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4.2 シングルハルVLCC
4.2.1 解析モデル
 つぎに実船の解析例として,Fig. 14に示すシングルハルVLCC(L×B×D=315.0m×57.0m×30.8m)16)の縦曲げ逐次崩挙動をISUMとFEMにより解析し,両者を比較する。Fig. 14には主要部材の寸法および材料定数を併せ示している。多数のパネルおよび防撓材から構成されるため,全幅モデルでは,FEM解析の規模が過大となる。一方,本解析ではISUMの精度検証を目的とすることから,船体中心線上の桁および防撓材を除いた半幅部に中心線上部材を取り付けたモデルを解析対象とする。曲げモーメントはサギングを対象とする。
 
Fig. 14 Mid-ship section of single-hull VLCC
 
 パネルの初期たわみは,最大たわみδPを次式により推定し,式(12)によりAl0を求める。
 
 
 ここで,tPはパネル板厚である。防撓材は,4.1.1のCase Aと同一とする。残留応力については,引張残留応力の作用域の幅を実船の標準的なすみ肉溶接の入熱量に基づく次式から推定する。f(mm)は溶接脚長,またΔQ(Cal/cm)は溶接入熱量を表す。
 
 
 Fig. 15に,ISUMによる要素分割図を示す。パネルの崩壊モードとして7半波を仮定し,図に示すようにスパン中央部(解析モデルの端面部)は1/2半波を1要素で,それ以外は1半波を1要素でモデル化して,1パネルを計8要素に分割する。節点数は1269で,要素数は板要素が1128,梁要素が1112である。ABAQUSによるFEM解析では,フリゲート艦モデルと同様,曲げの引張域では防撓材を等価なトラス要素でモデル化する。また矩形パネルを6×36要素,防撓材のウェブを深さ方向3要素,フランジを1要素でモデル化する。節点数は44,700,要素数はシェル要素が43,560,トラス要素が2,052である。
 
Fig. 15 ISUM element mesh
 
Fig. 16  Average-stress/average-strain relationships of stiffened plate in single-hull VLCC
 
4.2.2 防撓パネルの座屈・塑性崩壊解析
 Fig. 16に,デッキ部の防撓パネルについて,ダブルスパン・ダブルベイモデルを用いて得られた平均圧縮応力〜平均圧縮ひずみ関係を示す。溶接残留応力を考慮する場合としない場合のそれぞれを解析した。前者の場合のFEM解析にはULSASを使用した。
 残留応力の考慮する場合,しない場合のいずれの場合も,最終強度はISUMとFEMで良く一致している。最終強度後の挙動も比較的良い相関を示している。しかし,FEM解析では,最終強度を過ぎて耐荷力が低下した後,再度耐荷力の急減が見られるのに対し,ISUMでは,この現象は見られない。FEMにおける最初の耐力低下はパネルの座屈と防撓材の降伏によるものである。一方,2度目の低下は防撓材のトリッピングの発生によるものである。トリッピングは,防撓材が全体座屈の曲げ圧縮側となるスパン,すなわち,Fig. 2では左側スパンの中央部で発生する。比較的背の高い防撓材では,最終強度後の耐荷力を正確に評価するためには,トリッピングの評価が必要である。
 
4.2.3 縦曲げ逐次崩壊解析結果
 サギング状態に対する縦曲げ逐次崩壊解析により得られた曲げモーメント〜曲率関係をFig. 17に示す。またFig. 18に最終強度後の変形モードの例を示す。対象構造は,デッキ部が圧縮最終強度に達した時点で,縦曲げ最終強度に達する。最終強度はISUMとFEMで良く一致している。ただし最終強度後の耐力はISUMの方が全体に高い。これは上述のようにトリッピングを考慮していないことによる。しかしながら基本的には良好な精度の縦曲げ逐次崩壊挙動を解析できることが検証された。計算時間は,ISUMがFEMの約1/75であった。
 
Fig. 17  Bending-moment/curvature relationship of single-hull VLCC in longitudinal bending
 
Fig. 18 Collapse mode of single-hull VLCC
 
5. 結言
 本研究では,著者らが開発した防撓パネルISUMモデルを船体の縦曲げ逐次崩壊解析に適用し,実験結果およびFEM解析結果との比較よりその適用性を調べた。得られた主な結果は以下の通りである。
(1)従来のISUM板要素および防撓材要素を,溶接残留応力の影響を考慮できるよう拡張した。
(2)ISUMにより,残留応力を有する連続防撓パネルの座屈・塑性崩壊挙動を最終強度後の挙動を含めて精度良く解析できることを示した。
(3)ISUMにより,初期不整を有する船体横断面の縦曲げ逐次崩壊挙動を精度良く解析できることを示した。本論文の解析では,計算時間はFEMの約1/75であった。
(4)最終強度後の挙動の精度を高める上で, 防撓材のトリッピングの考慮が重要であり,今後の課題である。
 今後は, 3次元船体構造モデルにISUMを拡張すると共に,入出力部を整備し,実用システムに発展させる予定である。
 
謝辞
 本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(A)(2):課題番号16206085)の補助を受けていることを付記し,謝意を表する。
 
参考文献
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4)正岡孝治, 上田幸雄: 固有関数を用いた薄板構造物の弾塑性解析法−第2報 初期不整量を考慮した矩形板要素, 日本造船学会論文集, 第174号(1993), pp.439-445.
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14)Y. Ueda and T. Yao:The Influence of Complex Initial Deflection Modes on the Behaviour and Ultimate Strength of Rectangular Plate in Compression, J. Const. Steel Research, Vol 5 (1985), pp.265-302.
15)藤久保昌彦, 矢尾哲也, B.Varghese: 連続防撓パネルの局部座屈強度に対する諸因子の影響について, 西部造船会会報, 第97号(1999), pp.113-123.
16)矢尾哲也, 永濱信一, 藤久保昌彦: ダブルハルタンカーの縦曲げ最終強度に関する研究, 西部造船会会報, 第86号(1993), pp.183-198.


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