第6 今後の検討課題及び地方税法改正の具体的方法の検討
1 今後の検討課題
(1)「無益な差押禁止」と「差押後の固定資産税等の優先権」の関係
強制換価手続開始後に納期限を迎える固定資産税等について、課税対象不動産の換価代金から優先的に徴収できる制度を創設するという結論を踏まえ、有識者委員等から、国税徴収法第48条第2項に規定される「無益な差押の禁止」との関係で問題提起がされた。
「無益な差押の禁止」とは、財産を差し押える場合、財産の価額と差押に係る徴収金に優先する他の債権の合計額を勘案し、差押にかかる徴収金に配当が見込まれない場合には、その財産を差し押えてはならないという規定である。しかしながら、対象財産の価額は必ずしも明白でないことや、差押執行時点で租税債権の配当見込みを厳密に判断することは困難であることから、同規定に抵触するおそれのある差押がされている場合がある(同規定は、制度趣旨としては「無剰余公売」を禁止するものであるとの見解もある)。
提起された問題は、このような差押がされている場合、差押執行後に納期限を迎える固定資産税等が優先権を付与されることから、差押執行後の固定資産税等について交付要求等の手続を行うことにより、優先権付与の起因となった滞納処分による差押を続行し、公売を行うことができるかというものである。このような公売を認めるとすれば、固定資産税等の滞納処分において、国税徴収法第48条第2項の規定を実質的に無効化することになるとの指摘である。
この課題に関する研究会における当面の結論は次のとおりである。すなわち、現時点の提案は、強制換価手続開始後の固定資産税等について、創設的に優先権を付与するのみであって、そのことにより、国税徴収法第48条第2項の解釈を変更するものではない。したがって、差押に係る徴収金について、差押対象財産からの配当が見込まれないときは、「無益な差押」として解除されるべきであり、当然、公売を執行することもできない。
なお、固定資産税等が市町村の重要な財源であり、公益的費用性を持つことに着目して、今回の制度改正を求める趣旨に照らすと、このような場合であっても市町村自らが主体的に固定資産税等を確実に確保することが可能となるような特例的な規定を設けるべきであるとの意見もあり、更なる研究が必要である。
(2)固定資産税等の優先権が存続する期間
いったん付与された固定資産税等の優先権は、いつまで優先権を保持するのかという点についても、なお検討を要する部分がある。前記(1)に記載したようなケースでも、優先権を付与された固定資産税等に基づき、同財産に対しで参加差押を行った場合に、当初の差押が解除されたときには、参加差押は差押の効力を持つに至るが、この場合にも当初の差押により付与された優先権は保持されているかという問題である。
国税徴収法においては、差押と参加差押については、差押解除時に当初の差押に対してなされた交付要求順序が引き継がれるなど、一連の手続として進行するよう調整が図られている。また、民事執行法においても、二重開始決定を受けた競売等については、先順位の手続に引き続いて手続が進められるよう調整が図られている。したがって、差押→参加差押→差押解除といった場合にも、一応、一連の手続上は固定資産税等の優先権が保持されてしかるべきと考えられる。
しかしながら、このような典型的な例以外にも、民事執行と滞納処分による差押が競合した場合や、2つの強制換価手続が期間的に連続せずに行われた場合の優先権の取扱など、様々な事例が想定されるため、制度創設時には更に詳細な検討が必要である。
2 規定の方式
地方税法第14条の4(強制換価の場合の道府県たばこ税等の優先)に類似した規定を創設し、固定資産税等が課税される不動産について強制換価手続が開始された場合、当該手続の対象となる土地家屋に関して賦課された固定資産税等に係る地方団体の徴収金のうち、当該強制換価手続開始当時、納期限が到来していないものについては、第14条の6から第14条の11まで及び第14条の13から第14条の15まで並びに第14条の17の規定にかかわらず、当該土地家屋の換価代金について他の地方団体の徴収金、国税その他の債権に先だって徴収することをその趣旨とする。
加えて、換価代金の配当時について、租税債権を含めた他の債権の配当原資とせずに、優先額をそのまま固定資産税等に充てることができるように、租税債権相互間の差押え先着手主義を適用しないなどを趣旨とした関連規定の整備が必要となろう。
3 関係諸規定の整備に関する今後の課題
(1)法第364条による課税標準額の合計額課税の原則を踏まえ、具体的計算方法と徴収方法について細目を整備する必要がある。この点については、同一課税区域内に複数の物件を所有する者がある場合において、この制度創設により、特定物件の固定資産税等を指定して納税を申し出る場合も想定される。また、同様に、複数の不動産について、強制換価手続が別々に進行する場合も想定される。したがって、具体的な対応方法を地方税法上に明文化する必要がある。
(2)優先権行使については行政処分であるとすれば、利害関係人への通知等を整備する必要がある。これについては、「交付要求通知書」等により教示することで足りるとの見解もある。
(3)「地方団体の徴収金」とするか「地方税」とするか、延滞金等に対する配当の可否を含め、整備する必要がある。
(4)固定資産税等を課税する市町村が強制換価手続の開始を了知することができるよう、各強制換価手続の開始時点で、固定資産税等の課税権を有する市町村への通知手続を整備する必要がある。民事執行法においては、配当要求の終期が定められた時点で「債権届出の催告」が送付される取扱となっているが、国税徴収法上では同様の規定が無いため、整備が必要である。
(5)民事執行法上の配当に関する規定の改正が必要である。
《参考文献》(順不同)
日高全海著 「地方税の徴収実務事例集」初版
(財)大蔵税務協会 吉国二郎・荒井勇・志場喜徳郎共編
「国税徴収法精解(平成17年改訂)」
伊藤眞著 「破産法(第4版)」
古賀政治編著、志賀剛一、田井雅巳、穂刈俊彦、正木順著
「ケースでわかる新担保・執行法制」初版
道垣内弘人、山本和彦、古賀政治、小林明彦著
「新しい担保・執行制度」初版
株式会社経済法例研究会編 西口昌良、湊信幸、山内泰紀監修・著
秋谷重雄、小松原秀樹、信森久典、皆川裕作、中村太樹著
「信託の基礎」初版
浦野雄幸著「条解 民事執行法」初版
小野瀬厚、原司編著
「一問一答 平成16年改正民事訴訟法・非訴事件手続法・民事執行法」初版
谷口園恵、筒井健夫編著「改正 担保・執行法の解説」初版
固定資産税務研究会編 「平成18年度版 要説固定資産税」初版
山川一陽、山田治男編著 「改正担保法・執行法のすべて」初版
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