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2.5 販売促進
 販売促進に関する情報では、ヤマハ・マリーンが圧倒的に多い。同社は、イベントでの協賛契約やディーラーへの研修コース開催で、自社製品の認知度及び顧客サービスの向上に向けて他社に比べて活発に動いている。
 ここでは、主としてヤマハの販売促進活動を追うとともに、カワサキのイメージ戦略、最近のボートメーカーとボートディーラーのビジネス関係について見る。
 
(ヤマハの積極的なイベント協賛)
 NMMAによると、ヤマハ・マリーンは2005年7月中旬、「ボーティングの発見とフィッシングツアーへの旅(Discover Boating & Take Me Fishing Tour)」(全部で16大会ある)のスポンサーになることで契約した。それによって、ヤマハは同ツアーでボートエンジンの提供企業となる。ヤマハは、それぞれのツアー会場に設置される「ミニボートショー」で、自社製エンジンを陳列する場所を確保した。ヤマハのPWC部門は同時に、同ツアーのミニボートショーでVX110ウェイブランナー(WaveRunner)とSX230ジェットボート(Jet Boat)を2回展示する機会を取得した。同大会には過去2年間に合計120万人が訪れており、同社広報担当のシンディ・サンダース(Cindy Sanders)氏は「ヤマハのブランド認知度を高め、市場を開拓する場所として非常に有効な機会だ。」と話している。また、同ツアー参加者の中から1人にVX110を贈呈した。同社PWC部門のイベントマーケティング担当責任者、ジェニファー・シャープ(Jennifer Sharp)氏は、「同ツアーは、ウォータースポーツを家族で楽しむこととして性格づけるイベントであり、我々の製品がそれに貢献していることを消費者に見てもらえる機会としてふさわしい。」と語っている。
 「ボーティングの発見とフィッシングツアーへの旅」はNMMA主催のイベントで、スポンサーには、Recreational Boating and Fishing Foundation、Hunter Marine、Yamaha Outboards、Yamaha Watercraft、Tracker Marine、Brunswick Boat Group (Bayliner, Walker Bay, INDMAR, boats.com, Boat Trader Online.com)、Sail誌、Trailer Boats誌、Boating誌がなっている。
 
(ヤマハ大学とディーラー研修制度)
 ヤマハ・マリーンの独特な手法として業界内で知られているのは、ディーラー研修制度に非常に力を入れていることである。同社はディーラーを研修するのに「ヤマハ大学(Yamaha University)」制度のもとに40近いコースを提供している。目的の骨子は、ディーラーの質を高めることで顧客サービスを充実させ、売れ行きを伸ばすことである。
 
 ディーラー研修で重点を置く分野は次のとおりである。
1. 教育と訓練
 どこがどのように悪いのかを的確に判断し迅速に修理できるよう、ディーラー従業員を教育する。
2. 道具と機器
 適切な道具や機器がなければいい仕事はできない。それらを備えることは将来への投資である。
3. 部品の品揃え
 「頻繁に必要となる部品」を常備し、取り寄せることで発生する修理期間の長期化を防ぐ。
4. 計画性
 修理技術者を効率的に使うこと。
5. 店内ディスプレイ
 エアーパイプや部品陳列場所がそれぞれ必要とされる場所に効率的に配置されること。
6. 従業員からの意見と報奨
 従業員の意見に耳を傾け、従業員をやる気にさせ、良い仕事ぶりには報奨を与える。
 
 最近では、「戦略的ディーラーマネジメントシンポジウム(Strategic Dealer Management Symposium)」(ヤマハ大学(Yamaha University))の2005年の秋冬(11月1〜3日がラスベガス、12月13〜15日がオーランド)のセッションが記録的人気を博した。同社によると、ヤマハ・マリーンの214のボートディーラーから300人以上が研修コースに参加した。同シンポジウムは、顧客と接するディーラーのために研修を行うものであり、製品説明や修理、顧客サービスについて販売員たちを教育することに主眼が置かれた。
 
 J.D.パワーの調査によると、ボートディーラーに対する顧客満足度は、他の業界のそれと比較すると低い。今年の調査結果では、ボートディーラーの点数は7.44だった。オートバイディーラーは7.99、自動車ディーラーは8.55だった。J.D.パワーは8.0以下を「低い」と位置づけると同時に、1ポイント以上の差は業績に決定的な影響を与えるものであると指摘し、自動車業界よりも1.11低いボート業界の弱さを強調した。その面でも、ヤマハによるディーラー研修制度は、非常に有意義な取り組みと言える。
 
