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3.3 風の条件
3.3.1 風速の境界層影響
 従来、船の航行を考える際の外乱としての風は、暗黙の内に鉛直方向に一様な風速を仮定していたと考えられる。しかし、実際には海面粗度の影響により大気境界層が存在し、高さにより風速差を持つ流れである。実海域での海象を可能な限り再現するため、ここでは鉛直風速分布の影響を計算に反映させる。
 真風速UTの鉛直分布は一般的に用いられる高さzに依存した次式のべき分布で表現する。
 
 
 Urは基準高さz1での風速であり、一般的に利用されるz1=10mとする25)。べき指数αは海面の状態に依存したパラメータである。穏やかな海象で風速10m/s時のαを0.10、台風等で風速30m/s時のαを0.167と仮定し25)、αは風速を変数とした次の1次式で表現する。
 
 
 風速とαの関係から決定される風の鉛直分布を大型客船とPCCの平均船体高さHLと比較しFig. 9に示す。代表値としてUrが風速10、20、30m/s時の風の鉛直分布を図示する。「BN」はBeaufort風力階級である。10m高さを基準としているためそれよりも高い船体は風速Urより速い風に遭遇する。
 
Fig. 9  Wind velocity profiles with Beaufort number (BN) and power law parameter α, compared with the averaged height HL of large passenger ship (LPS) and PCC
 
 風速、風向角の変動については、平均風を中心とした正規分布をあてはめることができる25)26)。また、変動の度合いに関して桑島ら26)により1観測地点における風速約10m/sまでの風速と風向角の標準偏差が示されている。その結果では平均風速の増加に伴い相対的に風速変動の割合が急激に小さくなる(参考までに外挿により計算を行うと平均風速20m/sで風速の標準偏差は約1.5m/s、風向角の場合は3.3度)。平均的な風による影響を考えた場合、変動影響を考慮した風速・風向角の補正分は小さいと言え、ここでは風の変動が無い定常風を想定する。
 
3.3.2 代表風速の設定
 Fig. 10の座標系により絶対座標系での真風速Urが、速度U、偏角βで航行中の船体に対して角度ψで入射するとき、船の前後方向、横方向の相対風速ux、uyは次式となる。
 
 
 したがって、相対風速UA及び相対風向角ψAは、次式により求まる。
 
 
Fig. 10  Relative wind velocity for steady cruising ship
 
 一方、Blendermann27)は鉛直風速分布形状に依存した動圧qrの補正式を次式のように提案している。
 
 
 ここで、qHL、qM及びkqは次式で示される。
 
 
 kqは平均高さHLまでの平均動圧qMとHLでの動圧qHLの比に依存した実験定数である27)。ここでは実験結果を2次式で近似した。
 無風時に船が航行することにより遭遇する相対風は鉛直方向に一様な風である。そのときの動圧をqSとすると、最終的に鉛直風速分布の影響を考慮し、一定風速下で船体に作用する動圧qAは(23)式を書き換え、以下のようになる。
 
 
 ただし、
 
 
 代表相対風向角ψAは高さHLでの真風速Ur(HL)及び船速Uを用いて求めた値を計算に用いる。
 本方法は、大気境界層を模擬した上下速度差のある風は等価な一様風に変換した上、船が航行することにより生ずる風との足し合わせを行っている。実際の海域で理想的な状態を考えた場合、追い風から横風の状況下において上側と下側で風速が逆になる場合や風向が高さによって異なるねじれ現象が想定される。本研究では海上における風の境界層の実態が必ずしも明らかでないことからこのような現象がおよぼす影響を詳細には検討していない。しかし、風速の遅い場合は、境界層による上下風速差が小さく、強風下では相対的に船速の影響が小さくなるため、結果として、最も影響が大きいと考えられる傾斜モーメントについてもその影響は顕著ではないと思われる。
 一様風と風の鉛直分布を考慮した場合の代表風速、相対風向角の差違については付属書に示すが、風が強くなればなるほどその影響は顕著になる。


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