13:30〜14:00 Noncommunicable Diseases
Dr. Gauden Galea
Regional Adviser, Noncommunicable Diseases
非感染症疾患Noncommunicable Diseases(NCD)とはいわゆる慢性疾患のことである。WHO西太平洋地域における死亡原因で最も多いのは虚血性心疾患や脳血管障害、癌などの慢性疾患である。アフリカでは、感染症疾患Communicable Diseases(CD)による死亡が全体の70%を超えるが、西太平洋地域においては、NCDがこれに値し、反対にCDによる死亡は15%にとどまる。死につながるリスクとしては、高血圧や喫煙、飲酒、糖尿病、高脂血症、肥満などが挙げられる。ここで注目すべきことは、中所得国の若者たちのNCDによる死亡が最近増加傾向にあることだ。その理由は、都市化である。食事や運動などの生活習慣の急激な変化が彼らに慢性疾患をもたらしているのだ。
各国政府はなかなかNCDに関心を向けようとしない。なぜなら、生活習慣は個人の責任であると考えているからだ。日本でも戦後、食事の欧米化や慢性的な運動不足による生活習慣の変化のため、慢性疾患が死亡原因の上位を占めるようになった。今、問題となっているのは、国でいうとrichでもpoorでもない中所得国、また首都のような大都会でも田舎の村でもない地方都市レベルの街で、生活習慣病の増加が顕著に見られることである。具体的な変化としては、若者が田舎から都市に働きに出てきて、昼食にお弁当を持参していたのが町の食堂で食べるようになったことや、徒歩がバイク通勤になったことが挙げられる。
8つのミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)の中で保健に関するものは4つあるが、それらは飢餓の撲滅、乳幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、感染症対策であり、世界の死亡原因の6割を占めるというNCDはこれに含まれない。政策決定者が慢性疾患に関心を寄せないのは大きな問題である。生活習慣病には国家政策やサーベイランス、個人の健康的なライフスタイル、臨床的な予防教育といったことを含めた、包括的な対応が必要である。具体例として、西太平洋地域の糖尿病に対するAction Planを挙げると、これには、発症を予防する1次予防、進行を遅らせ、合併症を防ぐ2次予防、国家的なヘルスシステムの強化という3つの目標がある。
Q. 各国の政府は、生活習慣は個人の責任といって、あまり関心を示さないとのことだが、どのように生活習慣病の重要性を教え、対策を講じてもらうのか。
A. 中所得国では、若者が生活習慣病の脅威にさらされている。政府には、若者の死亡により労働人口が減少することは経済力の低下につながることを説明する。また、芸能人を使って、一般の関心を集めることも一つの手だろう。政治家自身が生活習慣病にかかることも多く、自分のためにもNCDの診断や治療を向上させられるよう予算を割いたりするが、あまりにNCDに重点を置くと、CDに対する予算を圧迫してしまう。CDからNCDへの転換がまだ途上である中所得国における対策では、両者のバランスが重要である。
(文責:関谷)
14:00〜14:30 Stop TB
Dr. P. Van Maaren
Medical Officer, Stop TB and Leprosy Elimination
現在、結核患者数は有史以来最大である。2003年のデータによれば、全世界で毎年新たに900万人がかかり、200万人が死亡しており、西太平洋地域でも1日あたり1,000人もの人が死亡している。死亡者の98%が開発途上国からであるが、結核は開発途上国だけの病気ではない。自国日本でも患者数は10万人当たり25〜100人と中国、マレーシアに並んでいる。なぜ、結核はコントロールが難しいのか。その理由として、財政や人材の問題、不十分な健康サービス、そして、HIVや耐性菌の増加が挙げられる。結核対策として最も有効とされているのがDOTSであり、2005年までにDOTS 100%を目標としている。Stop TB Special Prgjectにより、private sectorを含めた病院の医師・看護師の意識の向上、財源の確保、罹患率の高い国の協力等により2000年からDOTS実施国が急増した。
結核とHIV/AIDSの合併は特に問題で、カンボジアや中国では結核とHIV/AIDSを担当するそれぞれの部署が協力し、HIV/AIDSプログラムと共同プロジェクトを行っている。
また、短期的目標としてDOTS 100%と十分な職員の確保、中期的目標としてDOTSの質の向上、private sectorでのDOTSの実施のほかHIVや耐性菌の克服、長期的目標として診断の質向上と薬やワクチンの開発を掲げている。
2000年の沖縄サミットで提案され、2001年のG8サミットで採択されたThe Global Fund to fight Aids, Tuberculosis and Malaria(GFATM)により、重点地域に定められた10カ国に2005年までの5年間で1億4,800万ドルが投じられた。
