日本財団 図書館


3.2.2 船尾変動圧力計測
 プロペラによる船尾変動圧力の計測結果をFig. 7a、7bとTable 7に示している。図表中のKpz、Kp2z、Kp3zは船尾変動圧力振幅の1次、2次、3次翼振動数成分をρn2D2で無次元化したものであり、Fig. 7a、7bはKpzの前後方向と左右舷方向の分布をTable 7はプロペラ直上付近の振幅の最大値を示している。
 プロペラ直上付近の最大振幅で比較すると、PNO.(A)と比較して、PNO.(B)は約30%増、PNO.(C)は約13%減となっている。PNO.(B)の1次の変動圧力が増えたのはシートキャビテーションの発生範囲が広くなったことと、前縁をほぼ直線にしたことにより、スキュー量がPNO.(A)の約1/3に減少したためスキュー効果が小さくなったためと思われるが、TVCはとくに強いわけではないので、高次成分が大きくなったのは予想外の結果であった。そしてPNO.(C)が減ったのは、翼先端付近のレーキのためキャビテーションが前後方向に分散したことと、バースティングの位置も前後方向にずれたことが原因と思われる。またFig. 7a、7bでも変動圧力の大きさの順番はPNO.(B)>(A)>(C)とTable 7と同様の結果となった。
 
Table 7 Amplitude of fluctuating pressure
PNO. (A) (B) (C)
Pressure amplitude Kpz 0.0392 0.0509 0.0351
Kp2z 0.0308 0.0343 0.0293
Kp3z 0.0303 0.0453 0.0228
 
Fig. 7a  Distribution of fluctuating pressure amplitude
 
Fig. 7b  Distribution of fluctuating pressure amplitude
 
4. 結言
 前縁はく離渦キャビテーション、シートキャビテーションとTVCおよびそれらのバースティングなどの軽減を期待して設計したSLEP(PNO.(B))とBTRP(PNO.(C))を用いて、基準プロペラ(PNO.(A))と比較模型実験を行い、プロペラ単独性能試験より次のことを確認した。
(1)PNO.(B)のスラスト係数、トルク係数はPNO.(A)、(C)と比較してプロペラ設計点で10%ほど小さい。また、プロペラ効率はPNO.(A)、(C)より1.5%良い結果であった。
(2)PNO.(C)はPNO.(A)とほとんど単独性能の差がなかった。
 PNO.(B)の単独効率については、3種の理論計算結果(LST、SQCM、LBT)とは異なる傾向を示しており、さらにCFD計算等を含めた、より詳細な調査が必要と考えられる。
 さらに伴流中のキャビテーション試験により次のことを確認した。
(3)今回設計したプロペラは、スキュー角がそれほど大きくないために前縁に沿って翼先端方向に成長する前縁はく離渦キャビテーションは観察できなかったが、いずれのプロペラともにシートキャビテーションがTVCに巻き込まれる様子が高速度ビデオカメラなどで確認できた。
(4)基準プロペラ(PNO.(A))では、とくに問題となるキャビテーション挙動は見られなかった。
(5)SLEP(PNO.(B))では2つのキャビテーションの流れが見られた。まず、翼先端付近ではシートキャビテーションの一部がTVCに巻き込まれた。一方、シートキャビテーションの大半は内向きに流れて、TVCとつながった状態でTVCのバースティングと同時に0.6〜0.7Rの翼面上で消滅した。その消滅により0.6〜0.7Rのr/Rを示すマジックの一部が試験中に消えた。
(6)BTRP(PNO.(C))のキャビテーションは基準プロペラ(PNO.(A))とほとんど見た目では変わらなかった。しかし0.9〜0.95Rの翼後縁をたたくようにシートキャビテーションとTVCがっながった状態で消滅し、翼後縁のアルマイト加工がはがれた。
(7)船尾変動圧力は、基準プロペラ(PNO.(A))と比較してPNO.(B)は約30%増、PNO.(C)は約13%減の結果であった。
 以上の結果から、SLEPについてはプロペラ単独効率向上が期待されるものの、キャビテーションエロージョンの危険性と船尾変動圧力が増加する。またBTRPについては、高次を含めた船尾変動圧力の軽減が期待されるが、0.9R後縁付近でエロージョンが発生する危険性があり、実用化に向けてはこれらの課題を詰める必要があると考えられる。
 
謝辞
 高速度ビデオカメラを用いたキャビテーション試験では、石川島検査計測株式会社の関根洋様と丸山尚一様に全面的な協力を頂きました。ここに御礼申し上げます。
 
参考文献
1) G.Kuiper: New Developments Around Sheet and Tip Vortex Cavitation on Ships' Propellers, Fourth International Symposium on Cavitation, California Institute of Technology, Pasadena. USA (2001).
2)山崎正三郎, 石原泰明:スキュー分布の異なる可変ピッチ式サイドスラスタの性能(第1報:サイドスラスタ単独性能), 日本造船学会論文集, 第187号(2000), pp.33-39.
3)山崎正三郎, 石原泰明, 板谷芳樹:スキュー分布の異なる可変ピッチ式サイドスラスタの性能(第2報:キャビテーション性能と翼応力), 日本造船学会論文集, 第188号(2000), pp.105-110.
4)山崎正三郎:非線形定常プロペラ揚力面の数値解法とその応用例, 西部造船会会報,第62号(1981), pp.47-68.
5)安東潤, 毎田進, 中武一明:簡便なパネル法による定常プロペラ性能解析, 日本造船学会論文集, 第178号(1995), pp.61-69.
6)Su Yumin, 池畑光尚, 甲斐寿:A Numerical Method for Designing Three-Dimensional Wing Based of Surface Panel Method, 日本造船学会論文集, 第182号(1997), pp.39-47.


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION