7. まとめ
本研究は、防災と環境との両面を考慮した対策技術の開発を目的に、瀬戸内海大型水理模型を使って、「異常潮位、高潮の影響評価に関する実験」と「津波の影響評価に関する実験」を実施した。先ず、異常潮位、高潮の影響評価に関する実験では、瀬戸内海の主要な港湾において異常潮位や高潮による潮汐変化を測定して災害度合を検討した。次に、津波の影響評価に関する実験では、瀬戸内海の主要な港湾において津波の到達時間や最大高さなどの伝播特性を検討した。水理模型実験より得られた成果を以下に要約する。
■主要港湾における異常潮位時の潮汐測定と災害度合の解明実験より、
(1)異常潮位を発生させた直後に水位波形は乱れている。この異常潮位発生後の水位波形の乱れは、大阪湾奥部、広島湾奥部、別府湾、豊後水道の地点において少し大きい。
(2)異常潮位時における振幅変化の比率は、大阪湾から明石にかけて小さく、播磨灘の海域で大きくなっている。特に明石における値は小さく、また位相変化も大きい。
(3)豊後水道のみ水位偏差を与えた場合、瀬F内海の西側で水位レベルが高く、瀬戸内海全体で水位勾配がついている。このような水位勾配がつくと西側から東側へ貫くような海水の流れが発生し、海水の物質輸送能力や海水交換速度にも大きく影響することが推論される。
■高潮時の潮汐測定と災害度合の解明実験より、
(1)水理模型内に高潮を作り出す装置を考案し製作した。この装置は、台風の一部を模擬したものであり、観測領域内を送風機で吸い上げて負圧状態にできるものである。
(2)岸和田沖の地点では、高潮発生後水位が5cmほど上昇し、満潮時で水位40cm、干潮時で水位-30cmとなった。今回作製した装置では、現地で起こっている大きな高潮偏差を作り出すことはできないが、水理模型内に高潮を取り入れた研究例は殆どなく、高潮実験の可能性を示したことには意義があるものと考える。
■主要港湾における津波の到達時間や最大高さ等の伝播特性の解明実験より、
(1)津波波高の最大値の分布をみると、紀伊水道海域で約150〜400cm、大阪湾海域で約50〜95cm、播磨灘海域で約20〜60cm、備讃瀬戸海域で約15cm、燧灘海域で約5〜20cm、広島湾海域で約20〜40cm、伊予灘海域で約20〜30cm、周防灘海域で約20〜50cm、豊後水道海域で約90〜150cmとなっている。
(2)津波第1波目の波高最大値の時刻は、紀淡海峡、鳴門海峡で1時間後、大阪湾海域で約1〜2時間後、播磨灘海域で1.3〜2.3時間後、備讃瀬戸海域で2.1〜2.8時間後、燧灘海域で2.9〜3.8時間後、広島湾海域で2.9〜3.8時間後、伊予灘海域で1.1〜2.2時間後、周防灘海域で1.3〜3.4時間後、別府湾で1.7時間後、豊予海峡で1.1時間後となっている。
(3)津波の伝播特性は、水理模型実験と数値実験の境界条件(津波の規模等)が違うために定量的な評価はできないが、定性的にみると瀬戸内海全域で傾向は良く似ている。ただ津波高さの水理模型実験結果と数値実験結果の比は、内海側に入るほど小さくなっている。これは、瀬戸内海に点在する諸島群の影響があるのではないかと考える。
■津波波形の形態の違いによる津波伝播特性の解明実験より、
(1)水理模型内に津波を作り出す装置を考案し製作した。この装置は、潮汐再現中の任意の時刻に津波を作り出すことができるものである。
(2)津波波高をみると、一番大きいのが紀伊水道の測定地点であり、次いで大阪湾、播磨灘へと続き、内海に入るほど波高は減衰している。津波の影響は、備讃瀬戸の地点ではみられるものの、燧灘の靹、三島あたりではみられない。
(3)紀伊水道地点の御坊や橘では、約1潮汐周期間(約12時間)に渡って大きな津波が続いている。また御坊での津波波高は、満潮時に津波が襲来したことによって370cm強にもなっている。津波は潮汐の上に重なって大きくなっている。大阪湾地点での津波は、発生から約0.06〜0.13pd.(約50〜100分)後に到達し、洲本で約75cm、大阪で約60cmの津波波高となっている。大阪湾の地点においてもほぼ満潮時と重なるために、津波波高は潮汐がない場合に比べて大きくなっている。播磨灘地点での津波は、上げ潮期に第1波目が襲来するため、さほど大きな波高にはなっていない。
(4)満潮時に津波が襲来すると津波波高は大きくなり、被害も大きくなることが推論される。
謝辞:本研究は、日本財団の助成金を受けて行ったものである。
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