3. 各財源に関する市町村の裁量
表3は、各財源について市町村が裁量を有しているかどうかを示したものである。地方自治体の基幹税である営業税と不動産税については、市町村に税率決定権が無制限に与えられている。両税の仕組みは連邦法によって定められており全国共通であり、課税標準に課税指数(Steuermeßzahl)を乗じたものに、さらに賦課率(Hebesatz)を乗じることによって税額が算定される。つまり、課税指数と賦課率を掛け合わせたものが実質的な税率となる。課税標準と課税指数は全国共通であるが、賦課率は各市町村が決定することになっている。上限や下限の定めはなく、賦課率については完全な自主権が認められているといえる。
所得税と売上税は共同税である。両税とも連邦法に基づいて州が徴収し、同じく連邦法に定められた基準と比率によって、市町村、州、連邦に税収が配分される。所得税については、市町村内の所得税納税者の課税所得資計額を基準に市町村間の配分比率が決められ、売上税については、営業資本税廃止(営業税はかつて営業収益税と営業資本税からなっていたが1998年に営業資本税が廃止され、現在は営業収益税のみから構成されている)によって生じた税収減少額を基準に市町村間の配分比率が決定される。市町村の側から見れば、一方的に配分されるものであり、どれだけの税収を得るかについて決定する権限は全く与えらていない。税収に影響を与えられる要素は、市町村内の所得税納税者数を増減させる努力のみである。
一般交付金ならびに目的交付金についても、市町村には全く裁量がない。一般交付金は州からの交付金は州法に基づいて行われるもので、規則の細部は州によって異なるが、基本的には人口を基準に算定した財政需要額と標準税率で見積もった租税収入額との差額に応じて配分される。目的交付金も各種の州法に基づいて給付額が決定されるものであり、ほぼ100%、州に裁量があるということができる。
料金については、逆に市町村が完全に裁量を有している。市町村は予算策定において事業ごとの収支を算出しているが、支出のうちどれだけを料金(負担金、分担金、手数料、使用料)で賄い、どれだけを租税収入(地方税ならびに共同税市町村分)で補償するかを自ら決定する。またその過程で料金の金額も何の制約を受けることなく自由に決定する。
地域諸税とは、その効果がその地域のみに限定されるような事象のうち、連邦法の定めによって既に課税標準に採用されていないものについて、州が地方税(地方自治体が税収を得る税。州が立法権を有するが州の税収とはならない)として独自に導入することができる租税のことである。課税規則の決定権は州にあるが、多くの州ではその権限の一部を市町村に委譲している。その意味では市町村にある程度の裁量が認められるが、豊かな税収の見込める税目は少ないため、実質的には裁量をふるう余地は少ない。
以上のように、市町村には料金と地方基幹税(営業税と不動産税)についてのみ裁量が与えられている。歳入不足の事態に対しては、短期的には支出削減で、中期的には地方基幹税賦課率と料金の引き上げで、長期的には共同税や一般交付金の改革について連邦に働きかけることで対応するものと考えられる。
表3: 各財源に関する歳入額の決定要因
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裁量の有無 |
歳入額の決定要因 |
営業税 |
有 |
税額は、課税標準×課税指数×賦課率で計算される。課税指数×賦課率が税率となるが賦課率は自治体が決定する。 |
不動産税 |
有 |
税額は、課税標準×課税指数×賦課率で計算される。課税指数×賦課率が税率となるが賦課率は自治体が決定する。 |
所得税市町村分 |
無 |
市町村内の所得税納税者の課税所得合計額を基準に共同税から配分される。 |
売上税市町村分 |
無 |
営業資本税廃止によって生じた税収減少額を基準に共同税から配分される。 |
一般交付金 |
無 |
人口を基準に算定した財政需要額と標準税率で見積もった租税収入額との差額に応じて州より配分される。 |
目的交付金 |
無 |
経常会計の目的交付金ならびに資本会計の投資交付金は州法に基づいて州が交付額を決定する。 |
料金 |
有 |
料金に関する決定権は全面的に市町村にあり、市町村は各任務について料金による充足率に考慮しながら金額を決定する。 |
地域諸税 |
有 |
課税標準や税率に関する決定の権限は州にあるが、多くの州では権限の一部または全部を市町村に委譲している。 |
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4. 賦課率決定権の行使状況
前述のように、地方基幹税である営業税と不動産税については、市町村に賦課率の決定権が完全に自由な形で与えられている。全国一律の課税指数に市町村が決定する賦課率を乗じたものが実質的な税率となるので、市町村は税率決定権を有していることになる。
表4は、地方基幹税の賦課率分布を示したものである。100%以下の賦課率を採用する市町村もある一方で、500%以上の賦課率を採用する市町村もあり、その意味では賦課率決定権は自由に行使されているとみることができる。
しかしながら分布をよく見ると、ほとんどの自治体が、最頻値とその前後あわせて3階層の中に収まっていることがわかる(不動産税Aは200%〜350%の間に約80%が、不動産税Bは250%〜400%の間に91.3%が、営業税は250%〜400%の間に92.4%が収まっている)。このことは、市町村間に租税競争が存在すること、あるいは逆に横並び意識が存在することを疑わせるものである。
