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9. 事故の予防
 事故は予想もしない時に起きます。しかし、ある程度は危険を予測し、予防することもできるものです。子どもを危険から守り、危険を避け、上手に身を処することができるように発達に応じた養育を行うことは、障害の有無に関わらず、主に母親の役割りです。常日頃から事故に対する正しい知識を得て、いざという時にあわてず対処できるように、他の育児書なども参考にしながら準備しておきます。
 事故の予防は障害の程度や発達に応じて異なります。首もすわらず、手足も自由に使うことができずにほとんど寝ている状態の子どもと、逆に動きが活発で、過剰に動き回る子どもの二つのグループに分けて説明します。
 
(1)寝ていることの多い子どもに起こりやすい事故
 最も起こりやすい事故は窒息事故です。タオルやガーゼのハンカチ、バスタオルなどが顔にかかり、鼻と口をふさぐようになっていても、自由に顔を動かしたり手で取ることが難しい子どもの場合は危険です。ビニール袋なども鼻の穴に張りつくように吸引したりする危険性があります。
 また、やわらかい布団にうつぶせに寝かせたり、すき間のある冊ベッドに顔をはさまれて窒息死した事故もありました。事故は睡眠中に起きることが多いものです。
 このような子どもの場合は、次のことに注意をします。
(1)敷蒲団は堅めにして敷布はピンと張る。
(2)熟睡中に一人置いての外出は、まわりの安全を確かめてから。
(3)ミルクを飲んだ後や吐きやすい子どもの場合は、顔を左右どちらかに向けて寝かせる。
(4)ガスや石油の暖房器具を使う時は、一酸化炭素は下に充満し、しかも子どものガス中毒は大人よりもはるかに影響を受けやすく悪化も早いので換気を忘れずに。
(5)エアコン冷風や扇風機の風を直接当てておくと、体温が奪われて生命の危険ともなりかねないので、風は一度壁に当てて室内に対流させ、間接的に自然に部屋全体が冷えるように工夫する。
(6)寝ている頭上にちょっとした地震の振動などで物が落下してこないかどうか、もう一度確かめる。
(7)カーテンの裾やガス管、電気コードのある側には寝かせない。
(8)ソファーに寝かせた時は目を離さないようにする。ソファーから落下して左片マヒになった子もいたので気をつける。
(9)何でも口に入れる子どもの場合は、枕の側に置く物に気配りする。
 
(2)動きが活発な子どもに起こりやすい事故
 発達が進み、寝返り、四つばいあるいはいざり移動、つかまり立ち、つたい歩きと行動半径が広がるにつれて事故の危険性は増してきます。
 知的な発達障害のある子どもの中には、まわりの状況や、足元に何があるかを確かめることなく歩き回ったり、落ち着きなく走り回っている子どもがいます。こたつや食卓の上の物を手で払いのけて落としたり、テーブルを持ち上げてひっくり返したり、入れたばかりのお茶をジャーッとこぼしたりしてお母さんを困らせています。石油ストーブをひっくり返してボヤ騒ぎを起こした子もいました。このようなことは、やって良いことか悪いことかがわからないこともあれば、あそびになっている場合、お母さんの注意を引きたくてやっている場合など、子どもにとっての理由はさまざまです。
 いずれにせよ、活発に動き回る子どもにとっては何でも興味の対象になります。子どもはあそびやイタズラをみつけだす天才でもあります。目ざとくみつけては突進し、高い所にある物はつま先立ちで全身を伸ばして取ります。ボタン、10円玉、何でも拾い上げ、素早く口に入れてしまいます。口紅をかじったり、テレビの後ろにまわってコードを引っぱり出したり、それはそれは目が離せません。
 このような子どもを危険な事故から守るには、大きく分けると二つの対応策があります。一つは、室内の環境をチェックして安全対策を整えることです。もう一つは、発達に応じて危険性ややって良いことと悪いことの区別を理解させていくことです。
 
(3)危険を避ける環境づくり
 家の中を見渡すと危険がいっぱいあります。子どもの動きに合わせて、四つ這いなら一緒に四つ這いをしながら、子どもと同じ目線の高さで、時々チェックすることも必要です。
 危険なものを見渡すと、一つは物の落下、もう一つは転落・転倒で、比較的大ケガのもとになります。次は、石油ストーブ、ガス・電気ストーブ、ポット、ヤカンなどで、火傷や火事の危険性のあるものです。お風呂も時には危険です。また、電気釜やトースター、レンジ、コーヒーメーカーなどからたれ下がっているコード類、コンセントなどの電気製品類も危険です。
 
危険な環境
 
 
 また、もう一つ忘れてならないものは、四つ這いをしながら、手当たり次第、手に触れた物を指でつまんで口に入れてしまうということです。
 上の図を見て、もう一度身のまわりの点検をして安全な環境づくりを心がけて下さい。
 
(4)安全性を身につける発達指導
 発達に応じて、危険なことややってはいけないことを上手に教えていくことで、徐々に安全性が身についていきます。どのくらい理解でき覚えているか、知的発達が“鍵”となります。併せて反射や移動能力の発達、手の機能の発達をみることも、安全性の養育には欠かせない大切なポイントです。
 
