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3. 疲労き裂伝播シミュレーションシステム
3.1 シミュレーション手順
 疲労き裂伝播シミュレーションシステム(CP-System)は設計者がき裂進展解析を簡便に実施するために開発されたプログラムである。本研究では3次元板骨構造の複数疲労き裂同時進展に対応するべく、前述の手法を適用し、プログラムを改良した。シミュレーションの主な手順は以下の通りである(Fig. 6参照)。
(i)GUIを用いた専用プリプロセッサーにてき裂伝播領域、初期き裂形状、材料定数、溶接残留応力分布等を入力する。き裂が伝播しない周辺領域はスーパーエレメントとして取り込む。
(ii)各き裂伝播領域においてPaving法9)10)により四辺形有限要素が自動生成される。このとき、各領域は構造体の剛性マトリックスの成分に比べ十分大きな剛性係数を有する棒要素によって結合される。
(iii)解析解と有限要素解の重ね合わせ法11)によりき裂先端の応力場解析を実施し、き裂進展経路の決定に必要なパラメータを定める。
(iv)加藤の式12)によるき裂伝播則を適用し、各き裂の進展長を定め、(2)式のき裂進展経路に沿ってき裂を伸ばし、(ii)に戻る。
 
Fig. 6 Flowchart of CP-System.
 
3.2 解析時間の高速化
 本シミュレーションプログラムでは逐次有限要素解析によりき裂伝播挙動を推定する。以前は有限要素解析にバンドマトリックス法によるプログラムを用いていたが、本シミュレーションプログラムではき裂伝播領域の周囲にスーパーエレメントを結合するため、バンド幅が広くなる場合が多く、計算が非効率的であった。そこで連立一次方程式の求解にバンドマトリックス法よりも計算効率が良く、構造解析で広く使われているスカイライン法を適用し、プログラムを高速化した。
3.3 解析例
 解析例としてFig. 7の単軸一様引張荷重を受ける2つのき裂先端を有する3次元板組み構造について疲労き裂伝播シミュレーションを行った。Fig. 8にき裂伝播領域でのメッシュ分割図(20ステップ目)、Fig. 9に応力拡大係数の変化を示す。Fig. 9にはMSC. Nastranの特異要素CRAC2D13)を使用して得られた解析結果も同時に示してある。本シミュレーションプログラムにより十分妥当な結果が得られていることがわかる。Fig. 10に有限要素解析にスカイライン法を適用した場合とバンドマトリックス法を適用した場合の総計算時間、Fig. 11に20ステツプ目(自由度数:4,294,バンド幅:4,087)での計算時間の内訳をそれぞれ示す。計算にはDELL製PC(Precision 530, インテル(R)Xeonプロセッサ2.4GHz)を使用した。プログラムにスカイライン法を適用したことで連立一次方程式の求解に要する時間が大幅に減少し、総計算時間は以前の1/10以下になった。
 
Fig. 7  A cracked 3-dimensional angled panel structure subjected to uniaxial tension.
 
Fig. 8  Finite element in the crack propagation zone.
 
Fig. 9 Variation of stress intensity ranges.
 
Fig. 10 Comparison of total calculation time.
 
Fig. 11  Comparison of calculation time
(detail of the 20th step).


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