(ヤマハ、エンジンの年型式割当制度を撤廃)
 ヤマハ・マリーンは、船外機に年型式(イヤーモデル)の割当を打ちきった。在庫管理に際し、ボートメーカーもディーラーも以前から直面していた問題に対する対策である。その結果、ヤマハの船外機では、ボートの年型式とエンジンの年型式を一致させる負担がなくなる。
 「例えば、自動車や飛行機、米国で流通している多くのボートでは、年型式の割当が理にかなっている。なぜなら、製品が毎年のように変わるからだ。」、「これまでも船外機も年に1度くらいは新たな部品を加えたり、一部を変更したりすることもあったが、実際には、1年の内のある1日に改良された新型が登場するというわけではない。」、「従って、製品に何年型式という割当することの意味がそれほどなく、年型式を指定することが消費者に恩恵をもたらさない。」(ボーティング・インダストリー、08/23/2005)とダイスコウ社長は説明している。
 「ディーラーが1年間のうち何回か注文する際、両方とも新品にもかかわらずボートとエンジンの年型式が違う組合せのボートが納品されることがこれまでに頻繁に起こっている。しかし、エンジンの年型式割当を止めれば、そういったことが起きなくなる。」とダイスコウ社長は述べた。エンジンの製造年月日はこれまでどおり製品に貼付されるが、従来の年型式を表示していた最後のケタは取り除かれる。
 
(ヤマハ、製品保証制度を拡充)
 ヤマハ・マリーンの全米販売部長ジョン・リグスビー(John Rigsby)氏によると、同社は2005年10月1日から、船外機ディーラーのキー・フル・ライン(Key Full Line)とキー・プリペアード・パフォーマンス(Key PrePaired Performance)に、製品保証の付いたエンジンと部品に対する保証請求に小売価格を支払うとの方針を打ち出した。同方針が実施されるためには、「マリンパワー・セールス・プログラム(Marine Power Sales Program)」という小冊子に明記されている条件を満たす必要がある。
 ヤマハのディーラー諮問委員会や同社シンポジウムでは、保証制度の内容を見直す必要性が以前から指摘されてきた。「これまでの方法では、ディーラーにおけるコストだけが保証対象だったため、消費者へのサービス向上に限界があるという認識に至った。」(ボーティング・インダストリー、08/23/2005)とリグスビー氏は説明している。
 
(ヤマハ、ボートディーラーとのコミュニケーション システムを導入)
 レッド・オーク・マーケティングは、2005年6月末、ヤマハ・マリーンと戦略的な提携を結んだ。ヤマハとボートディーラーの1対1のコミュニケーションや、ボートディーラーとボート所有者の1対1のコミュニケーションを密にすることが目的である。
 レッド・オーク・マーケティングのEメール・マーケティング・ソリューションを採用することで、ヤマハとディーラー及びディーラーと顧客の間で、双方向のコミュニケーションを安価で容易に実現することで、サービスの向上を目指す。
 ヤマハはEメールを活用することで、ディーラー市場調査を実施したり、販売促進イベントの情報を配信したり、その他の重要な連絡事項を密に取り合うことを実現する。
 