Q. BCGワクチンは有効か?
A. BCGワクチンは重症例は予防できるが、結核の感染自体は予防できないとされている。
BCGワクチン実施国は日本だけである。
15:00〜15:30 Communicable Disease Surveillance and Response
Dr. Hitoshi Oshitani
Regional Advisor, Communicable Disease Surveillance and Response
先生が自ら携ったSARS、鳥インフルエンザを中心としたお話だった。
1997年の香港鳥インフルエンザ、1998年の手足口病以降とくに大きな感染症問題はなかったが、2003年2月10日、おかしな肺炎が中国で流行しているとの報告がWHOに入った。中国政府と連絡を取るものの何も得られず、当時は鳥インフルエンザH5N1型、またはその他のインフルエンザではないかと考えられていた。しかし、3月に入り中国のCenters for Disease Control and Prevention(CDC)との会議や院内感染で自らが感染してしまったイタリア人調査員カルロ・ウルバーニからの情報により、そのおかしな肺炎はSARSであると断定され、3月12日WHOはGlobal Alertを発表した。同年7月5日に終止宣言が出るものの、中国政府の早期情報開示の必要性が求められた。
その6カ月後、2004年1月ハノイで鳥インフルエンザH5N1型が再発した。現在ではウイルス変異による人−人感染をきっかけとするpandemicがいつ起こってもおかしくない状況であり、pandemicの初期の兆候を見逃さず感染が小規模なcommunity内であるうちに撲滅することが必要である。そのためにもサーベイランスの向上が重要である。
Q. SARSのような得体の知れない感染症が起こった場合、対応策として重要なことは?
A. Basic Capacityが不足している開発途上国に、初期の段階でWHOが立ち入り調査できる環境を整えることが大切である。International Health Regulation(IHR)が改定され、2007年よりWHOが初期段階で立ち入り調査することが可能となった。
Q. 天然痘についての対策は?
A. 実験室からの発生は設備が十分に整っている現在では考えにくい。仮に、バイオテロのような事件が起こったとしても、ワクチンや制圧方針が整っているため対策は万全である。
Q. 日本の感染症に対する対策は十分か?
A. 日本では感染症を勉強する機会が不十分であり、院内感染や感染症への対策はまだまだ整っていない。
SARS対策の経験を語ってくださった押谷先生
15:30〜16:00 Leprosy Elimination
Dr. Sumana Barua
Medical Officer, Stop TB and Leprosy Elimination
先生は夜の懇親会準備のことを考えてWPROのLeprosy Elimination Programについて簡潔な講義をしてくださった。
現在、ハンセン病は1,400万人が完治し、MDTによって400万人の身体障害を防止できる。有病者数も1985年には540万人であったが、2003年には45.9万人まで減少し、初期罹患率も2001年から減少している。今後さらに、らい病を減らしていくために、リハビリテーションを含めたハンセン病の医療サービスの質の向上・維持、初期罹患者の早期発見、MDTによる早期治療の確立がLeprosy Elimination Programのstrategyである。そして、このstrategyを推進するためにWPRO参加国の支援と準備を求めるとともに2005年には3ヵ国での試験的実施を試みており、MonitoringやSupportingしながら2010年までにすべての国・地域でこのstrategyを普及させる計画が進行中である。 (文責:今井)
2)学生主催懇親会
