日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 教育 > 成果物情報

千葉県立関宿城博物館 平成17年度企画展 「高瀬船物語」 図録

 事業名 海と船の企画展
 団体名 関東海事広報協会 注目度注目度5


三 高瀬船に秘められた船大工の知恵
 高瀬船は一艘も現存しているものがなく、また高瀬船を建造した船大工はもういない。今となっては、高瀬船の構造や特徴を学ぶ手段としては、唯一、関連資料の解析のみとなってしまった。解析にあたり、部分名称が手がかりになるが、高瀬船の部分名称にはわかりづらいものもある。図版5は各種資料にある高瀬船の部分名称である。時代や水域により、各部の呼称には、多少の違いがあるが、それらを混在させた。原図は『写真集利根川高瀬船』(3)にある部分名称図である。この原図は、部分名称図の解説もされており、図形も高瀬船の形状が良くわかるものである。しかし、隠れて見えない部分もあるため、一部加筆修正し図版5を作成させていただいた。
 
図版5 船体部分名称図
 
図版6 高瀬船と五大力船の板図比較・・・船底の反り方に注意
 
(一)船底の反りと船首形状
 高瀬船は利根川水系の川船であり、五大力船は東京湾の船であるが、ともに関東の水域を代表する大型荷船として有名である。この二つの船板図を比較したものが図版6である。
 高瀬船は、浅い水域を航行できるよう、その船首や船底形状に工夫があることを、渡辺貢二は『利根川高瀬船』(4)や『写真集利根川高瀬船』で述べている。図版6からは、船首側の船底が緩やかなカーブを描いて反りあがり、船首の表立板(おもてたていた)が、船底をそのまま延長するかのように、僅かな角度差で接合されていることがわかる。船尾側の船底も船首側と同様に反っている。五大力船の場合は、船首側の船底には反りが見られず、水押(みよし)と急角度で接合されている。
 図版7は、『利根川・江戸川水系の川船調査報告書(一)』(5)にある高瀬船の板図の立板と船底形状をまとめたものである。
 船の大小や、建造地域に関わらず、いずれの船も船首尾の反り(ひあがり)は、類似しており、表立板の角度もほぼ同一であることが読みとれる。
 これらの板図にある高瀬船の船首側船底の反りは一四度、表立板は二七度であり、その接合部での角度差は一三度である。表立板が船底の延長部のようにスムーズに延びている。それに対して、五大力船の船首側船底の反りはほぼゼロであり、水押との接合角度も三五度と大きい。
 
