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4.3.3 一様流速のみ
 Fig. 12に一様流速U0(=0.03m/s)のみを発生させた実験(TExp2)の渦励振の時系列YA〜YE及びその円振動数に関するFFTの結果、またFigs. 13に一様流速U0(=0.02, 0.03, 0.04m/s)を発生させた場合のある時刻におけるY-Z平面での弾性管模型の運動形状を示す。
 Fig. 12に示されるように、弾性管模型を曳航する事により一様流速U0(=0.03m/s)のみを発生させた場合、実験結果から得られた渦励振の円振動数ωのピーク値は1.58rad/secであった。この値はTable 1に示されている近似的に求められた模型の固有振動数の2次モード1.308 rad/sccに近く、固有振動数とのlock-inが生じている事が分かる(Fig. 13b)。
 またFig. 13aより、一様流速U0が0.02m/sの場合、模型は1次モード、そしてFig. 13cより一様流速が0.04m/sの場合は2次モードで振動している事が分かる。従って、実験に用いた弾性管模型は一様流速U0=0.03m/sのみでは2次モードの振動が励起され易いと考えられる。Exp1〜8及びExp17〜24で発生させた一様流速はこのU0=0.03m/sである。
 
Fig. 12  Time histories of transverse motion and its FFT response (TExp2, U0=0.03 m/s)
 
Fig. 13  Configuration profiles of the model in Y-Z plane
 
4.3.4 上端不規則運動(一様流速あり)
 Figs. 14に一様流中で上端不規則運動を行う弾性管の上端の主運動方向時系列X0と代表計測点A〜Eにおける渦励振の時系列YA〜YEの実験結果及び数値計算結果を示す。
 同図において、上端不規則運動のみの場合と比較すると、振動振幅が大きくなっている事が先ず分かる。
 また、数値計算結果は実験結果と比較して短い周朔の振動は似ているが、実験結果には短周期の振動に加えて長周期の動揺が発生している。数値計算結果ではそのような長周期の動揺を励起する外力が考慮されていない為、特に下端部付近で両者の結果に差が現れている。
 振動周波数帯での比較として、Figs. 15に渦励振のパワースペクトラムを示す、Fig. 15a、bの実験結果を見ると、Fig. 12で示した一様流のみを発生させた場合に、卓越していた振動数(ω=1.58 rad/sec)にピーク値が見られない、従って、一様流速中であっても上端が不規則運動を行っている場合、渦励振は固有振動数とのlock-inを生じにくい事が分かる。
 
Fig. 14a  Time histories of transverse motion (Exp17)
 
Fig. 14b  Time histories of transverse motion (Exp21)
 
Fig. 15a  Power spectrum of the transverse motion (Exp17)
 
Fig. 15b  Power spectrum of the transverse motion (Exp21)
 
 また、実験結果を見るとExp17では0.77 rad/sec、Exp21では0.46 rad/sec付近といった低周波域(長周期)の運動が発生している事が分かる。このような長周期の動揺は、複雑な非線形現象が原因であるとされているが、結論はいまだ得られていないと考えられる。本研究における実験結果の渦励振時系列の図(Fig. 14a、b)を見ると、主運動の方向が変わる時に発生しているように見られるが、現段階において主原因については明確に説明する事は出来ない。一様流速を発生させず、模型上端に同様の不規則運動を与えた実験結果のFig. 11a、bと比較すると、このような長周期の動揺の大きさは不規則運動のみの場合よりも大きく、本数値計算法ではこのような長周期の動揺が考慮されていない為、一様流速中における不規則運動の場合、発生し得る渦励振の予測結果は実験結果よりも小さく、一致は良くない。
 本研究で使用している弾性管の挙動を表す数学モデルは、弾性管の傾斜角は小さいとし、張力の動的変動成分による影響は小さいとして無視している為、弾性管上端の運動加速度が極端に大きい場合の誤差は大きくなる。また、長周期の動揺については、その発生原因に関しては張力変動と密接な関係がある事は推測可能であるが、まだ明確な答えはない。従って、本研究で提案する渦励振の計算モデルの適用限界を定量的に示す為には、弾性管上端に与える運動条件を更に細分化した実験を行う必要があると考えられる。
 
5. 結言
 一様流中で上端強制動揺運動を行う弾性管に励起される渦励振の理解を深める為、模型実験を行った。再現性を考察する為、同実験条件で各4回の計測を行った。実験結果の解析及び数値計算結果との比較により、次の結論を得た。
1)弾性管の上端が規則運動を行う場合、発生する渦励振は規則的となり、再現性が強い事が分かった。また上端が不規則運動を行う場合、時系列で見ると渦励振の振動方向が逆となる時刻もあるが、上端が同じ不規則運動を行った場合に発生する渦励振の振動振幅及びその周期には再現性がある事が分かった。
2)主運動方向に関して、本数値計算法は弾性管上端の運動が規則・不規則に関わらず、また一様流速の有無に関わらず適切な予測結果をもたらす。
3)渦励振に関して、本数値計算法は弾性管模型上端が不規則運動を行う場合、発生する渦励振の振動周波数に関しては妥当な予測結果をもたらす。しかし、一様流速中において弾性管模型が不規則運動を行う場合、実験結果には模型の下端側で比較的長周期の運動発生し、現在の計算法ではこれを予測する事はできない。
 
謝辞
 本研究は文部科学省科学研究費によって行われました。また本研究の遂行にあたっては、海洋研究開発機構宮崎剛氏、海上技術安全研究所田村兼吉氏から多くの有意義な助言とご支援を頂きました。また実験においては、九州大学技術職員である稲田勝氏の御協力を頂きました。上記の関係者の方々に、深く感謝申し上げます。
 
参考文献
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