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3 二重化立体ブロック内のヒューム拡散解析
3.1 ヒューム流動・拡散の解析モデル
 ヒュームは固気混相流であるが、一般に内業工場において労働安全上問題となるヒュームは極微細粒子なので、ヒューム拡散解析にはヒュームの存在により空気の密度と浮力が変化する気相流として取り扱い、解の安定性をも考慮して渦粘性(k-ε)モデルを用いた。計算には有限体積法を応用したSIMPLE法を用いた。
 なお、乱流拡散解析については、第1報の付録“換気流に関する乱流熱・ガス拡散解析”において詳述している2)
 
3.2 計算モデルと計算条件
(1)解析モデルと計算条件
 内業工場内では溶接ヒューム濃度が最も高くなる二重化立体ブロック内を対象として解析を行った。解析空間は計測を行った二重化立体ブロック(Fig. 2)をFig. 3のように模している。なお、数値解析では(60×40×20)の等間隔差分格子を用いた。
 解析条件として二重化立体ブロック内の隅2ヶ所(A点およびB点)で溶接作業中であるとし、その総発熱量を7200Wおよび溶接ヒュームの総発生量を1.35×10-2(mg/sec)と仮定した。また、空気密度を1.225(kg/m3)、ヒューム密度を1.274(kg/m3)とした。
 
Fig. 3 Geometry of cubic block for calculation
 
(2)解析の妥当性について
 二重化立体ブロック内における溶接ヒューム濃度の水平方向分布の計測結果および計測に対応した解析結果をFig. 4に示す。解析結果は計測結果の一部を除いてほぼ一致している。この比較により、渦粘性(k-ε)モデルを用いた3次元乱流熱・物質拡散による数値解析法は二重化立体ブロック内における溶接ヒューム拡散の様相を定量的には無理でも定性的には把握でき、種々のヒューム低減対策とヒューム濃度の関係を明らかにできるものと判断した。
 
Fig. 4  Distribution of fume concentration along three measuring lines
 
 なお、参考として、溶接作業点がA点からブロック奥に向かって速度0.6m/secにて移動する場合について解析し、その気流速分布およびヒューム濃度5.0mg/m3以上の拡散状態をFig. 5を示す。この例では、溶接点より上昇したヒュームは天井に沿って流動し、それに伴って対流域が拡大して250秒程度でブロック内全域がヒューム濃度5.0mg/m3以上のエリアに覆われている。
 
Fig. 5  Variation of fume concentration and flow pattern as time proceeds
 
3.3 立体ブロックの基本解析モデル
(1)ヒューム低減対策なしの拡散状態
 二重化立体ブロック内における溶接ヒューム濃渡の低減のための改善対策とその効果について調べるために、その基本解析モデルとしてFig. 3に示すブロックを用い、この区画の隅1ヶ所(A点)にて溶接作業をしている状況を3.2と同じ条件にて計算した。
 基本解析モデルにおけるヒューム濃度拡散の解析結果を濃度5.0mg/m3と60mg/m3超の拡散域に分けてFig. 6に示す。これによると、ヒューム濃度が許容濃度5.0mg/m3を超えるエリアは約2分後には溶接点の反対側の壁にまで広がっており、約3分で区画内全体が許容濃度を超えるヒュームで満たされている。また濃度60mg/m3以上のヒューム域が溶接点上部の天井に滞留する現象が見られる。
 
Fig. 6  Diffusing aspect of welding fume in basic block model with no measures
 
(2)溶接点移動による拡散状態の差
 実際の溶接では、ヒュームの拡散速度に比べると遅い速度ではあるが溶接点は移動している。そこで、溶接点の移動による溶接ヒュームの流動拡散に対する状態の差異を調べるために、溶接点の移動速度を与えて解析を行った。なお、解析条件は溶接点の移動を除いて全て基本解析モデルと同じである。溶接点の移動速度は、解析時間の4分前後に移動する溶接範囲を換算溶接長から0.48m〜0.95mと推定し、解折では4分間の溶接点の移動距離を多めの1.0mとした。
 その解析結果をFig. 7に示すが、ヒューム濃度が許容濃度5.0mg/m3超えるエリアの拡散状態は基本解析モデルの解析結果Fig. 6とほとんど様相が一致している。以上のことから、労働環境の改善を考察する上で溶接点の移動による影響は少ないと考え、以降の解析では溶接点を固定して解析を行った。
 
Fig. 7  Diffusing aspect of welding fume considering movement of welding work in basic block model


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