表5は市町村の規模別に算出された賦課率の平均値を示したものであり、図2〜4は1千人以下の地方自治体の賦課率を1としたときの指数を図示したものである。不動産税は、農林業の資産を課税標準とする不動産税Aと、それ以外の土地・建物を課税標準とする不動産税Bとに分けられている。不動産税Aについては、階層間の平均値の差異は比較的小さく、地方自治体の規模が大きくなるほど低くなる傾向にあり、不動産税Bと営業税については逆に、階層間の格差が大きく、地方自治体の規模が大きくなるほど高くなる傾向にある。ドイツではかつてより、地方自治体の規模が大きくなるほど住民1人あたりの財政需要が高くなるといわれている。この法則の理論経済学的な当否はともかく、実際の歳出額はこの法則に合致している。不動産税Bならびに営業税の賦課率が、地方自治体の規模が大きくなるに従って高く設定されているのも、そうした歳出の状況を反映したものであると考えられる。不動産税Aの傾向が逆になっているのは、農業保護の観点から、財政需要の高い大規模市町村においても、賦課率の引き上げが見合わされていることによるものと考えられる。
このように、賦課率に100%以下から500%以上までの格差があること、不動産税Aと営業税について1人あたりの財政需要が高くなる大規模市町村において賦課率が高くなる傾向にあることからは、賦課率決定権、すなわち税率決定権は充分に活用されているとみなすことができるが、他方で、ほとんどの自治体が最頻値の前後150%ポイント〜200%ポイントの範囲に収まっていることからは、税率決定権が租税競争や横並び意識の圧力下で行使されている現状が伺える。
表4: 地方基幹税の賦課率分布(2003年度)
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不動産税A |
不動産税B |
営業税 |
自治体数 |
構成割合 |
自治体数 |
構成割合 |
自治体数 |
構成割合 |
|
|
|
|
|
|
|
100%以下 |
1 |
0.0% |
0 |
0.0% |
5 |
0.0% |
100%超150%以下 |
19 |
0.2% |
12 |
0.1% |
7 |
0.1% |
150%超200%以下 |
1,666 |
13.2% |
105 |
0.8% |
112 |
0.9% |
200%超250%以下 |
1,952 |
15.5% |
683 |
5.4% |
423 |
3.4% |
250%超300%以下 |
5,905 |
46.8% |
5,406 |
42.8% |
3,345 |
26.5% |
300%超350%以下 |
2,205 |
17.5% |
4,725 |
37.4% |
6,239 |
49.4% |
350%超400%以下 |
612 |
4.8% |
1,402 |
11.1% |
2,085 |
16.5% |
400%超450%以下 |
160 |
1.3% |
206 |
1.6% |
380 |
3.0% |
450%超500%以下 |
61 |
0.5% |
66 |
0.5% |
28 |
0.2% |
500%超 |
40 |
0.3% |
21 |
0.2% |
3 |
0.0% |
|
|
|
|
|
|
|
合計 |
12,621 |
100.0% |
12,626 |
100.0% |
12,625 |
100.0% |
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表5: 市町村の規模別にみた賦課率平均値(2003年度)
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不動産税A |
不動産税B |
営業税 |
平均値 |
指数 |
平均値 |
指数 |
平均値 |
指数 |
|
|
|
|
|
|
|
<市町村> |
1千人以下 |
270% |
1.00 |
304% |
1.00 |
295% |
1.00 |
1千人超3千人以下 |
305% |
1.13 |
315% |
1.04 |
323% |
1.09 |
3千人超5千人以下 |
299% |
1.11 |
311% |
1.02 |
326% |
1.11 |
5千人超1万人以下 |
296% |
1.10 |
308% |
1.01 |
326% |
1.11 |
1万人超2万人以下 |
280% |
1.04 |
317% |
1.04 |
341% |
1.16 |
2万人超5万人以下 |
264% |
0.98 |
338% |
1.11 |
361% |
1.22 |
5万人超10万人以下 |
246% |
0.91 |
371% |
1.22 |
398% |
1.35 |
10万人超20万人以下 |
287% |
1.06 |
455% |
1.50 |
436% |
1.48 |
<郡独立市町村> |
2万人超5万人以下 |
268% |
0.99 |
351% |
1.15 |
357% |
1.21 |
5万人超10万人以下 |
296% |
1.10 |
390% |
1.28 |
390% |
1.32 |
10万人超20万人以下 |
283% |
1.05 |
422% |
1.39 |
412% |
1.40 |
20万人超50万人以下 |
275% |
1.02 |
455% |
1.50 |
440% |
1.49 |
50万人超 |
232% |
0.86 |
512% |
1.68 |
457% |
1.55 |
|
|
|
|
|
|
|
全体 |
286% |
|
381% |
|
387% |
|
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