8.11 港湾設備の合理化
シャトル・フェリー等の旅客輸送の高速化と運航の効率化に関しては、係船作業と停泊時間の短縮が重要となるため、離着桟作業と効率化、安全化する自動係船装置オートムーアリング・システムが注目される。
オートムーアリング・システムは、係船作業における船上の乗員、及び地上作業員の負傷を皆無にするものとして、高速船運航の安全性向上を目的としたEUプロジェクトTOHPICでも利用が推奨されている。
また、1回の着桟、離桟時にそれぞれ平均8分ずつの所要時間短縮が可能で、船体へのダメージも少ない。初期設備投資費用は高価であるが、TOHPICプロジェクトでは、地上作業員の削減、運航の効率化により、3年以内に初期コストは回収できるとしている。
EUでは、将来的な超高速貨物コンテナ輸送を視野に入れた研究開発プロジェクト「INTEGRATION」を実施している。現時点での成果は、コンテナその他貨物のRORO船への搬入・搬出を大幅に合理化するAGV(Automatic Guided Vehicle)装置の開発、AGV装置に適したRORO及びROPAX船の設計等である。
AGV装置は、スウェーデンTTS Ships Equipment及びDanaher Motionが開発した「スマート」な荷役装置で、船上、ターミナル両方で使用でき、コンテナを持ち上げ、指定の場所に置くことができる。AGVは高度に自動化されており、特別な電動カセット上のコンテナを持ち上げてRORO船のガレージ・デッキに運ぶ際に、ターミナルやドックの荷役担当員や通常の荷役設備が不要となる。AGVはリモート・コントロールで、レーザーまたは光ファイバー、またはその両方で駆動される。
同システムは1時間当たり500TEUという高速の貨物取扱い能力を持ち、貨物の均一化、搬入・搬出所要時間の短縮、バースの待ち時間の短縮という海上輸送効率化に寄与するものである。
INTEGRAT10Nプロジェクトで設計された複数のRORO船の例は、自動化された荷役装置を使用するという共通前提のもと、将来的な超高速貨物船によるコンテナ輸送も想定し、速度10〜55ノット、積載能力80〜1,500TEUという多様なもので、全ターミナルと航路の要求を満たしている。
8.12 今後の欧州における高速船・舶用機器市場の動向
現在欧州で運航されている高速旅客船・貨客船は、オーストラリアまたはノルウェーで建造されたディーゼル・エンジン駆動ウォータージェット推進のカタマラン船型が圧倒的に多い。主要舶用機器に関しては、造船所との関係が非常に強く、納入実績の多い欧米メーカーが独占している。
特に、オーストラリアの2大高速船造船所では、発注主がないまま新造船を投機建造する場合が多く、船主やユーザーの好みや希望は必ずしも反映されず、同じメーカーの機器を一括購入し、搭載したシリーズ船が、「既製品」として建造されることがあり、特定メーカーの立場を一段と強化している。
このような寡占状態では、デザイン、性能、価格、サービス面で革新的な製品を提供し、かつ船主の特別な強い要望がない限り、これまで搭載実績のないメーカーの高速船市場への新規参入は困難であると考えられる。
一方、欧州では、EUが主導し、国境を越え、官民学共同で高速船の運航効率向上、安全性向上、環境保全、人間工学とヒューマン・エレメントの考慮、規制動向等、様々な角度から、新たな高速船デザインと、陸上支援も含めた実用的な関連システムの技術研究・開発を行っている。欧州舶用機器メーカーは、このようなプロジェクトに参加し、将来的な技術や需要の把握に努めている。
また、高速船運航に実績のある船主、ユーザー側からも、既製品ではない高速船への要望が増えつつある。欧州船主にとっては、使い慣れた欧州仕様の製品で、信頼性が高く、地元で迅速なサービスを受けられることも、舶用機器を選ぶ際の重要な要素である。
さらに、欧州では、船速の高速化だけではなく、係船作業、荷役作業の時間短縮により、全体的な運航の効率化、高速化と同時に環境負荷の軽減を図ろうとする動きもある。
このように、今後新たな船型、推進装置の開発、規制動向、または高速化への新たな概念やニーズ等から、高速船市場は多様化し、それに対応する新たな航海機器やシステムが求められると予想される。
ACV |
Air Cushion Vehicle |
エアクッション船 |
AIS |
Automatic Identification System |
船舶自動識別装置 |
ARPA |
Automated Radar Plotting Aid |
自動衝突予防援助装置 |
ATA |
Automatic Tracking Aid |
オートプロッター |
CFD |
Computational Fluid Dynamics |
数値(計算)流体力学 |
CODAG |
Combined Diesel And Gas Turbine |
ディーゼル・ガス・タービン複合機 |
COG |
Course Over Ground |
対地針路 |
COLREG |
Convention on the International Regulations for Preventing Collisions at Sea |
海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約 |
CRT |
Cathode Ray Tube |
ブラウン管 |
DGPS |
Differential Global Positioning System |
ディファレンシャルGPS |
DPS |
Dynamic Positioning System |
自動位置保持システム |
DSC |
Dynamically Supported Craft |
水中翼船、ACV等の高速船 |
DSC Code |
Code of Safety for Dynamically Supported Craft |
DSCコード |
EMEC |
European Maritime Equipment Council |
欧州舶用機器会議 |
ENC |
Electronic Navigation Chart |
電子海図 |
EPA |
Electronic Plotting Aid |
電子プロッター |
EPIRB |
Emergency Position Indicating Radio Beacon |
衛星非常用位置指示無線標識 |
EU |
European Union |
欧州連合 |
FMEA |
|
故障モード・影響解析 |
FP |
Framework Programme |
EUフレームワーク・プログラム |
GIS |
Geographical Information System |
地理情報システム |
GMDSS |
Global Maritime Distress and Safety System |
海上における遭難及び安全に関する世界的な制度 |
GNSS |
Global Navigation Satellite System |
全世界的衛星航法装置 |
GPS |