表1-13 危険性と安全性の発達
発達段階 危険性に関する移動能力・
手の機能・知的理解の発達
安全性・養育のポイント
1〜3ヵ月頃
・首がすわらない、移動ができない。
・顔の物をとれない、手で防げない。
・窒息に注意
・環境整備や大人の配慮による予防が第一
4ヵ月頃
・胸もとで、両手に持たされた物を何でも口に入れる。
・手に持たせる物に注意する。
5〜6ヵ月頃
・片手を伸ばして、目に入ったつり玩具などに手を伸ばす。
・落下物に気をつける。
・つり玩具に手が届かないよう高くつるす。
6〜10ヵ月頃
・寝返り、四つ這い、いざり、つかまって立ち上がる。
・つたい歩きなど、動きが活発になる。
・手の機能、指の機能が急激に発達し、手のひらや指でなんでもつまんで口に入れる。
・身を守るための上肢の保護伸展やバランス反応が未熟なため、転倒したら、頭や顔にけがをしやすい。
・「イケマセン」といわれても、いったんやめることはあっても理解できず、また手を出し、同じ失敗をくり返す。
・危ない物はかたづける。
・危険なものに近づいたら抱きあげたりして、気分転換をはかる。
・ストーブなどに手を入れたら「ダメ!」と叱る。
10〜11ヵ月頃
・動きは上記とほぼ変わりはないが、「ダメ」「いけません」の言葉を理解するようになる。
・本当に禁止したい時は真剣に口調強く叱る。
1歳前後
・何が危険かを覚えることができる。
・実際に触らせたりの体験をさせて、危険を体でわからせる。
・ある程度の危険は体験して、危険を避ける身のこなしや判断力を学ぶよい機会となる。禁止は少なくし、好奇心や意欲を尊重する。
3歳頃
・危ないということがことばの説明で具体的に理解できるようになる。
・危なくないあそび方を教える。理由を説明してやめさせる。
 
 この発達レベルを無視してやたらに叱ってみたり教えてみても効果は得られません。しつけや叱責がいきすぎると、子どもは「ダメ」という禁止の言葉に慣れてしまって、本当に指導をしなければならない時期に効果がなくなってしまいます。また、「いけません」を連発し、ある程度の危険の体験の機会や試行錯誤をしながら学ぶ学習の機会を取り上げてしまうと、他の好奇心や意欲まで奪ってしまうことにもなりかねません。いきすぎは禁物です。
 現在の発達段階を知って、次の段階には何ができるようになるのかといった予測ができると、その発達段階にあった適切な養育が可能となり、自信をもって安心して子育てができます。そこで、発達段階分けをして各レベルごとの危険性・安全性の養育のポイントを表1-13にまとめていますので、参考にして下さい。
 
10. 服薬
 家庭で、忘れず、間違わず服薬させていくことは大事なことです。特に、てんかん発作を合併している子どもや高熱を伴う病気のために抗生物質が処方されている子どもの場合は、時間なども管理して、医師の指示通りに飲ませるようにします。
 また、勝手に量を増減させたり、中止したりすることは禁物です。上手に服用させながら健康を維持していくためには、家庭でどのようなことに注意をし、工夫していったらよいかについて述べます。
 
[上手な服薬のさせ方]
(1)食事・睡眠のリズムを整える
 日常の服薬については、食事時間や眠る時間、起きる時間、昼寝の時間がずれたために飲ませることができなかった、あるいは回数が2回に減ってしまったなどが、特に重度障害児や年少児を育てているお母さんの心配ごととなっています。また、通院や買物などの外出、来客などによる生活リズムの乱れも服薬の乱れにつながることが少なくありません。あまり神経質になる必要はありませんが、食事や睡眠のリズムは服薬とも深い関係がありますから、なるべく整えて乱さないようにしたいものです。
(2)分包しておく
 朝、昼、夜と3回に分けて食後に飲むようになっていたり、抗生物質や抗けいれん剤の場合はさらに眠る前に飲むよう指示されていたり、4時間、6時間おきなどと時間が設定されていることもあります。いろいろな種類の薬を間違わずに素早く飲ませるためには、分包しておくと便利です。粉薬は飲ませにくいものですから、むせるなどという時は医師に相談して水薬にしてもらうこともできます。
(3)頭を前屈させて飲ませる
 あお向けに寝かせてもおすわりをさせて飲ませても、どちらでもやりやすいやり方で飲ませて下さい。ただし、頭を前屈させ、顎が胸に近づくように整えて、口を閉じさせて飲ませるようにします。そうすると、むせることなくゴクンと飲み込みやすくなります。むせたり吐き出したり、口から流れ出たりすると、薬の必要量がとれなくなりますから、このことには十分注意をする必要があります。
(4)服薬後の様子を観察する
 薬を飲んだら、効果はどうか、てんかん発作などの症状がまだおさまらないか、副作用はないかなどの観察をし、必要に応じて主治医に報告します。
(5)薬が切れる前に病院に行く
 カレンダーに、薬を取りに行く日をマークしておくと便利です。
 
 以上、家庭で、お母さんが安心して養育する上で、日常の健康管理や事故の予防がいかに大切であるかについて述べてきました。健康を保持し、安全性を育てるために必要な障害や発達の基礎知識、または健康をそこねた時に、ちょっとした応急手当てなどもできるように、具体的な方法や工夫の仕方などについて理解いただけたことと思います。


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