4. 水槽試験結果
Fig. 4にアウトリガー配置を変化させた場合の斜航試験結果を示す。X'Hは単胴船の全抵抗だけが低く線が離れているものの,アウトリガー配置が異なる3つの三胴船の結果は似たようなものとなっている。このX'Hには直進時の抵抗成分が含まれていることに注意が必要である。Y'Hは同一の斜航角において単胴船の絶対値だけが小さく,3つの三胴船の結果は似たようなものとなっている。三胴船の場合には,アウトリガー自身が発生する揚力成分が付加されるものとなるため,単胴船よりも値が大きくなる。N'Hかは同一の斜航角においてTri-Aの絶対値だけが小さく,単胴とその他の三胴船(Tri-M,Tri-F)の結果は似たものとなっている。船尾部に配置されたアウトリガーに作用する横力は,モーメントレバーの関係で,回頭モーメントの絶対値を減少させる方向に作用する。これが,Tri-Aの回頭モーメントだけが小さい理由である。
Fig. 4 Comparison of oblique towing test results
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CMTで計測された主船体に作用する前後力,横力,ミドシップ周りの回頭モーメント係数  ,  ,N' HをFig. 5に示す。  ,  は次を意味する。
 ,  には,r'≠0のとき,模型船の質量ならびに付加質量の影響が混入することに注意が必要である。
得られた結果は,(4)式で表される表示に従い,操縦流体力微係数を求めた。Table 3に得られた操縦流体力微係数の比較を示す。また,Figs. 4,5には,微係数表示の精度を確認すべくfittingの結果が点線で記載されている。Table 3から,線形微係数について次のことが分かる。Y'βは単胴から三胴船,Tri-FからTri-Aの変化に対し値が大きくなる。Y'r-m'xは単胴から三胴船,Tri-FからTri-Aの変化に対し絶対値が小さくなる。N'βは単胴から三胴船,Tri-FからTri-Aの変化に対し値が小さくなる。N'rは単胴から三胴船,Tri-FからTri-Aの変化に対し絶対値が小さくなる。単胴から三胴船,Tri-FからTri-Aの変化に対して,斜航運動モードによる着力点(N'β/Y'β)は小さくなり,旋回運動モードに関する着力点N'r/(Y'r-m'x-m')は,単胴および三胴船とも同程度の値となる。その結果,斜航運動モードによる変化が効いて,単胴から三胴船,Tri-FからTri-Aの変化に対して,針路安定性が改善される方向に変化する。船尾位置に設けたアウトリガーは,単胴船の船尾に装着したスケグのような役割を果たしていると考えられる。
Table 3 Comparison of hydrodynamic derivatives
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Mono |
Tri-F |
Tri-M |
Tri-A |
X’ββ |
-0.0388 |
-0.0573 |
-0.0527 |
-0.0445 |
X’rr |
-0.0216 |
-0.0236 |
-0.0205 |
-0.0345 |
X’βr-m’y |
-0.0453 |
-0.0320 |
-0.0432 |
-0.0557 |
Y’β |
0.1821 |
0.2199 |
0.2301 |
0.2507 |
Y’r-m’x |
-0.0334 |
-0.0185 |
-0.0173 |
-0.0018 |
Y’βββ |
2.0372 |
2.5219 |
2.5449 |
2.0527 |
Y’ββr |
-1.4955 |
-1.6313 |
-1.1901 |
-0.5703 |
Y’βrr |
0.2678 |
0.2572 |
0.2160 |
0.3355 |
Y’rrr |
-0.0833 |
-0.1583 |
-0.1333 |
-0.0250 |
N’β |
0.0957 |
0.0851 |
0.0895 |
0.0663 |
N’r |
-0.0126 |
-0.0125 |
-0.0109 |
-0.0089 |
N’βββ |
0.4325 |
0.4749 |
0.3806 |
0.3355 |
N’ββr |
-0.4717 |
-0.4356 |
-0.5207 |
-0.6877 |
N’βrr |
0.0039 |
0.0285 |
0.0554 |
-0.0011 |
N’rrr |
-0.0417 |
-0.0500 |
-0.0583 |
-0.0583 |
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fig. 5 Comparison of circular motion test results
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5. 実機の操縦運動シミュレーション
5.1 シミュレーション計算の概要
得られた操縦流体力微係数を使って,三胴船の操縦運動をシミュレートする。想定した実機の三胴船の主要目をTable 4に示す。水槽試験に用いた船を単にスケールアップしたものである。Monohullは三胴船(Trimaran)の主船体部をとりだしたものである。
操縦運動は,先に述べた運動方程式をルンゲ・クッタ法で数値的に解いて求めた。Table 5に微係数以外のシミュレーション計算で用いた係数等を示す。計算に必要な付加質量係数(m'x,m'y,J'zz)は元良チャートの結果をベースとした推定値である。Kzzは旋回に関する慣動半径であり推定値である。
Table 4 |
Principal dimensions of trimaran and monohull in fullscale |
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Trimaran |
Monohull |
lenght (Lpp) |
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100.0m |
100.0m |
max. breadth (Bmax) |
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40.0m |
12.5m |
draft (T) |
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3.5m |
3.5m |
displacement (Δ) |
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1775.9ton |
1664.6ton |
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Table 5 |
Coefficients and values used in maneuvering simulations |
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Mono |
Tri-F |
Tri-M |
Tri-A |
m’x |
0.0009 |
0.0010 |
0.0010 |
0.0010 |
m’y |
0.0821 |
0.0943 |
0.0943 |
0.0943 |
J’zz |
0.0093 |
0.0098 |
0.0101 |
0.0110 |
XG/L |
-0.0432 |
-0.0408 |
-0.0502 |
-0.0604 |
Kzz/L |
0.250 |
0.254 |
0.257 |
0.266 |
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Water Jet推力は,Fig. 6に示すような特性を持つと仮定した。直進航行時のWater Jet推進器の推力は1基あたり約23tonであり,それを2基装備しているものとした。抵抗性能については,先に報告した結果1)を用いた。そのとき,単胴船,三胴船の直進航行時の船速は,Table 6に示す通りであった。船長をベースとしたフルード数で,約0.40〜0.44となる。このフルード数レンジでは,Tri-Aの剰余抵抗が大きく,最も性能が悪い。今回の流体力微係数の計測がFn=0.35で行われていること,Fn=0.65のような高速域での船の操縦運動計算法は未だ確立していないことから,ここではFn=0.4程度の船速を対象とすることとした。
Table 6 Initial speed for maneuvering simulation
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Mono |
Tri-F |
Tri-M |
Tri-A |
initial speed |
27.0kn |
26.2kn |
26.1kn |
24.4kn |
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Fig. 6 The water jet thrust curve assumed
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