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2.6 アイルランド
(アイルランド経済概況)
 アイルランドは人口400万人弱(2003年)で、拡大EUの中でも最も人口の少ない国のひとつである。アイルランド経済は1990年代に高成長を遂げ、2006年の国民一人当たりGDPは、EU25カ国の平均よりも50%近く高い水準に達すると予測されている。また、1990年代には「ケルティック・タイガー」といわれたアイルランドの実質経済成長率は、2001年以降低下傾向にあるが、2006年も依然として5%というEU平均の倍近くの成長率が予測されている。さらに、EU全体の低い雇用成長率とは対照的に、1990年代のアイルランドの雇用成長率は高い伸びを示した。近年の成長率は鈍化しているが、それでもなおEU平均よりも大幅に高い水準を保っている。(表2-6-1)
 
表2-6-1A  アイルランドの国民1人当たりのGDP比較
(1995〜2006年)
'95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06
EU25 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
EU15 111.1 110.8 110.5 110.4 110.2 110.1 110.2 110.0 109.7 109.3 109.0 108.8
アイルランド 98.6 102.6 113.6 118.1 123.1 127.2 130.2 134.4 135.7 140.7 142.8 144.6
米国 152.5 153.7 154.6 154.9 155.8 154.1 151.1 150.9 152.4 154.8 155.9 155.6
日本 123.7 125.5 124.3 119.3 116.1 115.0 113.3 111.7 113.4 115.8 114.9 114.4
出典:Eurostat、各年のEU25の国民1人当りのGDPを100とした。
 
 
表2-6-1B アイルランドの経済成長率比較(1995〜2006年)
'95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06
EU25 : 1.8 2.7 3.0 2.9 3.7 1.8 1.1 1.1 2.4 2.0 2.3
EU15 2.6 1.7 2.6 3.0 2.9 3.7 1.7 1.0 1.0 2.3 1.9 2.2
アイルランド 9.8 8.1 10.8 8.5 10.7 9.2 6.2 6.1 4.4 4.5 4.9 5.1
米国 2.5 3.7 4.5 4.2 4.4 3.7 0.8 1.6 2.7 4.2 3.6 3.0
日本 2.0 3.4 1.8 -1.0 -0.1 2.4 0.2 -0.3 1.4 2.7 1.1 1.7
出典:Eurostat
 
表2-6-1C  アイルランドの雇用成長率
(1993〜2004年、前年比%)
'93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04
EU25 : : : : 1.0 1.7 1.2 1.5 1.3 0.4 0.3 0.6
EU15 -1.6 -0.1 0.8 0.5 0.9 1.8 1.8 2.0 1.4 0.6 0.3 0.7
アイルランド 1.4 3.2 4.4 3.6 5.6 8.6 6.3 4.6 3.0 1.8 2.0 3.2
米国 1.8 2.3 1.9 1.7 2.2 2.4 2.2 2.2 -0.1 -0.8 0.0 1.1
日本 0.4 0.1 0.1 0.4 1.0 -0.7 -0.8 -0.1 -0.6 -1.4 -0.3 0.2
出典:Eurostat
 
(アイルランド海事産業)
 欧州におけるアイルランドの造船シェアはごくわずかであり、また、アイルランドの海事セクターにはグローバル市場に影響力を持つ企業は存在せず、大きな市場シェアを持つ舶用企業もない。同国には国防セクターもないため、今後の成長の可能性があるのは、舶用技術分野における中小企業及びニッチ企業のみであると考えられる。
 
2.7 スペイン
(スペイン経済概況)
 人口4,150万人(2003年)のスペインは、拡大EUの中で最も大きい国のひとつである。国民一人当たりGDPは過去10年間に着実に上昇し、2006年にはEU25カ国平均にほぼ匹敵すると予測されている。スペインの経済成長率は、近年EU平均よりも高い水準を保っており、2006年もEU平均よりも高い2.7%と予測されている。スペインの雇用成長率は、2000年に7.4%を記録し、その後低下したが、引き続きEU平均を大きく上回っている。(表2-7-7)
 
表2-7-1A スペインの国民1人当りのGDP比較(1995〜2006年)
'95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06
EU25 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
EU15 111.1 110.8 110.5 110.4 110.2 110.1 110.2 110.0 109.7 109.3 109.0 108.8
スペイン 87.0 87.3 87.3 88.6 91.4 93.1 94.1 96.2 98.9 98.1 98.4 98.2
米国 152.5 153.7 154.6 154.9 155.8 154.1 151.1 150.9 152.4 154.8 155.9 155.6
日本 123.7 125.5 124.3 119.3 116.1 115.0 113.3 111.7 113.4 115.8 114.9 114.4
出典:Eurostat、各年のEU25の国民1人当りのGDPを100とした。
 