WPROでの講義終了後、宿泊していたPavilion HotelにてWPRO職員の方々、フィリピン保健省の方々、フィリピン大学医学部の学生、KANLUNGANの子供たちをお招きしてフェロー参加者主催によるパーティーが開かれた。フェロー女性陣による日本舞踊、男性陣によるカポエイラ、有志によるヒップホップダンスと続き、フェロー全員によるマツケンサンバにて、KANLUNGANの子供たちを巻き込みつつ大いに盛り上がり、最後は「世界に一つだけの花」を子供たちと共に合唱し、私達の出し物を大成功に終えることができた。続いて、フィリピン大学医学部の学生による伝統的な踊りの美しさに会場は一時魅了され、続くKANLUNGANの子供たちの純粋な歌声には、誰もが心癒されていた。会場はいよいよヒートアップし、その後も興奮収まることなく各々がこの交流の場を十分に楽しんでいた。 (文責:筒井)
KANLUNGANの子供達と
マツケンサンバ
8月8日 今日の一言
岡田:WPROではSARSや鳥インフルエンザ、生活習慣病や予防接種など世界規模での対策に駆け回る人たちの話を聞くことができた。勤務医とはまた違う発想で動く世界。尾身先生の話も大変示唆に富んでいた。これからじっくり消化しよう。
金子:尾身先生のお話にただひたすら感動した。悩みもふっきれたかも!?懇親会は緊張したけど、すっごく盛り上がってよかった!
貞方:尾身先生のお話を伺えた。このお話を聞くためにフェローシップに参加したんだ!と感じるほどの強烈なメッセージだった。
関:WHOでの講義、尾身先生の自分の好きなことをやるのが一番というメッセージが心に響いた。夜の懇親会は皆で作り上げて大成功。連帯感。
飛永:尾身先生の話は、長年にわたってくすぶっていた国際協力に対する自分なりの疑問、自分の進路に対する不安と迷いを払拭してくれた。非常に示唆に富んだ内容だし、とにもかくにも、こんな超VIPの話を4時間ち聞けるなんて、何て幸せなんだろう。
福永:WHOの先生方の講義は内容盛り沢山で、特に尾身先生のお話には知的興奮を覚えました。自分の中で消化する時間がほしい。
今井:WHOでは多くの先生から今まで聞いたことのない貴重な話を聞けてとても良かった。現在とこれからを考える上で非常に参考になった。夜のパーティーは大成功!!子供たちと一緒に歌ったり、踊ったり。みんな一丸となれた。
関谷:WHOではたくさんの先生方の講義があり、とても充実していました。中でも楽しみにしていた尾身先生のお話を実際に聞き、どう人生を全うすべきか、深く考えさせられました。KANLUNGANの子どもたちと「世界に一つだけの花」を大合唱し、感動しました。懇親会は大盛況に終わり、達成感と満足感でいっぱいでした!
筒井:今までの人生の中で、最も充実した一日だった!・・・といったら言い過ぎかな?でも、こんなに多くの方々と出会え、こんなにいろいろな思いを感じた日なんて、そうそうあるものじゃないよね。子供たちと共に歌った「世界に一つだけの花」。絶対に忘れません。
船橋:尾身先生のお話は自らの考えを再確認する貴重な機会となった。長い講義中に船を漕いでしまうのではとの心配は全くの杞憂であり、9時間以上の講義の後、心地良い高揚感を感じた。
赤木:尾身先生の話は哲学的で、先生が強い意志を持って今までを生きてこられたその生き方がお話に凝縮されているように感じた。先生のようにまっすぐ強く生きていきたい。
城下:クムスタ:スペイン語のコモエスタから来ているらしい。前日のKANLUNGANの子達に多用してみたが、返答が聞き取れず会話終了。WHOでスペイン語が使えるがどうか聞いてみたが、マイナーらしい。フランス語でも勉強しようか。(訳 元気ですか?)
平野:尾身先生の話から、好きなことに誇りを持ってやっていこうと思った。4時間以上も本音で語っていただけて、すごく貴重な一日でした。
鈴木:踊った歌った大宴会!KANLUNGANの皆さんと肩を組んで1つになって、You are the one and only one!
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