図版7 立板と船底の反り
 
 五大力船の船首は本水押であり、巾が狭く鋭く尖った船首で、波を切り裂きながら進みやすい船型である。それに対し高瀬船は、二枚立板の船首であり、巾が広く水を切り裂くことはできないが、水に乗りやすい船型であることがわかる。
 高瀬船の船首形状には二枚立板のものが多い。この二枚立板の船首形状は利根川特有のものと考えられている。
 この二枚立板の船は、中流域にも存在したが、現在では、利根川下流域に多く残っている船である。佐原や潮来の観光船などは、そのほとんどが二枚立板の船首となっている。
 利根川の下流域では、水押造りの船と二枚立板造りの船が混在している。水押造りの船は、「チョキ」または「漁船」、二枚立板造りの船は「サッパ」または「農船」と対比して呼ばれることがある。そして、チョキは水切りがよく速い船で、サッパは荷を多く積める安定した船としてとらえられているようだ。
 霞ヶ浦で二枚立板の大型網船と水押型の漁船の両方の船を持つ方からは、水押船は速度が速い。波のあるところでも使いやすい。しかし、荷を多く積むことができない。それに対し、船首巾の広い二枚立板の船は、多くの荷を積むことができる。それに安定性も良い。そのため、網船としては最適であると教わった。
 古文書には、これら二種類の船型がどのように記されているのだろうか。
 たとえば、堀江俊次「資料紹介 小見川藩領・言辞極印船関係資料」(6)中には、「天明二年寅より在船増減相改見申候処、近年不作殊ニ川筋浅瀬場所多川通諸入用多物入等在之、船持共困窮いたし船数減候、(中略)諸方船稼いたし候者川通浅瀬勝手通行宜敷船形チを造り船渡世いたし、近年銚子より惣而川筋河岸より房丁造流行ニ而船稼、浅瀬場之勝手船形チ、(中略)小見川船高四十九艘之内高瀬船株式拾三艘、船株拾三艘、ちょき船株拾三艘在之、右ちょき船形チの儀者近年造立無之候ニ付、(中略)右ちょき船を房丁造ニいたし候ハ(中略)右相叶候ハゝ追々新規船造立も有之候、(中略)小見川ちょき船之形ハ、近年一統川通流行之房丁造之形ニ御座候、依之小見川表ちょき船者江戸表ちょき船と船之形相違いたし(後略)」(天明八申十一月)とある。このちょき造りと房丁造りがどのような船型なのか、文中から確認することはできないが、『船鑑』(7)に描かれている「ちょき」と「房丁」(図版8)に対応するとすれば、ちょき船は水押造りの船首、房丁造りは二枚立板の船首をもつ船となる。
 この古文書には、「川筋に浅瀬が多くなってきた為に、ちょき船から、浅瀬対応のできる房丁造りに船型が変更されてきた」ということが記述されている。
 利根川下流域の船を扱う人達や古文書からは、高瀬船などの二枚立板造りの船は、(1)積載能力が高い、(2)浅瀬に適している、(3)耐波浪性が低い船であると考えられていることがわかる。
 しかし、これらの特徴は、一枚立板でも同じなのではないだろうか。
 では何故、高瀬船に二枚立板のものが多いのだろうか。一枚立板と二枚立板にはどのような効果の差があるのだろうか。
 二枚立板は、一枚立板より、いくらか波のショックをやわらげてくれるのだろと思われる。また、多少剛性も増すものと思われるが、それらの効果の程度はよくわからない。境町の川船大工さんからは、一枚立板を「平立」と呼び、流れの無い水域で使用する。二枚立板は「剣立」と呼び流れのあるところで使用すると教えられた。
 このことからは、一枚立板に比べれば、二枚立板が水切りが良いということが推測される。
 一般に船首部の巾の広い高瀬船のような船は耐波浪性が低いと考えられる。しかし、高瀬船の航行水域には、波立つことのある水域があり、それらの水域を航行するためには、耐波浪性も考えられていたはずである。どのような工夫がなされていたのだろうか。
 高瀬船は、川船には不釣合いなほど船首が高く反り上がっている。このように船首を高くすることで、端波浪性が増す可能性が考えられる。また、造船関連古文書には、かなりの船の舷側板に根棚があったことが記されている。この根棚を持つ船は二枚棚の船型となり、根棚を持たない一枚棚の船と比較して、耐波浪性が高いものと思われる。
 筆者は、九メートルほどの高瀬船の模型を作り、帆走実験を行った経験がある。また、高瀬船のような船底形状の船を製作し、地元のスピードレースで優勝したこともある。これらの経験から、この船は見た目よりも抵抗が少なく、積載能力の高い船であることが確認された。ただし、波のあるところでは、乗りやすい船ではないことも体験した。
 このように、底が緩やかなカーブを描いて反り上がり、二枚立板の船首が船底をそのまま延長したようにスムーズに接続して高く延びている船型は、浅瀬の多い利根川を航行しなければならない高瀬船にとって、もっとも合理的な船型であったといえるだろう。
 
図版8 『船鑑』にあるチョキとボウチョウ


前ページ 目次へ 次ページ





サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
518位
(31,179成果物中)

成果物アクセス数
19,361

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2019年6月8日

関連する他の成果物

1.千葉県立中央博物館 平成17年度企画展 「ワクワクたいけん2005 旅する地球の水」 ガイドブック
2.千葉県立中央博物館 平成17年度企画展 「ワクワクたいけん2005 旅する地球の水」 チラシ
3.千葉県立中央博物館分館 海の博物館 平成17年度収蔵資料展 「イッカク」 チラシ
4.千葉県立安房博物館 平成17年度 「海の日フェア」 チラシ
5.千葉県立安房博物館 平成17年度企画展 「描かれた海辺の風景」 図録
6.千葉県立安房博物館 平成17年度企画展 「描かれた海辺の風景」 チラシ
7.千葉県立関宿城博物館 平成17年度企画展 「高瀬船物語」 チラシ
8.団員募集活動マニュアル?魅力ある海洋少年団活動に向けて?
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から