(PWC、カワサキのイメージ戦略)
 ジェットスキーの登録商標で有名となり、一時は、PWCの代名詞的存在だったカワサキだが、ここ何年かはBRPとヤマハに追い越され、同市場3位に転落した。それについて、米国カワサキの新任トップであるトム・オービー(Tom Orbe)が「ブランド力」を主因と位置づけて、カワサキの課題を分析、ディーラーニュース(Dealernews)誌(2005年2月)がその詳細を次のように報告している。同氏はインフィニティからカワサキに引き抜かれてきた人物である。
 コークやフェラーリ、ボーイング、マイクロソフトという名前を聞いたとき、消費者は何を連想するか。まぎれもなく、炭酸飲料水であり、スーパーカーであり、航空機であり、そしてソフトウェアである。つまり、社名と製品が消費者の間で直結している。製品を売ることについて最も重要な要素の1つである、ブランドの浸透という面でそういった企業は成功していると言える。
 ところが、多業種多業界に製品を出荷するホンダやカワサキ、ヤマハ、スズキは、自分たちが行っている幅広いビジネスを象徴させる印象と自社製品群を消費者間にどのように植え付けることができるのか。
 例えば、米国カワサキの新任トップは、社員らに「カワサキと言えば君たちにとって何を意味するか。」と聞いたところ、聞いた人数だけのさまざまな答えが返ってきた。つまり、確立されたブランドが浸透していないことを裏付ける結果になったのだ。「自分で自分が何を意味するのか分からなければ、消費者に何をどうやって売れば良いのか分かるはずがない。」と、同氏は語った。
 カワサキは70年代〜80年代にかけて、「Let the Good Times Roll」というスローガンの広告キャンペーンを展開し、数々の高性能オートバイを立て続けに発表した。同社はさらに、PWC市場の開拓者でもあり、ATVでも市場2位の地位を築いた。その間、著名レーサーと契約したり、アマチュアATVレースを協賛し、草の根的活動で知名度も業績も大幅に上昇させた。
 しかし、2003年までに同社の勢いにかげりが出てきた。各分野で市場シェアも下降した。そこで、オービーは、各部門や各グループ会社から20人を集め、OEMのブランドイメージを精査する集団を編成した。それら20人の中には重役もいれば中間管理職もいる。各ディーラーも、地区(district)及び地域(regional)のカワサキ販売統括責任者と協議した。
 この集団は、種々の情報や意見を持ち寄り、カワサキの歴史と性格、消費者にどのような価値と恩恵を提供しているか、そしてそれらをどのように提供しているかについて話し合った。それだけでなく、ブランド力に関する調査も外部委託した。
 その結果、競争力という観点からみると、消費者の間でカワサキの地位は底辺にあった。その点、ホンダは「技術革新や斬新さ、賢さ、対応の素早さ、総合的競争力が高い。」と、一般から見られていることが分かった。スズキは「手頃な価格」という決定的印象が浸透している。しかし、カワサキにはこれといった印象がない。過去には、カワサキというブランドが確固たるブランド力を堅持できた時代もあったが、近年では、消費者の心の中にカワサキは特別な印象ではなくなっている。
 そこで、同氏は、新たなスローガンとして「The Leading Edge of Power and Performance」を掲げ、「カワサキは過去に革新的技術で斬新な製品を世に送り出してきた実績を持っている。」、「それがカワサキというブランドであり、それを消費者にも従業員にも広く認識してもらいたい。」、「カワサキの製品を手に入れるとワクワクするという印象及び性質をカワサキというブランドに埋め込みたい。」と同氏は語る。
 それを実現させる具体策として同氏はまず、すべての分野ですべてを試みるのではなく、同社が先導者になれる分野に絞って新たなブランディング・キャンペーンを展開することを掲げている。一貫性のある広告戦略がその主軸になる。そのために同社はまず、見た目と中身が、ある特定の雰囲気や路線で統一された広告群を制作する。それと同時に、それらの広告が部門ごとの特性と釣り合っていなければならない。2004年末に始まった広告キャンペーンは、そういった意味で大枠でのカワサキ・ブランドを的確に提示できた。
 カワサキの製品は、競合製品と比べて安いわけではないため、ちょっと高めの代金を払ってまでカワサキ製品を買ってもらえる付加価値を認めてもらわなければどうにもならない。部門ごとに一貫性のある広告群を長期にわたって展開することで、ディーラーの間でもカワサキ・ブランドが何たるかが浸透するし、カワサキが狙っている「高額ブランド」から「大望のあるブランド」への生まれ変わりというメッセージも、ディーラーだけでなく消費者の間にも浸透する。そしてその広告内容を裏切らない限り、付加価値が次第と高まっていくというものである。
 ブランド力の強化とイメージ広告はカワサキの任務であり、価格広告はディーラーの役目となるだろう。
 
(NMMA、商習慣に関するボートメーカーとボートディーラーの契約制度を検討)
 NMMAの特別作業部会は2005年5月、ボートメーカーとボートディーラーがどのようにビジネスを行うべきかに関するガイドラインを明文化する方針を固めた。ディーラー側は過去50年間、そういった書面によるガイドラインの必要性をずっと主張してきた。これまで、メーカーとディーラーの間ではメーカー側が主導権を握っており、ディーラー側の立場はそれほど強いとは言えなかった。しかし、地位向上を模索するディーラー側の長年の運動が、目に見える形として初めて具体化されることになりそうである。
 2005年5月31日付けボーティング・インダストリーによると、同ガイドラインでは、幅広い分野における業務上の取決めを契約書の中に盛り込むことが約束される。具体的には、製品保証、製品所有権の継承及び移行、取扱地域の範囲、従来商習慣の打切り手続き、そして、財務情報の共有が含まれる。
 契約は3年間で、メーカー側がパフォーマンス査定項目を指定し、3年後にメーカーとディーラーの双方が契約内容の履行実態や公平性、妥当性、業績を精査し、新たな契約内容を検討する。精査の結果、新たな内容で合意に至らない場合は、最初の契約内容が自動的に適用される仕組みである。
 パフォーマンス査定項目には、市場シェアをはじめ、認定ディーラー・プログラム、新ボート購入、トレードイン(消費者が所有ボートを下取りしてもらい、その価値を購入しようとしているボート価格に充当するという購入方法)のためのクレジットライン(信用取引の上限額)、マーケティング活動等が含まれる。
 現在、ガイドラインの実施に向けて、NMMAの会員メーカー上位100社(米市場で販売されるボートの98%を製造)を同計画に賛同させるべく調整している。そして、2006年10月1日までに、同計画に関する参加各社からの報告書をまとめて検討する。


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