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3. ヒステリシスループによる疲労き裂伝播挙動の考察
3.1 一定振幅荷重の場合
 Fig. 5は一定荷重振幅の繰返しによる疲労き裂伝播の試験結果である。ただし,Fig. 5(a)は,疲労き裂伝播に伴い,き裂先端に得られたヒステリシスループの推移の一部を示したものである。疲労き裂伝播の初期段階では,切欠きの幅が0.1mmである切欠き底で,小さな荷重で降伏が起こるため,PRCPGに対してPRPG,Pcl,PCFが低荷重域に存在する。この場合には,ヒステリシスループtailがFig. 5(a)(1)のように形成しない。PRPG,Pcl,PCFが上昇するにつれて,ヒステリシスループtailがFig. 5(a)(2)のようにしだいに大きくなり,PRCPG,PRPG,Pcl,PCFがそれぞれ一定値に安定すると,ヒステリシスループtailがFig. 5(a)(3),(4)のように明確になり,き裂が定常状態で伝播するようになる。しかし,最終段階では,PRCPGが上昇しPRPG,Pcl,PCFが低下して,き裂先端がFig. 5(a)(5),(6)のように除々に閉口しなくなり,き裂伝播速度が急増する。これは,き裂が大きくなりリガメントが小さくなると,き裂全体が大きく開ロするため,除荷過程ではき裂が閉口しにくくなるものと考えられる。ヒステリシスループtailの大きさの変化は,Elber1)が述べているように,き裂が進展するにつれてき裂表面に残留する引張変形層の影響によるものと考えられる。
 
Fig. 5 Results of constant amplitude loading test
(a)  Change of hysteresis loops in fatigue crack propagation
 
(b)  The relationship between loads and fatigue crack length
 
3.2 スパイク荷重載荷の場合
 Fig. 6は,一定振幅の繰返し荷重中にスパイク荷重を負荷する疲労き裂伝播の試験結果である。ただし,Fig. 6(a)は,スパイク荷重を4回目(図(b)中のD時点)負荷した直前,直後のヒステリシスループの変化状態であり,Fig. 6(b)は,微分法によって算出した各変曲点荷重とき裂長さの関係を示したものである。これらの図から,スパイクDを負荷する直前に,疲労き裂伝播速度は一定振幅荷重下における同じ時期のレベルに回復すると,ヒステリシスループの様子も一定振幅荷重下における安定進展時期の結果と同じであることがわかる。しかしながら,スパイクDを負荷した時点に,ヒステリシスループtailがFig. 6(a)(2)のように消失し,PRPG,Pcl,PCFが一旦低下してき裂が加速する。これは,過大引張荷重によりき裂先端近傍において大きい引張塑性変形が生じて,き裂先端が開ロし易くなるためであると考えられる。しかし,その後,Pclが除々に高い荷重域まで上昇し,ヒステリシスループtailがFig. 6(a)(3),(4),(5),(6)のように除々に大きくなり,き裂がしだいに減速する。これは,過大荷重時に生じた大きな塑性変形域をき裂が進展する結果,き裂表面に厚い残留引張塑性変形層が形成されて,き裂が閉口し易くなるためであると考えられる。したがって,ヒステリシスループの推移およびヒステリシスループtailの変化により,スパイク荷重載荷後の遅延現象が推察できることが明らかとなった。
 
Fig. 6 Results of spike amplitude loading test
(a)  Change of hysteresis loops in fatigue crack propagation
 
(b)  The relationship between loads and fatigue crack length
 
3.3 ブロック荷重載荷の場合
 Fig. 7は,ブロック状に振幅を変化させた疲労き裂伝播の試験結果である。ただし,Fig. 7(a)は,段階ごとのある箇所(図(b)中のひし形矢印)で計測したヒステリシスループを示したものである。A段階は試験条件が同じ一定振幅荷重試験の結果と同じである。B段階で最大荷重Pmaxを30kNまで上昇させると,PRPG,Pcl,PCFが一旦低下してき裂が加速する。この現象はスパイク荷重を負荷した直後の状況と同じである。その後,き裂が進展するにつれてき裂表面の残留引張変形層が厚く,き裂が閉口し易いために,PRPG,Pcl,PCFが上昇し,定常状態になる。C段階及びE段階では,PRCPG〜Pclが縮小し,ヒステリシスループtailがFig. 7(a)(3),(5)のように長くなる。これは,B段階でき裂先端に形成された大きい引張変形域を通過しておらず,き裂が閉口し易くなっているために,き裂が減速するものと考えられる。D段階ではPmaxがC段階の」PRPGに近づいて,PRCPG〜Pclがほとんど0となり,低応力振幅となってき裂先端はFig. 7(a)(4)のように弾性変形のみとなり停留状態になるものと考えられる。F段階では,Pmaxの増加に伴い,PRCPGが上昇しPRPG,Pcl,PCFが低下して,ΔPRPGとΔPRCFが拡大することから,き裂が再び加速することがわかる。
 
Fig. 7 Results of block amplitude loading test
(a)  Change of hysteresis loops in fatigue crack propagation
 
(b)  The relationship between loads and fatigue crack length
 
3.4 Kth試験の場合
 Fig. 8は,ブロック状に振幅を変化させたKth試験の結果である。ただし,Fig. 8(a)は,Kth試験におけるいくつかの段階のヒステリシスループを示したものである。Fig. 8(a)(1)では試験条件が同じ一定振幅荷重試験の初期結果と同じ形である。しかし,Pminが逐次上昇するに伴い,ヒステリシスループがFig. 8(a)(2),(3),(4),(5),(6)のように小さくなると,ヒステリシスループtailも除々に消失する。また,Fig. 8(b)より,荷重振幅が小さくなると,PRPGがPmaxまでに,PclがPminに漸近し,き裂が減速して停留することがわかる。これは,Pmaxを一定に保った状態で,き裂表面に形成された残留引張塑性変形層の厚さがほぼ同じであるため,Pminが高荷重域まで逐次上昇するにつれて,その除荷過程中では,き裂が閉口するまでに荷重がPminに達して,ヒステリシスループtailが消えるような減速現象を表すものと考えられる。しかし,前履歴段階の除荷弾性域まで最小荷重が上昇すると,その後の負荷過程では弾性状態にあるき裂の開口もあまり大きくならず,停留中のループの開ロは非常に小さい。この特徴はブロック荷重試験と同様の結果である。したがって,き裂が進展するためには,き裂先端に十分な圧縮塑性域が形成される必要があることが明らかとなった。
 
Fig. 8 Results of Kth test
(a)  Change of hysteresis loops in fatigue crack propagation
 
(b)  The relationship between load and fatigue crack growth data


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