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(2)睡眠障害への対応
 お母さんたちが「睡眠」の問題として悩んでいることは、「夜泣きの問題」「昼夜転倒して夜中に起きて騒いだりあそんだりして、日中はトロトロと眠ってばかりいる」「夜なかなか寝てくれない」「夜尿の問題」「全身が緊張してつっぱったり痛がって熟睡できない」「てんかんの薬や睡眠剤が入った薬を飲んでいるため、ほとんど1日寝てばかりいる」などが主となっています。時には、「抱きぐせや寝ぐせの問題」「寝ぼけ、夜驚の問題」をあげられるお母さんもいます。
 これらの問題のほとんどは、特に障害を有していない一般の子どもにも出現するものです。発達レベルに応じた扱いをしてあげたり、日中の生活リズムを見直し、整えてあげることで、自然に解消されていく範囲内のものといえます。しかし、脳性マヒや知恵遅れがあると、なかなか解消されないで症状が長引いたり、固着(スタック)したり激しい出現の仕方であったりします。そうならないようにするにはどうしたらよいかを考えてみたいと思います。
 まず第一に、両親を始め他の家族の協力を得て、ゆったりと焦らず、しかし細かい気くばりのある育児をするという心構えが大事なのではないでしょうか。
 第二には、原因をよく確かめることです。
 第三には、予測される原因には早めに予防策を立て、現症に対しては原因に応じた適切な解決策を速やかに構じることです。
[原因と対応策]
(1)生理的原因・対応策
 空腹・オムツが汚れている、暑い、運動不足、などが代表的な生理的原因です。空腹については、4〜6ヵ月になると離乳食を始めますが、うまくいかなかったり母乳の出が悪いのに気づかなかったりといった一般的な原因が考えられます。一方で、口腔機能の発達が未熟であったり、障害があるために食べることそのものが難しく、必要な食事量が摂れないといった脳性マヒの子どもは(特に緊張性不随意運動型と診断されている子)は満腹感が得られないためになかなか寝つけず、夜中に目覚めることが多くなります。
 また同じタイプの脳性マヒの子どもは、発汗、発熱のコントロールをする自律神経の発達が未熟であったり異常を来している場合、室内環境や衣服の調節をまめに行わなければ眠りも浅くなってきます。
 オムツの汚れも原因の一つです。1日の尿量、排尿回数と関係のある膀胱機能の発達をあらかじめ知っていると参考になります。新生児の1日の尿量は50〜300mlで、18〜25回の排尿回数でオムツ交換も20回は必要となります。1歳代の乳幼児では300〜500ml/排尿回数は15〜20回、2歳の幼児では500〜700ml/10回、5歳になると600〜1000mlで、排尿回数も7回と減少してきます。膀胱機能の成熟は当然個人差がありますが、オムツ交換の大まかな目安として参考になります。
(2)生活のリズムの乱れが原因の場合
 特に、6〜8ヵ月の精神発達段階にある子の場合は、人見知りをしたり、お母さんと離れる不安が個人差はあるものの徐々に強くなります。この時期に来客や旅行などによって生活が変化すると、普段よりも昼間のストレスが残りやすく、睡眠のリズムを狂わせる原因となります。
 
図1-5 緊張性不随意運動型脳性マヒの仰臥位
 
図1-6 安定した横向き臥位のとらせ方
 
 神経質、過敏な性質の子、虚弱な子、知恵遅れや自閉的な子で状況判断が難しい子の場合は、配慮を細やかにしていきます。また、家族が夜型生活で遅くまでテレビがついていたり、談笑する声が高すぎたり、時には、遅く帰宅した父親に睡眠前にかまわれ過ぎたりして神経が高ぶって眠れなくなるということもあります。
 睡眠障害がある時は、生活環境の点検をしてみる必要があります。
(3)障害が重度で、自分で安定した臥位姿勢がとれない脳性マヒの子の場合
 人は誰でも、同じ姿勢で仰臥位など、一つの姿勢のまま眠っているということはありません。横向きに寝たり腹這いに寝たり、いろいろと知らず知らずのうちに向きを変えています。ところが、障害のために緊張したまま後ろに反り返っていたり、あお向きのままであったりする場合があります。そのような子どもは、リラックスした臥位姿勢を自分でとったり、向きを変えることができません。そういった場合は、時にはお母さんの手で向きを変えてあげて下さい。首のすわっていない子どもでも横向き臥位は心配ありませんし、グッスリ眠れるということもあります。
 ところが、この“横向き臥位”にさせることは、図1-5のように緊張のため後ろに弓なりに反っている子どもの場合は難しく、せっかく横向きにしてあげてもすぐにあお向きに戻ってしまいます。そこで、“横向き臥位”を保たせるコツを紹介しましょう。図1-6にように、下になっている方の下肢を後ろに引きます。次に上になっている側の下肢は、膝を曲げて前に出してあげ、図のようにたたんだバスタオルか枕などを左右の下肢の間にはさんであげると安定が良くなります。次に、下になった側の上肢は後ろに引かれがちになりますので、軽く肘で曲げてやや前方に出してあげ、多少大きめの枕に側頭部を載せます。その時、顎を胸につけるように前屈させます。
 また、上になっている側の上肢は、やはり軽く肘を曲げて十分に前方に出してあげて下さい。特に、上になっている側の肩が後ろに引かれ、外に開いていくと、そこから全身の緊張が高まり、後方に反り返るように寝返って、またすぐにあお向きになってしまい、横向き臥位を保持することが難しくなってきます。この横向き臥位の姿勢は全身の緊張を緩め、リラックスさせる姿勢でもありますのでお試し下さい。
 この“コツ”がわかって手慣れてくると、子ども自身もこの姿勢に次第に慣れてきて、好むようになってきます。
(4)病気が原因の場合
 発熱や気管支炎で咳がひどく出る場合、てんかん発作や種々の病気が誘因となって治った後などに睡眠障害や乱れを生じるということもしばしばあります。これを機に、添い寝や抱きグセ、その他いろいろの寝グセが生じることも少なくありません。夜泣きや夜驚などが続くこともあります。しかし、病気を治すことが先決ですから、それらのクセや睡眠障害を気にせず、子どもの欲することを満たしてあげる方が賢明といえます。結構、時期が来ると元の習慣に戻るものです。どっしり構えて、あまり神経質にならないように心がけましょう。
 なお、一般的な育児における「寝つきをよくするポイント」として、次の図を参考にして下さい。
 
寝つきをよくするポイント
朝は早めに起こして、午前中はなるべく外へ連れ出してあそばせる。昼寝は早めに、そしてあまり長くならないよう、時間をみはからって起こす。
 
月齢に応じて1日のうち一度は外であそばせたり散歩に連れ出すと、外気の刺激で食欲もすすみ、快い疲れで安眠できる。
 
夕食後はテレビを消して、赤ちゃんをあまり輿奮させないように。お母さんもこの時間に休息をとる。
 
夜は部屋の照明を暗くして、静かに眠る雰囲気をつくることが大切。早く寝かせようとイライラしたり、あせるのは禁物。


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