Global Positioning System |
船位測定装置 |
HSC |
High-Speed Craft |
HSCコードに適応する高速船 |
HSC Code |
International Code of Safety of High Speed Craft |
HSCコード |
IACS |
International Association of Classification Societies |
国際船級協会 |
IBS |
Integrated Bridge System |
統合船橋システム |
IC-ENC |
International Centre for Electronic Navigation Chart |
国際電子海図センター |
IEC |
International Electrotechnical Commission |
国際電気標準会議 |
IHO |
International Hydrographic Office |
国際水路機関 |
ILO |
International Labour Organisation |
国際労働機関 |
IMO |
International Maritime Organisation |
国際海事機関 |
IMPA |
International Marine Pilots Association |
国際パイロット協会 |
INS |
Integrated Navigation System |
統合航法システム |
ISM Code |
International Safety Management Code |
国際安全管理規約 |
ISO |
International Organization for Standardization |
国際標準化機構 |
ISPS Code |
International Ship and Port Security Code |
船舶・港湾施設保安規約 |
LORAN-C |
LOng-RAnge Navigation C |
地上無線航法装置(長波) |
MARPOL |
International Convention for the Prevention of Pollution from Ships |
海洋汚染防止条約 |
MED |
Marine Equipment Directive |
欧州航海機器指令 |
MEPC |
Marine Environment Protection Committee |
海洋環境保護委員会 |
MKD |
Minimum Keyboard Display |
AISミニマム・キーボード・ディスプ |
MSC |
Maritime Safety Committee |
IMO海上安全委員会 |
NAV |
IMO Sub-Committee on Safety of Navigation |
IMO航海安全小委員会 |
OECD |
Organization for Economic Cooperation and Development |
経済協力開発機構 |
RCDS |
Raster Chart Display System |
ラスターチャート表示システム |
SOG |
Speed Over Ground |
対地速度 |
SOLAS |
International Convention for the Safety of Life at Sea |
IMO海上人命安全条約 |
STDMA |
Self-organising Time-Division Multiple Access |
自律同期型TDM(AISデータ通信システム) |
TFT |
Thin Film Transistor |
薄膜トランジスター |
THD |
Transmitting Heading Device |
船首方位伝達装置 |
TMHD |
Transmitting Magnetic Heading Device |
磁気船首方位伝達装置 |
VDR |
Voyage Data Recorder |
航海データ記録装置 |
VTS |
Vessel Traffic Services |
船舶通航業務 |
|
Germanischer Lloyd(GL), Germany
LMG Marin, Norway
Kongberg Maritime, Norway
SAM Electronics, Germany
Deltamarin, Finland
Solar Solve Marine, UK
Scandlines, Denmark
Condor Ferries, UK
Lineas Fred. OIsen, Spain
FRS, Germany
(順不同)
●「東南アジア・オセアニア地域における旅客船参入手法に関する調査」シップ・アンド・オーシャン財団、2003年
●「米国における高速船開発等の実態調査」シップ・アンド・オーシャン財団、2002年
●「欧州における航海機器のシステム化の現状と動向に関する調査」シップ・アンド・オーシャン財団、2004年
●「欧州における電気推進船舶に関する動向調査」シップ・アンド・オーシャン財団、2005年
●ECDIS on High Speed Vessels Compulsory in Norway, Primar Stavanger International Official ENC Service, June 2005
●HSV Accident Reports, The Royal Institution of Naval Architects
●Maritime Supplier Online
●GUIDANCE FOR ENHANCING THE OPERATIONAL SAFETY OF DOMESTIC HIGH-SPEED VESSELS, US Coast Guard, 2001
●Environmental Policy, The Swedish Shipowners' Association, 2002
●IMO News, IMO
●White Paper-European transport policy for 2010: time to decide, European Commission, 2001
●Waterway Management and the Operation of High-Speed Ferries, USCG, 2001
●International regulations for high-speed craft-an overview, Heike Hoppe, IMO, 2005
●Benchijigua Express Auto Express 127, Austal, 2005
●Conference Papers, 2nd Fast Ferry Information Conference, September 2005
●各社資料、ホームページ
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