表2-7-1B スペインの経済成長率比較(1995〜2006年)
'95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06
EU25 : 1.8 2.7 3.0 2.9 3.7 1.8 1.1 1.1 2.4 2.0 2.3
EU15 2.6 1.7 2.6 3.0 2.9 3.7 1.7 1.0 1.0 2.3 1.9 2.2
スペイン 2.8 2.4 4.0 4.3 4.2 4.4 3.5 2.7 2.9 3.1 2.7 2.7
米国 2.5 3.7 4.5 4.2 4.4 3.7 0.8 1.6 2.7 4.2 3.6 3.0
日本 2.0 3.4 1.8 -1.0 -0.1 2.4 0.2 -0.3 1.4 2.7 1.1 1.7
出典:Eurostat
 
表2-7-1C  スペインの雇用成長率比較
(1993〜2004年、前年比%)
'93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04
EU25 : : : : 1.0 1.7 1.2 1.5 1.3 0.4 0.3 0.6
EU15 -1.6 -0.1 0.8 0.5 0.9 1.8 1.8 2.0 1.4 0.6 0.3 0.7
スペイン -2.8 -0.5 1.9 1.3 2.9 3.9 3.5 7.9 3.2 2.4 2.5 2.6
米国 1.8 2.3 1.9 1.7 2.2 2.4 2.2 2.2 -0.1 -0.8 0.0 1.1
日本 0.4 0.1 0.1 0.4 1.0 -0.7 -0.8 -0.1 -0.6 -1.4 -0.3 0.2
出典:Eurostat
 
(スペイン造船業)
 EUの行政機関である欧州委員会は、2005年5月に実施されたスペイン造船業再編を認可したが、国有造船グループIZAR所有の軍事造船所を引き継いで新たに設立された公営造船グループ会社Navantiaによる商船建造には数々の制約が課される結果となった。軍用造船所再編に関しては、EU条約により、軍需産業に関連する国家の安全保障利権を保護するための例外が設けられている。
 
 欧州委員会は、これにより、スペインの安全保障体制を守りながら、商船建造・修繕には競争体制を導入することができるとしている。
 
 2004年末まで、IZARはスペイン国内に11ヵ所の造船所を持つ同国最大の造船所で、10,700人を雇用していた。同社売上げの半分近くは艦艇建造であった。
 
 しかし、2004年に欧州委員会は、IZARに対する8億6,400万ユーロの国家補助はEU法に反するとの決定を下した。スペインは、国家に不可欠な軍需産業の保護を認めたEU条約第296条に訴え、軍用造船部門の破綻を余儀なくされたIZARから新公営企業Navantiaに移管した。
 
 欧州委員会との交渉の結果、スペインは第296条適用に関して、今後10年間、以下の項目を遵守することに合意した。
●Navantiaの商船建造による売上げの3年間平均は、売上げ全体の20%を超えない。
●Navantiaの商船部門は市場原理に従って活動し、商船部門と艦艇部門の内部会計は分離する。新造受注した商船に関しては、受注毎に欧州委員会にコスト試算を提出し、修繕部門に関しては、毎年情報を提供する。
●Navantiaの商船部門には国家補助を行わない。しかし、輸出クレジットと開発助成は、造船国家補助規定及びOECDの規定内で許可する。
●Navantiaの従業員は5,562人を超えない。
 
 IZARは2005年4月1日に破綻し、ヒホン等3造船所とマニセスのエンジンエ場売却が計画されたが、欧州委員会は、これら資産の売却が公正な市場価格によって行われ、買い手がIZARへの不正な補助金のつけを肩代わりすることのないよう指示した。
 
 一方、スペイン国内の民営中小造船所は生産効率が高く、タグボート、オフショア船、フェリー、コンテナ船の新造船受注で成功を収めている。最近、大型船を建造するアジア地域の造船所が受注に対応しきれないこともあり、スペインの民営造船所は、小型船舶を競争力のある価格で受注し、短期間で建造することを強みとしている。また、欧州船主は、輸送コストと検査コストを削減するために、小型船舶を欧州内で建造することに興味を示している。
 
 スペインの中小造船所には正規従業員は少なく、国内の造船関連企業への業務委託を多用している。スペインの産業アナリストは、同国の船舶建造コストの約70%がそのような関連企業からの舶用機器とシステムのコストであると見ている。
 
 国営造船所IZARの破綻は、スペインの舶用企業にも影響を与えたが、同国最大の民営造船所Hijos de J Barreras SA(以下「HJB社」)にとっては恩恵もある。しかし、Navantiaの設立は、商船建造を主体とするHJB社にとって競争の激化を意味する。
 
 現在のHJB社の受注残は、フランスTransmanche向けのフェリー2隻、スペイン領カナリア諸島Naviera Armas向けフェリー「Volcan de Timanfaya」、及びスペインNaviera Transatlantica向けコンテナ船2隻(2007年3月、9月竣工予定)である。
 
 スペインには造船業への財政援助メカニズムがあるが、造船所はEUによる商船建造への助成金廃止の影響を懸念している。競争力維持のためには、造船所は更なる労働生産性の向上と労働コストの削減を実施してゆく必要がある。その例としては、スペインのNaval Gijon造船所が、Komromsky Group向けのコンテナ船4隻の建造に際し、従業員を173人から75人に削減するために早期退職を募ったことが挙げられる。短期的には造船所同士の合併は予定されていないが、各造船所はこのようなコスト削減策を採らざるを得ない状況にあると考えられる。


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