法調査会事務局(2001)
3 会計検査院(2003)
 
1.2.2 地方自治体
 イタリア共和国憲法における地方自治体に関する規定は、「第5章 州、県、コムーネ」の憲法第114条〜憲法第133条に定められている。近年の地方分権に関する憲法改正の具体的な内容は次の通りとなっている。
 1999年、国会は州の自治権を強化することを目的として、憲法第121条〜123条および憲法第126条の4箇条の改正、および2000年4月に行われる普通州選挙における経過規定を盛り込んだ憲法改正案(1999年11月22日憲法的法律第1号「州首長の直接選挙及び州の憲章自治の強化に関する規定」)を可決した(2001年5月に憲法改正の国民投票が行われ可決された)。
 2001年地方自治に関する15の条文にわたる憲法改廃が行われた(2001年10月18日憲法的法律第3号「憲法第2部第5章の改正」)。憲法第114条は、従来、「共和国は、州、県およびコムーネに区分される」と定められていたものが、改正後は「共和国は、コムーネ、県、大都市、州および国から成り立つ」と定められた。この条文は地方行政のそれぞれの主体が憲法上同じ地位を有し、他のレベルの地方団体、州および国と関係を結んでいることを明示したものとなっている。また、県とコムーネは、新しい憲法の条文で「固有の憲章、権限、職務を有する自治団体」と定義された(憲法第114条第2項)。州は立法権(憲法第117条)と組織自治権(憲法第123条)を持ち、さらに、予算に関する一定の自治権も持つこととなった(憲法第119条)。
 イタリア共和国における地方財政に関する規定は、憲法第119条に定められているが、第5章の他の条文と共に先に触れた2001年の憲法改正で大幅に変更されている。旧条文が、共和国の法律に基づいて、州が財政に関する自治権を持ち、国、県、コムーネの財政との間で財政調整を行うことが定められていたのに対し、新しい条文では、コムーネ、県、州が、予算に関する一定の自治権を持つことを表す内容に改正されている4
 
4 高橋利安(2005)
 
1.3 地方自治に関する法律
 今日のイタリアにおける地方自治の法律の元となるのは、1990年に改正された新地方自治法(1990年6月8日法律第142号)となっている5。同法は、地方自治体の機能を新たに定義するとともにその構造およびマネジメント・スタイルを刷新し、イタリアの地方分権化の基礎となっている。同法はまた、行政手続き上の改革や行政情報の公開などの基礎を定めたが、これらはいずれも後にバッサニーニ法に継承され、その中核をなすものとなっている。同法は、1998年6月16日法律第191号、および1999年8月3日法律第265号によって、地方自治体の位置づけ、自治権の拡大、住民参加制度、情報へのアクセス権、地方自治体内の分権化(コミュニティ行政)、権限の移譲、大都市圏の定義および権限について修正され、また、2000年8月18日委任立法第267号(地方自治統一法典)によって集大成され、さらに2001年の憲法改正(2001年10月18日憲法的法律第3号)によって州が自治体として位置づけられ、今日に至っている。
 新地方自治法第2条には、地方自治に関する法律が適用される地方団体として、コムーネ、県、大都市、山岳部共同体、コムーネ共同体が列挙されている。
 バッサニーニ法は、(1)1997年3月15日法律第59号「職務及び任務の州及び地方自治体への授与、公行政改革並びに行政の簡素化のたのの政府への委任」、(2)1997年5月15日法律第127号「行政活動並びに決定及び統制手続の簡素化のための緊急措置」、(3)1998年6月16日法律第191号「1997年3月15日法律第59号及び1997年5月15日法律第127号の改正及び補充並びに職員養成及び公行政における職場以外での労働に関する規程・学校建築に関する規程」、(4)1999年3月8日法律第50号「脱法律家及び行政手続に関する統一法典−簡素化法」からなる行政マネジメント改革を伴う法律のことを指し、国家行政の権限・機能を州及び地方自治体に大幅に移譲することで国家行政組織の分権化をもたらした。許認可手続きの簡素化、ワンストップ窓口制度および自己証明制度、電子政府の導入を中心とする行政手続きの合理化および簡素化を軸に、主に州への行政機能の分散化を進め、組織と運営の改革のための統制と評価のシステム、公共サービスのクオリティ統制の諸制度が導入され、それを分野毎に専門的に実施、監督する独立組織が設立された。
 
5 工藤(2004)
 
1.4 立法権と行政権
 国と州の間の立法権の区分については憲法第117条に、国と地方自治体の間の行政権の区分については憲法第118条に、それぞれ定められている。
 2001年の憲法改正(憲法的法律第3号)により、従前は州が立法権を有する分野が限定列挙されていたのに対し、「国の権限に専属する分野」と「国と州の共管とする分野」が明記され、「それ以外の全ての分野」についての権限が州に専属することとなり、その立法権も有することとなった。その結果、従前と比べ、州の立法事項が大幅に拡大されることとなった。
 行政権の配分についても、2001年の憲法改正により、従前の立法権の下で州が立法権限を持つ事項に関する行政権限は州に帰属させ、地方的利益に関する事項の行政機能のみを県・コムーネに帰属させるという、いわゆる権限の一致主義の基準に代わり、統一的な執行を確保すべき分野を除き、行政権限がコムーネに帰属する(補完性の原則6に基づく)こととされた。
 
6 欧州地方自治憲章においては、以下のように述べられている。「公的な責務は、一般に、市民に最も身近な行政主体に優先的に帰属するべきである。他の行政主体への権限配分は、任務の規模と性質および効果性と経済性を考慮して行うべきである」。これを「補完性の原則」と呼ぶ。
 
1.4.1 国のみが権限を有する分野
 国のみが権限を有する分野は、国が伝統的に行ってきた機能におおよそ集約されており、憲法第117条第2項から第3項に以下のように分類されている。
1 国の外交及び国際関係、国と欧州連合との関係、庇護権及び欧州連合に帰属しない市民の法的地位
2 移民問題
3 共和国と宗教団体との関係
4 国防及び軍隊、国家の安全保障、武器、弾薬及び爆薬
5 通貨、貯蓄の保護及び金融市場、競争の保護、外貨制度、国の租税制度及び会計制度、財政資源の調整
6 国の機関及びその選拳法、国レベルの国民投票、欧州議会選挙
7 国及び国の公共団体の行政制度及び組織
8 地方の行政警察を除く治安及び保安
9 国籍、個人の身分及び住民登録
10 司法及び手続法、民事法及び刑事法、行政争訟
11 国土全体で保障されなくてはならない市民的及び社会的権に関する給付の基本的水準の決定
12 教育に関する一般規則
13 社会保障
14 コムーネ、県及び大都市の選挙法、統治機関及び基本的権能
15 税関、国境の防備及び国際的予防措置
16 度量、尺度及び時の決定、国・州及び地方の行政データの統計及び情報処理技術に関する情報の調整及び知的財産権
17 環境、エコシステム及び文化財の保護


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